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日常編⑭

第371話、ドラゴン姉妹たちの脱皮

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「では、お元気で。今度はベルゼブブにあるわたくしの自宅に招待しますわ」
「うん。また来てね、カレラちゃん」

 カレラさんの休暇が終わり、ベルゼブブに帰る日がやってきた。
 お土産もたくさん包んで渡した。お酒や天使族の美容品など、木箱いっぱいに詰めて送ったそうだ。
 銀猫のアマンダさんには本を、メリルちゃんにはニコニコアザラシのリュックやぬいぐるみを渡した。二人ともクールに喜んでいた。
 ミュアちゃんは、メリルちゃんとの別れが寂しいのか涙を流して抱きついている。

「にゃあ……またきてね」
「……はい」
「にゃう。さみしい」
「……はい」

 ミュアちゃんはメリルちゃんのほっぺと自分のほっぺを合わせてスリスリしている。これは寂しい時に行う銀猫のクセみたいなもの……らしい。悲しいんだろうけど可愛すぎる。
 メリルちゃんも、何かを堪えているように見えた。

「メリル。またここに遊びに来ますから……大丈夫よ」
「ご主人様……」
「ほら、ミュアちゃんに応えてあげなさい」
「……にゃう」
「にゃ……」

 メリルちゃんも、ミュアちゃんにスリスリし始めた。
 小さな銀猫が抱き合い、寂しさを紛らわせるようにスリスリし合う……悲しいんだけど可愛すぎる。カレラさんが悶えてるぞ。

「にゃあ。メリル、またあそぼうね」
「にゃう。はい、遊びます」

 こうして、カレラさんたちは去って行った……いい休暇になったようで何よりだ。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 カレラさんたちが帰って数日後。
 今日は、ローレライとクララベル、そしてアイオーンに連れられて竜騎士の宿舎前広場に来た。

「お兄ちゃん、よろしくね!」
「はいよ。っても、俺にできることはたかが知れてるけどな」
「いいの! お兄ちゃんにお願いしたいの!」
「はいはい」

 今日は、ドラゴン姉妹とアイオーンが脱皮する日だ。
 風呂上りなどで身体がふやけると脱皮しやすくなるらしい。何日か前に脱皮したが薄皮しか剥けず、ようやく本剥けの時期が来たらしい……本剥けって。
 同じタイミングで、ローレライとアイオーンも剥けるそうだ。なので、今日は一日を使って、ドラゴン姉妹たちの脱皮を手伝いすることになった。
 クララベルがドラゴン態へ。

『かゆい~』
「あ、皮がむけてる……これを剥けばいいのか?」
「ええ。本来は地面や岩場に身体を擦り付けるんだけど、番がいるときは人間態になって剥いてもらうの。お父様やお母様も、互いに脱皮を手伝っているのよ」
「へぇ~……番ねぇ」
「なんですか? あたしの脱皮を手伝いたくないとでも?」
「いーや、そんなことは」
『お兄ちゃん、姉さま、はやく~、かゆい~』
「おっと。今剥いてやるからな」

 白いドラゴンのクララベルが大きな口を開けて唸る。
 どうやって剥けばいいのかな。変な風に剥いて血とか出ないのかな。

「よい、しょっと……」
「ぺりぺり~っと。ふふ、これって気持ちいいんですよね」

 ローレライとアイオーン、普通に剥いている。ローレライなんて両手でベりべり剥いてるぞ。
 俺も真似してみよう。
 前足……うわ、爪すごいな。指のあたりの皮、剥けそうだ。

「クララベル、前足の皮、剥くぞ」
『は~~~い……はぁぁ、きもちいい~』

 ローレライたちは背中の皮を剥いていた。気持ちいいらしいけど俺にはよくわからん。
 俺は前足の指の皮を、丁寧に剥く。

「おお……剥ける剥ける」
『あひゃひゃ!! お兄ちゃんくすぐったいーっ」
「きゃぁっ!? もうクララベル、動かないの!!」
『あう。ごめんなさい、姉さま』

 クララベルの翼がバサバサ動き、ローレライに当たりそうになっていた。
 クララベルの翼は羽毛があるため、羽がパラパラ落ちる。せっかくなので拾い集め、袋に入れておく。

