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これから始まる学園生活
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「魔界貴族の討伐した功績により、汝に勲章を授与する」
「…………ありがとうございます」
エレノアは現在、トラビア王国の謁見の間で、サリオスの父である国王陛下から勲章を授与されていた。
エレノアだけではない。ユノとサリオスもいる。
三人は国王陛下直々に、勲章を授与されていた。だが、三人はどこか納得していないように見える。
国王陛下ことサリオスの父。バンガード・デア・トラビア国王はにっこり笑う。
「本当に、よくやってくれた。まさか、学園内……さらに、一年生の懇親会を狙って、魔族が現れるとは。しかも、魔界貴族……揃ったばかりの七聖剣士が欠けるところだった」
「「「…………」」」
「特に、魔族を討伐したエレノア嬢。そなたには感謝してもしきれん。そちらのユノ嬢、サリオスが倒れた後、たった一人で戦ったそうではないか」
「……はい」
「国王としてではなく、父親としても感謝せねば。ありがとう、エレノア嬢」
「いえ、そんな……」
国王は終始、魔族を討伐したエレノアたちを褒めた。
学園内に魔族が侵入し、新入生の懇親会を狙うなど前代未聞だったが……新入生の七聖剣士と、新入生たちの活躍で魔族を討伐したという話は、国中に広がった。
おかげで、新人の七聖剣士であるエレノア、サリオス、ユノは英雄扱いだ。
今はこうして、国王から勲章を授与されている。
授与式が終わり、今日は国王陛下との食事会だ。
エレノア、ユノの二人はそれぞれ王城の部屋(なぜか専用の部屋が用意されていた)にいる。
王族専用の大浴場を利用してもいいとのことで、エレノアはさっそく大浴場へ。すると、ちょうどユノと鉢合わせた。
「……おふろ?」
「それ以外にここ来る理由ないでしょ」
「……先、いいよ」
「え?」
「わたし、何もしていないのに勲章もらっちゃったし……魔族を倒したあなたに譲る」
「そんなのいいわよ。というか、一緒に入ればいいじゃない」
「……いいの?」
「ええ」
「……ありがと」
ユノは、元気がない。
魔界貴族との戦いで何もできなかったことを、ずっと引きずっている。
ベルーガとの戦いから、すでに三日経過していた。
その間、一学年は学級閉鎖。生徒は現在、寮で待機状態である。サリオス、ユノ、エレノアは勲章の授与式があるため、こうして王城に来ているのだった。
大浴場の脱衣所には、大勢のメイドがいた。
「洗髪を担当します」「右腕を担当します」「右足を担当します」
「左腕を担当します」「左足を担当します」「身体を担「全員出てけ!!」
身体の部位ごとに洗うメイドがいることに驚愕しつつ、エレノアは全員を叩きだす。
服を脱ぐと、ユノがじーっと見ていた。
「おっきいね」
「邪魔だからイヤだけどね。剣振ると揺れて痛いし」
「ふーん」
「あんたも……うん、普通ね」
ユノは通常サイズだった。ユノは自分の胸を持ち上げる。
「邪魔にならないサイズが一番」
「はいはい」
さっそく浴場内へ。
「「おお~……」」
さすが、王族専用の浴場だ。
浴槽は全て大理石で作られ、獅子の口から湯がドボドボと流れていた。
シャワーヘッドや蛇口は黄金に輝き、植物から造られた高級石鹸からは甘い香りが漂っている。
「さすが王族専用。聖剣に選ばれないと来れないわね」
「よし、行く」
「待った。まずは身体洗いなさい」
「ん。ね、背中洗って……洗えない」
「はいはい」
エレノアは、ユノの背にシャワーの湯を浴びせ、石鹸を泡立てる。
「わ、すっごい香り……王族の石鹸すごぉ」
「ん……」
ユノの背中を洗う。
綺麗で真っ白な背中だ。傷一つない、華奢な背中。
「はいおしまい。前は自分でね」
「ん……」
どこか、リスを思わせる小動物っぷりに、エレノアはついクスっと笑う。
目をギュッと閉じ、長い髪をごしごし洗う姿を見ながら、エレノアは自分の身体を洗う。
身体と髪を洗ってまとめ、二人は湯船へ。
やや温めの湯は、身体も心も溶けていくような心地よさだ。
しばし、湯を堪能していると……ユノが言う。
「ごめんね……」
「え?」
「わたし、役立たず……何も、できなかった」
「…………あんた」
「わたし、聖剣に選ばれて嬉しかった。同世代では敵なしだったし、こっちに来ても、わたしと同じくらい強い人は少ししかいなかった……でも、そうじゃなかった。みんな……わたしがお姫様だから、手加減してた。こっちの人もみんな、わたしのこと特別扱いしてた」
「…………」
「わたし、弱い……」
ユノは、落ち込んでいた。
ユノは間違いなく強い。恐らく、これが初めての挫折。
ここで止まるか、進むかで、ユノの剣士としての道が決まる。
エレノアは、湯船から上がって浴槽の縁に腰掛けた。
「あたしも弱いわ」
「え?」
「あたしね、あの魔界貴族に殺されそうになった。でも……勝てた」
「……どういうこと?」
「最後まであきらめなかったから。それと……あたしを信じてくれた奴がいたから」
「…………それ、ロイ?」
「……これだけでわかっちゃうんだ。あんたも、相当あいつのこと好きね」
「うん。ロイ、優しいから好き」
ユノも、浴槽の縁に腰掛けた。
エレノアは笑い、ユノに手を差し出した。
「あたし、エレノア。改めてよろしくね」
