聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

文字の大きさ
12 / 26

♰12 お披露目。

しおりを挟む


「へぇ、面白い」

 私は思わず、声を洩らす。
 部屋のベッドの上で、グラー様から借りた新しい魔法の本を読んでいた。
 他人の侵入を拒む結界を張るためには、装置の代わりにムーンパールという石を置く必要がある。
 魔除けの効果を、発揮するのだ。
 結界魔法に適切なムーンパールの作り方も、親切に載せてあった。
 砕いた貝殻と特定の海の砂と月光と呪文が、あればいいらしい。
 ……いつか、材料を手に入れなければ。

「コーカ様。そろそろ準備をなさってください」

 ピティさんの声を耳にして、肩を竦ませる。

「……本当に行かなきゃだめですか?」
「グラー様がドレスを用意してくださったのですよ? 参加するべきです」

 私は目を回す。
 今日来た時にグラー様は、本と一緒にドレスも渡してくれた。
 今夜は、パーティーがあるらしい。この世界に来て一ヶ月が経ったそうで、ようやく聖女のお披露目をすることとなったそうだ。
 聖女のお披露目パーティー。
 じゃなくて、レイナのお披露目パーティーだ。
 うんざりしてしまう。嫌々ながらも、参加する。
 孫としてドレス姿を祖父に見せないといけない。かっこわらい。
 グラー様にドレス姿を見せて、それから壁の花になればいいのだろう。

「お願いします」

 ピティさんに、着せてもらう。
 パーティーにぴったりのプリンスラインのオフショルダードレス。
 スカートはふんわりと膨らみ、ウエストはキュッと引き締まっている。
 スカイブルーで、花柄が散りばめられているドレス。

「コーカ様はいい体型をしていらっしゃるので、もう少しウエストを締めてもいいですね。どうですか?」
「あ、大丈夫です。褒めてくれて嬉しいです」
「羨ましいですわ。髪は結いましょう。絶対ヴィアテウス殿下から贈られた髪飾りが似合いますよ」
「……そうですね、お願いします」

 ヴィアテウス殿下も、きっと参加をする。
 つけていなかった方が面倒な絡み方をされかねない。つけていこう。
 ピティさんは喜んで私の髪を結っては、青い宝玉の髪飾りを差し込んだ。
 スッピンでパーティーに出るわけにもいかないので、化粧もすでに施してもらった。

 今まで足を踏み入れたことのない城の中心であるパーティー会場に案内される。グラー様が待っていたので、一緒に入った。
 会場ホールの上には、金色のシャンデリアがいくつか吊るしてあり、白い光で照らしている。蝋燭ではないし、電気でもない。魔法のシャンデリアかしら。
 その下も、眩しいものだった。
 煌びやかなドレスや、宝石のアクセサリーの輝き。笑みを貼り付けて着飾っている人々が、眩しい。
 見ているだけで、満足な光景だ。
 しかし、参加する。私も、この人々の一員。緊張で、吐きそう。
 グラー様から離れない。絶対。ぴったり、くっ付いてやる。
 聖女ことレイナは、王冠を被った男性といた。髭を蓄えた白髪の男性は、国王陛下だ。そして腕を組んでいるのは、お妃様。
 レイナはそんな二人のそばで、にこやかに挨拶をしているようだ。聖女のお披露目パーティーなのだから、どうやら挨拶をするための行列が出来ているみたい。
 私なら引きつってしまう。笑みをずっと貼り付けて、私は聖女です、なんて言えない。
 遠い目をしていれば、国王陛下のそばには弟がいなかった。歳の離れた王弟殿下のヴィアテウス様。
 キョロキョロと会場を見回すが、どこにもいない。
 そこで、こちらに真っ直ぐ歩み寄るメテオーラティア様を見付けた。とてつもなく、不機嫌そうである。

「ご機嫌よう、メテオーラティオ様」
「……」

 グラー様のそばを離れないまま、ドレスを摘んで会釈をした。
 じっと見下ろしてくるメテオーラティア様も、着飾っている。黒のローブと宝石の装飾。ループタイは、深紅の宝玉。ローブの下は、タキシード。黒の革靴。
 ルビーレッドの瞳は、相変わらずだ。

「ご機嫌よう、コーカ」

 腰を曲げたかと思えば、メテオーラティオ様は私の手を取り、唇を押し当てた。

「……?」

 にこっ、と私は笑って、動揺を隠す。
 女たらしの仕草かしら。

「コーカ様も、気軽にメテと呼んでみたらどうでしょうか?」
「えっ?」

 グラー様が、そっと私の背中に手を置いて促す。

「メテも気軽に呼んでいるのですから、いいではないですか」
「……それもそうか」

 メテオーラティオ様は、グラー様にすんなり頷いて見せた。

「えっと、じゃあメテ様と呼んでも、いいんですか?」
「ああ」
「……メテ様」
「……」

 メテオーラティオ様と呼ぶのは、早口言葉のように楽しいけども、短く呼ぶ方が楽だ。
 ちょっと照れを感じながら、はにかんで呼んでみた。
 じっと、また見下ろしてくる。

