聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

文字の大きさ
24 / 26

♰24 予感。

しおりを挟む


 夜になっても、顔も頬も熱くて、治まらない。
 私はベッドの中で、呻くこととなった。

「うぐあああっ」

 触れられた唇まで、まだ熱いように思えてしまう。

「……」

 金色の瞳を向けてきたキーン。
 呆れているように思えた。
 さっきから、うるさかったかもしれない。

「ごめん、キーン。さっきは、ありがとう。また助けてくれたね」

 いい子だ、と私は親指で額を撫でつけた。
 ぷいっと、そっぽを向かれる。

「キーンはまだ、ぐったりだね。ゆっくりしていていいんだけど、でも私は近いうちに旅に出ようって考えているんだ」

 子猫の顔が、こっちにまた向けられた。

「その時はどうする? 妖精さんのお迎えが来るまで、待っているべきかしら……」
「……」
「約束した通り、そばにいる間は私が守るよ。……助けられてばかりだけれども」

 苦笑いをしてしまう。
 私が守るって約束したのに、頼りないなんて思われただろうか。

「……キーンがいてくれなかったら、どうなっていたことやら……本当にありがとう」

 もうメテ様に捕まらないようにしなくては。
 少し落ち着いた私は、ゆっくりと眠りに落ちた。



 翌日。グラー様を会いに行こうと考えていたけれど、彼の方から部屋を訪ねてきてくれた。

「おはようございます、コーカ様」
「グラー様ぁ!」

 私は泣きつくように、グラー様に駆け寄る。

「おやおや、どうなさったのですかな?」

 にこにこと穏やかなグラー様。
 おたくのメラ様が!!
 ピティさんの退室を待ってから、伝えた。

「メラ様とは、もう一緒に作業が出来ません!!」
「メラですか? 変身を見せたとご機嫌でしたが……メラが嫌いに?」
「変身を見て嫌になったわけではないです! 変身は素敵でした!」
「それはよかったです。変身を見たがっていましたからね」

 グラー様は、のほほんとしたまま。
 変身自体は、本当に素敵なものだった。

「メラにも言ったのですよ。きっとコーカ様なら、変わらないまま見つめてくれると」
「……そうなんですか?」
「ええ、そうです。ここ数日、思い詰めていたようなので、背中を押す言葉をかけました」

 グラー様が、背中を押したのか。

「そう言えば、ずっとむくれた顔をして考えてましたね」
「ゴホゴホ……。失礼。魔法道具作りで、旅に出る準備をしているとわかっていましたね。少々腹を立てていたのでしょう」

 少し咳をするために、顔を背けたけれど、私と向き直ると教えてくれた。
 なるほど!
 あの問いたそうな視線は、それが原因か。
 腹を立てられるのは、ちょっと理解できないけれど、納得した。

「ゴホゴホ」

 また咳をするグラー様。

「大丈夫ですか? 風邪ですか?」
「ご心配をどうもありがとうございます」

 やけに重たい咳をしているな、と思ったけれど、グラー様はただ微笑むだけ。
 風邪だと肯定することなく、否定もしなかった。
 そこで、扉がノックされる音が響く。
 グラー様が確認すると、どうやら彼を呼びに来た魔導師みたい。

「申し訳ございません、コーカ様。また時間を作って会いに行きますので」
「は、はい……」
「大丈夫ですよ」

 何を根拠に思っているのだろうか。
 私は、昨日捕まって唇を奪われたのだけど……。
 お忙しいグラー様を廊下まで見送っていれば、また咳をする姿を見た。
 ご老体の上に、あの重たい咳。何かの病気なら、休んでほしい。
 仕事なんて、大丈夫だろうか……。



「口付けしていいか?」

 トリスター殿下の稽古は、休みだとピティさんに教えてもらったので、キーンを連れて庭園で読書をすることにした。
 奇しくも、初めてメテ様と初めて言葉を交わした場所。
 メテ様は、歩み寄ってきた。にこっとご機嫌な開口一番がそれ。

「え、なんで許可がもらえると思うのですか?」

 きっと無理やりすれば、目を合わせてもらえないとわかっているから、訊ねたのだろうが。
 あらかじめ、聞けばいいってわけではない。

「まんざらでもないだろ?」
「自信過剰にもほどがありますっ」
「よくなかった?」
「うっ」

 嘘ついてもバレると思い、私は本で顔を隠した。
 よくなかったわけではない。
 いや、初めてなのだ。悪くも、よくも、わからない。
 比較出来る経験がないのだ。
 メテ様は、遮る本を軽く押して退かすと、目を覗き込んだ。

「初めてにしては、よかっただろう?」
「~っ!!」

 がぁああっと赤面する。
 互いに初めてなのに、その事実は恥ずかしいのに、よかったことを確信している笑み。
 あのファーストキスは、互いにいいものだったと思っている。
 私は、本の中に顔を突っ伏した。
 無邪気に喜んでいるメテ様の眩しさに、目が眩みそうだ。
 こっちは年上の三十路だっていうのに!
 こんなに動揺させられるなんて! なんか悔しい!
「その反応、そそる」