「村長、それどうすんだ? 羽なんて使い道ないべ?」
「んー、けっこうフカフカだし、枕とか布団とかに使えないかなって。クララベルの羽の枕とか、なんだか気持ちよさそうじゃないか」
「……なんだか変態っぽいべ」
「やかましい」

 アイオーンを黙らせ、羽を拾い集める……クララベル、いつの間にか寝てた。
 脱皮を終えると、純白のドラゴンは大きな欠伸をした。

『はぁぁ~……気持ちよかったぁ。ありがとう、お兄ちゃん、姉さま、アイオーン』
「はいよ。じゃあ次はローレライ」
「ええ。お願いするわ」

 クララベルが人間に戻り、ローレライがドラゴン態へ。
 クララベルは自分のほっぺをサワサワし、俺の前に出てきた。
 
「えへへ。どうお兄ちゃん、キレイになったでしょ?」
「おおー、つるつるお肌だな。きれいだぞ」
「ん~……きもちいい」

 クララベルのほっぺを触ると、確かにスベスベだった。
 
『もう、二人とも』
「あ、悪い悪い」
「姉さま、姉さまの皮を剥いちゃうよー!!」
「う~ん、このクリーム色のお肌……脱皮なんかしなくてもツルツルで羨ましい~」

 アイオーンの言うとおり、ローレライの身体はツルツルしていた。
 皮が剥けている箇所がいくつかあるが、脱皮しなくてもツルツルしている。皮を剥いてみるとやっぱりツルツルしていた……なにこのツルツル、めっちゃ気持ちいい。

『あ、アシュト……その、変なところばかり触らないで』
「え、ごめん」

 翼の付け根、触っちゃダメなのね。
 クララベルの翼は触っても怒られなかったのに。姉妹で敏感な場所は違うようだ……なんかこの表現は卑猥だな。自嘲しなくては。

「アシュト村長はテクニシャンですねぇ……」
「やかましい」

 ニヤニヤするアイオーンを黙らせ、ローレライの皮剥きを終えた。
 さて、最後はアイオーンだ。
 群青色のドラゴンに変身したアイオーンは、俺の前に顔を突き出す。

『アシュト村長。お顔の脱皮をお任せしますね』
「……いいけど、齧るなよ」
『大丈夫だべさ。ささ、よろしく』

 クララベルは背中の皮を剥き、ローレライは尻尾の皮を剥く。
 俺はアイオーンの顔の皮を剥く……うーん、アイオーンだとは知っているけどちょっと怖い。
 頑強な鱗、長く枝分かれしたツノ、ギョロっとした眼、なんでも嚙み砕けそうな牙……ドラゴンだなぁ。
 慎重に顔の皮を剥いていると───。

『ふあぁぁっくょんっ!!』
「うおぉぉぉぉぉっ!?」

 ゴォォッ!! と、アイオーンが炎を吐いた。
 顔の真横にいたから被害はなかったが、直撃してたら消し炭になってたぞ。
 ローレライとクララベルは特に気にしていないが、俺は大焦りだった。

「あ、危ないな!! 黒焦げじゃすまないぞ!?」
『あはは。申し訳ねぇべ。顔を触られるなんて久しぶりだったもんで』
「ったく……」

 アイオーンの皮剥きを終え、三人の脱皮が終わった。
 脱皮した皮は一纏めにし、クララベルのブレスで一気に燃やし尽くした。
 ようやく全て終わり……すると。

「じゃあお兄ちゃん、お風呂行こっ!!」
「え? 風呂?」
「脱皮の後はお風呂に入るのよ。皮剥きで汗もかいたし、剥けたばかりの肌を綺麗にしたいからね」
「うっしっし。じゃあ行くべ! お風呂の後はお酒でかんぱ~い♪」
「いや、お前は女湯に行けよ」
「まぁまぁ、細かいこと気にしなくてもいいべぇ? みんな仲良くお風呂お風呂~♪」
「お風呂お風呂~♪」

 アイオーンとクララベル、脱皮してテンションが上がってるな。
 ローレライもクスクス笑ってるし……まぁいいか。

「じゃ、風呂入って少しだけ飲むか。まぁ……俺も喉乾いたしな」

 全員で村長湯に行き汗を流し、冷えたエールで乾杯するのだった。
 ドラゴンの皮剥き、今度はミュディたちも混ぜてやるか。
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