11 / 26
♰11 告白。
しおりを挟む私の死は予知されていない。
いいことじゃないか。
ごめん、と謝ってルム様は、先に帰っていった。
私も自分の死を阻止することから、解放されたから、ピティさんやグラー様に教えようと部屋に戻る。
すると、部屋の前に、ピティさんが立っていた。
私を見るなり、ピティさんは早足で歩み寄ると、腕を掴んだ。
「何したのですか!?」
問い詰めるけれど、声をひそめている。
「えっと、何って?」
「しーっ! 彼がいるんですよ!」
声をひそめる理由は、どうやら彼が部屋にいるかららしい。彼って誰。
ピティさんが、ここまで動転しているのは……メテオーラティオ様? いやそれなら怯えるはずか。
推測はやめよう。扉を開けば、誰かわかるのだ。
居候とは言え、自分の部屋なので、ノックせずに扉を開く。
立っていたのは、煌めく金髪と青い瞳の王弟殿下。
開けた扉を反射的に閉めなかった私を、誰か褒めて。
「やぁ、コーカさん」
「ヴィアテウス殿下……あっ。お詫びの品、ありがとうございました。私っ、お礼を伝え忘れていましたね。どうかお許しください」
「そんな、謝らないで」
儚くも色気のある美しい男性であるヴィアテウス様は、微笑みを浮かべて歩み寄る。
「でも、つけていないね? 私が贈った髪飾り」
すっ、と手が伸びてきた。
私が二つに結んだ髪の一方に触れる。
「壊してはいけないと思い、いただいた日に一度つけただけです。大事にとっておいてます」
女性の扱いに慣れた仕草に、ピーンと背筋を伸ばしつつも、ヴィアテウス様のご機嫌をそぐわないように言った。嘘ではない。
「そうか……占い師ルムと仲がいいと耳にしたんだけれど、それとは関係ないと?」
何故、ヴィアテウス様もその噂を聞いたのだ。
噂怖い。
「……関係、ありませんね」
質問の意味がよくわからないと言いつつも、私はそう答えておく。
「さっき、見かけたよ。庭園の手前で、水の魔法で遊んでいたね」
私の漆黒の髪の毛を指に絡ませながら、微笑んで言葉を続けるヴィアテウス様。
「笑って水を纏う君は……見惚れてしまったよ」
「それは……お褒めいただき光栄です」
「君に興味が湧いたよ。可愛らしくも美しい君に、ね」
髪の毛を絡めた指で、私の頬をなぞる。
「初心な反応をする、君がね」
私の耳に唇を近付けて、囁いた。
驚いて身を引き、耳を押さえる。
「か、からかわないでください」
「本気だよ。それで、コーカさん。本当に占い師ルムとは深い関係ではないんだね?」
「……答える必要がありますか?」
恋人関係ではないが、それを教えたらどうなることやら。
ヴィアテウス様はいわくありげな笑みを浮かべつつ、私を追ってきた。距離を取りたい私は、すぐに背にしていた扉にぶつかる。
「私は女性の嘘や演技を見破るのは得意と自負しているんだ。君の初心な反応は、本物。さっきの楽しそうな笑顔も、作り笑いではなかった。だから」
一度言葉を止めてから、ヴィアテウス様は追い詰めた私の顎をすくい上げた。
「私に全部見せてほしいと思っていることを伝えにきたんだ」
ヴィアテウス様の手が離れたかと思えば、扉のノブを掴んだ。私が身を退かせば、ヴィアテウス様は部屋を出る。
「すぐに時間を作って会いに来るよ。またね、コーカ」
私に微笑みとウインクを送りつけると、やっと去っていった。
呼び捨て……。
私は困惑して立ち尽くす。
魔導師メテオーラティオ様は私に気があるし、ついさっき占い師ルム様が私に恋をしたらしいし、その上王弟殿下のヴィアテウス様が告白か?
どんな展開だ。
私はしぶい表情で、自分の顎に手を添えつつ、考え込む。
そして、この展開の理由である答えを一つ導き出した。
モテ期だ。
高校時代はモテ期だった。流石は花の十六歳である。姿だけではなく、モテ期まで戻ってきたのだ。
モテるって罪深い。
私はどでかいため息を吐いた。
さっさとこの城を出るために、必要な魔法を学んでいこう。
翌日に訪ねてきてくれたグラー様に、ありのままを報告した。
死の予知ではなく、恋の予知だったこと。
私に恋する予知だったなんて気恥ずかしいが、そう正直に話したのだ。
グラー様は、温かな目をした。余計恥ずかしいので、その温かな目をやめてほしい。
「この本の中の魔法は覚えましたので、お返ししますね」
話題を変えて、私は本を渡した。
「早いですね。では、明日、別の本を持ってきます」
「ありがとうございます。……えっと、出来れば、もっと実用的な魔法を学びたいです」
「実用的な魔法を?」
「例えば、結界を張る魔法やなんでも収納できる鞄を作る魔法とか……」
グラー様は、じっと私を見つめる。
もっと詳しいことを話してほしいと言いたげな水色の瞳。
「自立した時のために、便利な魔法は習得したいのです。旅をするには便利な魔法だとか」
「……いつかは、この城を出るおつもりなのですね」
「……はい」
残念そうな声を出すグラー様。
シワのある手を伸ばして、私の手を握り締めた。
「一生、ここで遊んで暮らしてもいいのですよ。……しかし、コーカ様は旅がしたいのですか?」
「……はい。この世界を、歩き回りたいのですよ。確かに、城で遊んで暮らせるのはとても魅力的な人生ですけれど」
私は冗談気味に笑う。
「憧れていたのです。魔法や妖精や他の種族が実在する世界。私は堪能したいのです。この世界を、この目で知り尽くしたいのです」
グラー様の目は、また温かに見つめてくる。
胸がホカホカした。それは気遣いというより、愛情に思えた。
本当に、孫のように想ってくれていると、この胸で実感してしまう。
これもモテ期のせいだろうか。なんてね。
「私めが手助けしましょう。必要な魔法を教えます」
「助かります……ありがとうございます」
そっと優しく頭を撫でられた。
135
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる