聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

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♰08 予知能力。

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 魔法訓練場の部屋の隅に、肩を並べて腰を下ろす。
 ルム様は自分の手を握り締めながら、語り出した。

「最初に死の予知を見たのは……子どもの頃だ。僕が些細な予知を見るから、近所の皆が自分の予知を見てとせがんできた。同じ年の友だちがいたんだ。男の子で、名前はサミー。……事故で死んだ。煉瓦が落ちてきて、不運にも頭に当たり、即死……」
「……それを見たのですね」

 今でもつらい記憶なのだろう。ルム様は、俯いて強張った。

「あの時も感情が昂って、それに……」

 声が震えている。

「怖かったでしょう……?」

 私は優しく声をかけた。
 ルム様は、重く頷く。

「……人の死が、怖くないわけないですものね。友だちなら、なおさら」
「っ……」

 ルム様が泣いた。そうだと思う。
 顔を両手で覆って、蹲ってしまったから。
 でも肩を震わせたままだ。
 その肩を慰めるように撫でる。
 少し待ってあげると、ルム様はまた口を開いた。

「父も占い師だった。よく自分よりも優秀な占い師になるはずだって、励ましてくれたんだ。だから、僕は占い師になった。でも……そんな父の死を予知してしまった……心臓の病気だ。胸を押さえて、苦しんで、倒れた……」
「……かける言葉がないです」
「……うん」

 涙を拭う仕草をする。

「僕は父の死の予知を見た……そして、実際に見たんだ。僕のこの左目で見た人の予知は、必ず僕が実際にそれを目にするらしい……サミーの時も、父の時も、そうだった。他もそう」
「じゃあ……遅かれ早かれ、さっき見た予知があなたの前で実現し、そして目にするのですね。大量の水と、私と、声?」
「そう……そうなんだ」

 私はコクコクと頷く。ルム様は見ていないけど。
 だから、ルム様の前に移動をする。

「では、教えてください。もう一度。見えた予知の内容を、詳しく。辛かったらごめんなさい」

 私の命に関わるから、詳しく聞かせてほしい。
 ルム様の手を取り、両方握った。

「……いいんだ」

 ルム様は深呼吸してから、教えてくれる。

「断片的に見たのは……水」

 必死に思い出すように、目を閉じながら。

「まるで水飛沫だった……空から降ってくる感じ」
「雨とは違う?」
「雨じゃない、大量の水だ。それから、そうだ、水色の空がちらっと見えたから、きっと外」

 外で水飛沫のような大量な水が降ってくる。

「それから君が見えた」
「私の表情は?」
「……わからない、水の向こうにいて……そうか、水に囲まれているんだ」

 水に囲まれている。さっきのような魔法か。

「君の声が聞こえた……気がする。僕は予知を見るから、音はわからない……。でも君が叫んでいるような、そんな気がするんだ」
「そうですか……わかりませんね。大量の水が私を囲い、声を上げる……。死の予知って感じではなさそうですが……」
「きっとそのあとで溺れ死ぬんだ……あ、ごめん」
「あ、大丈夫。全然実感も恐怖も感じてませんし、そうかもしれませんね」

 ルム様は不安げな目で私を見た。

「えっと……君は確か、聖女様とこの世界に来た異世界の人……?」
「はい。幸華です」
「コーカさん、魔法がない世界から来たと聞いたよ。だから、実感がない……予知能力なんて、信用出来ないよね」

 今更ながら、自己紹介。
 しょぼんと肩を下げた。

「信じますよ、ルム様の予知能力はグラー様も褒めていましたから。でも……」

 その言葉の続きは言えない。
 私がすぐ死ぬとは思えなかった。
 だって、第二の人生スタートしたばかりだし?
 それに真の聖女のはずだもの。

「考えられるなら、えっと……魔法で殺される?」
「そうか! それしか考えられない!」
「誰かに狙われる……?」

 思い当たるのは、偽聖女ことレイナ。
 ……まさかね。
 自分が偽物だって気付かれないために、手を打つかもしれない。

「だったら、阻止できる可能性がありますよ。殺そうとする人を捕まえればいいでしょう?」

 阻止できると聞くと、ルム様の目が希望が宿る。

「そうだね! よし! じゃあ、僕がその人を捕まえるよ!」
「え?」

 いきなり、ルム様が拳を固めて言った。

「ルム様が?」
「……僕じゃあ頼りない? そりゃ、僕は占い師で、魔導師ほどの魔法の腕はないけれど……身を守る術なら持っている!」
「あーいえ、えっと……」
「僕の目の前で予知が実現するから、僕がそばにいて、外にいる時だ。だから、僕が君を守る!」

 それから、私の手を握る。

「死の予知を見た責任を取らせて!」
「……」

 責任、か。
 別にいいのに。
 でも彼の言う通り、遅かれ早かれ目にしてしまうのだ。
 予知が実現する時、ルム様はいる。

「じゃあ、では……守ってください」
「うん、守る」

 こうして、私は占い師を護衛につけることになった。

 しかし、困ったことになる。
 ルム様がいては、魔法の練習が出来ない。聖女の全力の魔法が使えないのだ。
 そう言えば、レイナの魔法は普通と違ったりするのだろうか。聖女と違うってバレないのは、やはり明確な証がないからかも。

 翌日。ピティさんが部屋に来る前に、自分で髪をおさげ風に結んだ。使ったのは、メテオーラティオ様からの贈り物の髪ゴム。真っ赤な宝玉が綺麗。
 そう言えば、お礼を伝えないといけない。
 メテオーラティオ様にも、ヴィアテウス殿下にも。
 しかし、ヴィアテウス殿下には会いにくいだろう。王弟殿下だもの。
 会えたらお礼を伝える、って頭に入れておこう。
 ピティさんが、部屋の掃除に来た。外出することを伝えて、部屋を出る。
 とはいえ、城の外に出るだけだ。城の外には城壁があるのだけれど、迷路みたいな庭園があるくらいだから、水色の空は見える。
 広々としている空の下。ルム様がいれば、予知が実現するはず。
 魔法の本を読み、詠唱魔法の一つずつを暗記した。
 ルム様も隣で本を開いたけれど、注意深く警戒している。
 護衛としては頼りなく背中が丸まっているルム様をちらりと見ていれば、グラー様が歩み寄っていることに気付く。

「珍しい組み合わせですね」
「グラー様、こんにちは」

 声をかけてきたから、グラー様に挨拶をする。
 ルム様は、ぎこちなく会釈をした。

「……」
「昨日、知り合いになりました」

 ルム様が何も言わないものだから、私から話す。
 予知のことを、グラー様に話そうか。右隣のルム様を覗き込んだ。

「……えっと、グラー様」
「なんでしょう?」

 ルム様はちょっと躊躇しながらも、立ち上がってグラー様と向き合う。

「実は、事故でコーカさんの予知を見てしまったんです……危険です」
「ルム様が危険から守ってくれるそうです」

 死の予知だとは、口にしない。
 でも人物の死の予知も見れてしまうことを私に教えてくれたのは、グラー様だ。
 だから、顔を歪めて私を見つめる。

「詳しく教えてもらえますかな?」

 グラー様は腰を下ろすと、尋ねた。
 孫のように気遣ってくれる私を、心配するのも無理ない。
 断片的な予知のことを、ありのまま教えた。

「なるほど、そうでしたか……。では、あと数日待っていてください」

 グラー様は、そう言って私達から離れる。
 待っていて?
 どういう意味かわからず、二人で顔を見合わせた。


 
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