「こんばんは、グラー様。メテオーラティオ様。そして、コーカさん」

 そこで話しかけてきた人物がいた。
 内心で驚く。
 腹黒王子……じゃなくて、トリスター殿下。白のタキシードで決めたキラキラ王子様な姿なのに、腰には剣を携えている。騎士みたいだ。

「こんばんは、トリスター殿下。コーカ様とお知り合いになっていたのですか?」
「ええ、この前、偶然。同じ城に住んでいるのですから、もう少し会ってもいいくらいですがね」

 グラー様が気さくな笑みを浮かべるトリスター殿下と話している間、メテ様から威圧感を向けられていた。わざと見ないけど、睨んでいるに違いない。

「素敵な髪飾りをしていますね、コーカ様」

 トリスター殿下の笑みが、私に向けられた。

「はい。これはヴィアテウス殿下からの頂き物で」

 私は口を滑らせてしまう。
 やらかした。
 メテ様からの威圧感が増す。
 グラー様も、トリスター殿下も、驚いたように眉毛を上げた。

「へぇ、叔父上が?」
「あ、えっと、お詫びに贈ってくださりまして……そう言えば、ヴィアテウス殿下の姿が見当たりませんね」

 誤解がないようにお詫びの品だと言いつつ、話題を変えようと心掛ける。
 すると、不思議なことに三人とも一斉に、隣にあったバルコニーに顔を向けた。というより、空を見上げたみたいだ。

「今夜は不参加ですね」
「?」

 空に何かあるのかと、私も一歩踏み出して見上げた。丸い満月が、夜空を淡く照らしている。
 変なの……。
 なんて思っていれば、グラー様が話題を振る。

「殿下、コーカ様に護身術を教えられる目ぼしい人材はいらっしゃいますかな?」
「護身術ですか?」
「はい、城壁の外に行かせるのはどうにも心配でして。護身術を身に付ければ、いくらかは心が軽くなると思いましてね」

 グラー様を見れば、また温かく見守る目をしていた。
 旅立つ前に、護身術を学ばせてくれようとしているのか。女の子の一人旅だなんて、おじいちゃんは心配でならないのだろう。
 私としても、剣術を学びたいと思っていたので、ついついトリスター殿下の腰の剣を凝視してしまった。

「剣を持ってみたいのですか?」

 その視線と合わせてきたトリスター殿下が、問う。
 コクコク。握らせてもらえるとばかり思い、興奮のまま頷いてしまう。

「では、我が部隊から教えが上手い者を選び時間を作りますね」

 にこり、と機嫌良さげにトリスター殿下は約束をしてくれた。

「ありがとうございます、トリスター殿下」
「ありがとうございますっ」

 グラー様に続いて、私は頭を下げてお礼を伝える。
 トリスター殿下は、騎士団を持っているらしい。なるほど、それで。剣を今も所持していることに納得した。
 グイッと喉に腕を回されて後ろに引っ張られたかと思えば、メテ様の仕業だ。むすっとした顔をしている。

「メテオーラティア様とそういう関係ですか?」

 クスクスと笑いながら、トリスター殿下は尋ねてきた。

「関係ないだろ、王子」
「相変わらず、着飾らない方ですね」

 王子相手に無礼なメテ様だったが、トリスター殿下はいつものことのように気にしていない。
 グラー様なんて、微笑ましそう。

「私は占い師のルム様と良い仲だとお聞きしましたが……?」
「単なる噂だ」
「おや、話題にしていれば……」

 トリスター殿下が顔を向けた先から、スミレ色の髪の青年が歩いてきた。ルム様だ。深い紫色のタキシードに身を包んだ彼は、トリスター殿下達に挨拶をすると、私と向き合った。

「……今日は、い、一段とお美しいです、コーカさん」

 じわり、と頬を紅潮させて、ルム様はそう褒めてくる。
「ありがとうございます」と軽く頭だけを下げておいた。
 ルム様はただ見つめてくる。見つめるだけで満足そう。純粋な人だ、と感心する。

「……!」

 顔を上げて、何げなくレイナの方に視線を向けると、こちらを見ていることに気付く。
 やば。
 レイナがすり寄っていた男性諸君に囲まれているところを見られてしまった。トリスター殿下とルム様のことだ。
 トリスター殿下が楽しそうに護身術や剣術について話してくれたので、そのまま聞くことになる。
 それからもずっと、レイナの視線が突き刺さっていた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...