 にやりと口角を上げたメテ様のルビーレッドの瞳は、獲物を捉えた肉食の目に思えた。

「まぁいいさ。ところで、いつ旅に出るつもりなんだ? この城から出るつもりなんだろう?」
「……」

 近いうち、なんて。
 正直に話したら、どんな反応をされるのか。

「コーカが、”本物”だってバレるのも時間の問題だと思ったが……まぁ、オレも、誤解した連中のために城に居座る気はない。……誤解だなんてもんじゃないか」

 聖女に関することを口にし出したから、周囲に人がいないかを確認した。
 誰もいないさ、とメテ様は目の前に腰を下ろして、話を続けようとする。

「あの偽物も、自分が違うって気付いたら、コーカに何をするかわからないぞ」

 そうなんだよね。
 あの性格では、攻撃を仕掛けてくるはず。
 絶対に、立場が逆転したら、許さないだろう。

「グラーのじいさんも、”本物”を見送ろうなんて……いや、どっちが先なんだ?」

 グラー様の名前が出てきて、意味深に呟くメテ様。
 綺麗な指先が、自分の顎を撫でる。

「どっちが、先って……どういう意味ですか?」
「……」
「メテ様?」
「オレも一緒に行ってもいいか?」

 質問に答えてくれず、ただ笑いかけてきた。

「旅だよ。そうすれば、わざわざ魔法道具をそろえなくても、いるだけで便利だぜ?」
「あっ……えっと……え?」

 突然の発言に、私は戸惑う。

「でも、メテ様には仕事が……」
「こっちにいる理由がもうすぐなくなるから、どうするかは決めかねていたんだ。コーカといることを選ぶ」

 私のすぐそばに横になったメテ様は、空を見上げる。

「旅ね……考えたことあったが、実行しようなんて、面白いな」

 そう笑うと、メテ様は目を閉じた。
 え? 寝ちゃうの?
 すやーっと深い息を吐いたあと、規則正しい息を立てた。
 右には、メテ様。左には、キーン。
 挟まれた私は、肩を竦めながらも、読書を再開させた。
 静かな時間が、過ぎっていく。
 その日、グラー様は会いには来なかった。
 忙しいのだろうと思い、日を改めて時間をもらおうと思い、トリスター殿下と稽古をする。
 当たり前のようにやってきたメテ様は、またもや開口一番に「口付けをしよう」なんて言うものだから、変な空気になってしまった。
 トリスター殿下は、笑顔を張り付けたままだったけれど、背後のオーラが黒く感じる。刺々しい。
 なんか……怒ってる……?
 以前は、私をメテ様と取り合うつもりはないなんて、はっきり言っていたのに……。
 まるで嫉妬しているみたいだ。変なの。気のせいよね。
 いくらモテ期でも、断言していた腹黒王子まで……。まさか。

「稽古はいつまで続けるんだ?」
「トリスター殿下のですか?」
「コーカの可愛さに惹かれてるって理解してるか?」

 魔法材料庫で、作業をしながら、メテ様は問う。
 この人、私のこと、可愛いとか思っていたの? 
 メテ様もやっぱりそう思うってしまうぐらい、トリスター殿下はあからさまだったのか。

「それとも、玉の輿が狙いか? 聖女なら、王子と結婚出来るが……問題が多いぜ。王弟殿下も好意を持っている。ドロドロだな」

 他人事みたいに、くくくっと笑うけれど、この人が筆頭なんだよな……。

「玉の輿とか、興味ないですね。私は聖女ではないですし」

 きっぱりと否定をする。聖女じゃないとは言われてないけれど、聖女の座は奪われた。なので、実質私は ”聖女じゃない”。
 それこそ、面白い冗談みたいに、ふっと笑うメテ様。

「聖女じゃない、ね……。とにかく、これ以上は惹きつけるなよ。オレはコーカを大事にしたいと思っているが……嫉妬で何するかわからないぜ」

 ちゅ、と不意を突いて、私の左耳にキスをしてきた。

「ちょっと! いきなりキスをしないでください!」
「いいだろう? 唇以外なら、勝手にしても」
「よくないですよ! グラー様に言いつけますよ!」

 真っ赤になって怒る私を、また愉快そうに見てくるメテ様。
 グラー様に言いつけても、あんまり意味はなさそう。

「そ、そう言えば、メテ様。グラー様はまたお忙しいのですか? 会いに来るって言ってたんですけど……」
「……グラー、ね」

 急に、愉快そうな笑みをなくした。
 メテ様は、かしかしと首の後ろを掻いて、よそを向く。

「……明日、会いに行こう? 連れてってやるよ。グラーのじいさんの部屋に」
「え? 押しかけてもいいんですかね?」
「コーカかなら歓迎だろう。それに……」

 言葉の続きは、なかった。
 コンコン!
 荒々しいノックが響いたからだ。

「メテオーラーティオ様! いらっしゃいますか!?」

 それは、ルム様の声だった。

「グラー様がっ! グラー様がっ!!」

 中に入ってきたルム様は、真っ青な顔でグラー様のことを必死に伝えようとする。
 そして、私を見た。もっと激しい動揺を見せる。
 私の前では言えない様子で、一度口を閉じた。

「見やがったのか?」

 ルム様の胸ぐらを、メテ様は掴んだ。

「っ!」
「その目で、グラーを見たのかと聞いている!?」

 占い師ルム様は、アメジストの瞳で予知をする。
 それは大半、人の死の予知を見るーーーーだから。

「ご……ごめんなさいっ」

 涙をにじませた目をぎゅっと閉じて、ルム様は謝罪を口にする。
 グラー様の死を見たのだと、肯定した。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...