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ユノ·レイピアーゼ

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 ロイは、ショッピングモールに行かず、校舎内にあった売店でお菓子を買った。
 ウキウキしながら、クッキーの包みを見るロイ。すると、デスゲイズが言う。

『菓子で何を喜んでいる?』
「あのな、俺は今まで菓子なんてほとんど食えなかったんだよ。お前のおかげで自由になる金はできたし、これからいっぱい食わせてもらうさ」
『寂しい食生活だったのだな』
「やかましい……否定できないけど」
『菓子が欲しいのなら、地下ショッピングモールとやらに行けばいいではないか』
「ヤダよ。だって……クラスの連中と会ったら嫌だろうが」

 地下ショッピングモール。
 聖剣レジェンディア学園は、地下に巨大ショッピングモールがある。
 飲食店はもちろん、雑貨関係、服飾関係、パン屋に八百屋、肉屋に宿屋と何でもそろっている。きっと、新入生の半数以上が、これから親睦会を開くのだろう。
 だが、ロイは一人でお菓子を食べようとしていた。

『お前は社交性がない「ぼっち」というヤツなんだな』
「ぐっ…………」

 木刀をへし折ろうと思ったが、なぜか胸が痛くできないロイだった。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 ロイは、学園内にある公園に来た。
 ベンチや東屋があり、大きな噴水もある公園だ。現在、公園内にはロイしかない。上級生は授業中で、新入生はショッピングモールで買い物や親睦会の真っ最中だろう。
 適当なベンチに座ってお菓子を食べよう、そう考えていると。

「…………ん?」

 東屋のベンチに、誰かがいた。
 倒れているのか、横になっている。
 傍には、見覚えのある聖剣が立て掛けてあった。

「あの子、確か……」
『氷聖剣の使い手だな』

 ユノ・レイピアーゼ。
 氷聖剣の使い手が、ベンチに横になってスヤスヤ眠っていた。
 
「帰ったのかと思ったけど、こんなところで昼寝……ぅ」

 ロイは目を反らす。
 なぜなら、ユノは身体を丸めるように横になっていたので、スカートから下着がチラチラ見えている。薄い水色……と、ロイはそっぽ向きながら思った。
 すると、ユノがパチッと目を開けて起き上がり、ロイを見た。

「げっ、あ、いや……み、見てない、見てないぞ」
『完全な不審者だな』
「う、うるさい!!」

 木刀を小突くロイを、ジーっと見るユノ。
 そして、クンクンと匂いを嗅ぎながらロイに近づき、ロイの持っていた袋をジッと見た。

「……お菓子、持ってるの?」
「え? あ、ああ……」
「…………いいなー」
「あー、食べるか? いっぱいあるし」
「いいの?」
「あ、ああ。その……お詫びに」
「おわび?」

 下着を見たお詫び、とは口が裂けても言えない。
 ロイは、東屋のテーブルにお菓子を並べた。
 クッキー、チョコ、あめ玉に、いろいろな菓子パンも豊富にある。

「おおお……!!」
「飲み物ないとキツイよな。ちょっと待ってて」

 ロイは、飲み物を買いに購買へ走りだす。
 お菓子を買った店で、甘めの果実水を買って公園に戻ると……。

「お腹いっぱい……」
「え」

 大量にあったお菓子が、すっかりなくなっていた。
 ほんの五分ほどで、ユノはお菓子を完食……これには、ロイも。

「お、俺のぶん……」
「あ、ごめん」
「…………」

 とりあえず、果実水を渡すと、ユノはゴクゴク飲み始めた。
 どこか幸せそうに、笑顔で果実水を飲む姿に毒気を抜かれ、ロイは座って自分の果実水を飲み始める。すると、飲み終えたユノが、ロイをジッと見た。

「ありがとね」
「ああ、腹減ってたのか?」
「うん。お菓子、大好き」
「そっか……ここでは、昼寝を?」
「うん。親睦会とか面倒だし、眠いから。あなた……あ、名前」
「俺はロイ。きみと同じクラスだ」
「新入生……わたし、ユノ。よろしくね、ロイ」
「ああ、よろしく、ユノ」

 ロイは、氷聖剣の使い手に挨拶した……まさか、お菓子で仲良くなれるとは、思っていなかった。
 チラリと聖剣を見ると、ユノは言う。

「聖剣、触る?」
「え……」
「氷聖剣、みんなジロジロ見る。ロイは優しいし、お菓子いっぱいくれたから、触っていいよ」
「い、いや……遠慮しとく」
「ロイの聖剣は?」
「俺のは、このボロ木刀。触っていいよ」
『おい貴様、ボロとは何だボロとは。何度も言うが、我輩は」

 と、ユノがひょいっとロイの木刀を掴む。
 
「軽い……」
「木刀だからな」
「能力は? 属性は?」
「あー……まだ」
「属性……なにこれ、何も感じない」
「あはは。ほとんど廃棄されてるような聖剣だからな」
『おい貴様、馬鹿にするなよ。我輩は』

 デスゲイズが喋っているが、やはりユノには聞こえていない。
 改めて見ても、妙な剣だ。
 本人は魔王とか言っているが、五人目の魔王なんて聞いたことがない。
 ロイとしては、『意志』が能力だと思っている。属性がないのは、まだよくわからない。

「聖剣には属性と、それぞれ固有の能力がある。でも、この剣……聖剣っぽい感じはするけど、よくわからないなー」
「まぁ、木刀だしな」
「わたしの聖剣は『氷』属性。能力はまだ目覚めてない」
「あ、ああ」

 なぜかドヤ顔だった。
 木刀を受け取ると、ユノはロイをジーっと見る。

「な、なんだ?」
「ロイ、不思議」
「え?」
「クラスのみんなは、わたしにいろいろ質問してきたり、ハバツとかいうのに入りたいとかうるさいけど、ロイは普通に接してくれる……なんだか、うれしい」
「あはは。そりゃ、俺は派閥なんて興味ないしな」
「じゃあ、ともだち?」
「……そうだな。ユノがそう望むなら、友達になって欲しい」
「うん。ロイは友達」

 ユノは、にっこり笑ってロイの腕を取った。
 距離が近く、腕が胸に当たっている……いきなりのことで、ロイは緊張で反応できない。
 
「あ、あの」
「ロイ、また一緒にお菓子食べてくれる?」
「あ。ああ……いつでも」
「うん。やくそく」

 こうして、ロイにユノという友人ができた。
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