「わたしはユノ。エレノア、これから一緒に強くなろう」
「ええ」
がっしり握手。
この瞬間、エレノアとユノは友達になり、ライバルとなった。
「ね、なんでエレノアは魔界貴族を倒せたの?」
「…………運が良かったのよ」
「運?」
「ええ」
それだけ言い、エレノアはもう一度湯船に浸かった。
◇◇◇◇◇◇
一方、ロイは。
学生寮の自室で、『木刀』となったデスゲイズを布で磨いていた。
ドアがノックされ、誰かと思いドアを開けると……そこにいたのは、サリオスだった。
「申し訳なかった」
「……あ、あの」
「きみを見張り塔い閉じ込めるよう指示したのは、ボクなんだ」
「え」
「エレノアがきみのことばかりを気にするから、魔が差した……本当に、済まなかった」
「えーと」
「ロイ・ティラユール。許してくれとは言わない、ボクを恨んでくれてもいい。でも……エレノアの隣は、まだキミのものではない。ボクも、自分の誇りをかけて、エレノアの隣を自分のモノにする。負けないよ、ロイ」
「あ、あの」
「これは迷惑をかけたお詫びだ。じゃあ、今日はここで失礼する。ああ、学園の再開は二日後からだ。あとで知らせがあると思うけど、伝えておくよ」
「…………」
サリオスは、一方的に謝罪をして、詫びの金貨をロイに渡して去った。
ポカンとしていると、デスゲイズが言う。
『ふむ、なかなか潔いな。ちょっと馬鹿っぽそうだが、もしかしたら根は悪い奴ではないかもな』
「……でも、一方的すぎるだろ」
『まぁ、いいだろう。臨時収入が入ったと思えば』
「言いたいこと言って、金置いて行っちゃった……それに、エレノアの隣とか」
『ライバル、といったところか。まぁ、剣士としてはライバルになりえんがな』
「うっさいな」
ロイは、机に置いてあったペーパーナイフを見た。
「契約の、代償……か」
『文句を言うなよ。こればかりはどうしようもない』
「……わかってるよ」
ロイは、デスゲイズと契約して『聖剣士』の道を諦めた。
その代わりに、最強の『狩人』として生まれ変わった。
『万象眼』という眼を手に入れた。デスゲイズの権能の一つ『暴食』の力で、あらゆる防御を無効化する矢を放てるようになった。
そして、その代わりに。
「───ッッッ!!」
ロイは、ペーパーナイフに右手で触れた瞬間、右手に焼けるような熱さ、刺すような痛み、電撃のような痺れが走った。
「…………」
強大な力を手に入れた『代償』だ。
ロイは、右手を押さえながら言う。
「『あらゆる刃物に触れることができない』……か。ははは、聖剣士になれない誓約か」
ロイは、あらゆる刃物に触れることができなくなった。
食事用のナイフも、ペーパーナイフも。当然、剣も槍も斧も。
木剣には触れることができるので、聖剣レジェンディア学園には通える。
本当に、ロイは聖剣士への道を歩めなくなったのだ。
「…………」
『後悔しているか?』
「まさか」
後悔は、ない。
エレノアの隣を歩くことはできない。
でも……前を歩くエレノアを、援護することはできる。
「これが、俺の道だ。デスゲイズ、これからも頼むぞ」
『任せておけ、相棒』
聖剣が最強の世界で、魔王の力が宿った弓を使う少年ロイ。
ロイの、聖剣レジェンディア学園での学園生活が、真に幕を開けた。
「…………ありがとうございます」
エレノアは現在、トラビア王国の謁見の間で、サリオスの父である国王陛下から勲章を授与されていた。
エレノアだけではない。ユノとサリオスもいる。
三人は国王陛下直々に、勲章を授与されていた。だが、三人はどこか納得していないように見える。
国王陛下ことサリオスの父。バンガード・デア・トラビア国王はにっこり笑う。
「本当に、よくやってくれた。まさか、学園内……さらに、一年生の懇親会を狙って、魔族が現れるとは。しかも、魔界貴族……揃ったばかりの七聖剣士が欠けるところだった」
「「「…………」」」
「特に、魔族を討伐したエレノア嬢。そなたには感謝してもしきれん。そちらのユノ嬢、サリオスが倒れた後、たった一人で戦ったそうではないか」
「……はい」
「国王としてではなく、父親としても感謝せねば。ありがとう、エレノア嬢」
「いえ、そんな……」
国王は終始、魔族を討伐したエレノアたちを褒めた。
学園内に魔族が侵入し、新入生の懇親会を狙うなど前代未聞だったが……新入生の七聖剣士と、新入生たちの活躍で魔族を討伐したという話は、国中に広がった。
おかげで、新人の七聖剣士であるエレノア、サリオス、ユノは英雄扱いだ。
今はこうして、国王から勲章を授与されている。
授与式が終わり、今日は国王陛下との食事会だ。
エレノア、ユノの二人はそれぞれ王城の部屋(なぜか専用の部屋が用意されていた)にいる。
王族専用の大浴場を利用してもいいとのことで、エレノアはさっそく大浴場へ。すると、ちょうどユノと鉢合わせた。
「……おふろ?」
「それ以外にここ来る理由ないでしょ」
「……先、いいよ」
「え?」
「わたし、何もしていないのに勲章もらっちゃったし……魔族を倒したあなたに譲る」
「そんなのいいわよ。というか、一緒に入ればいいじゃない」
「……いいの?」
「ええ」
「……ありがと」
ユノは、元気がない。
魔界貴族との戦いで何もできなかったことを、ずっと引きずっている。
ベルーガとの戦いから、すでに三日経過していた。
その間、一学年は学級閉鎖。生徒は現在、寮で待機状態である。サリオス、ユノ、エレノアは勲章の授与式があるため、こうして王城に来ているのだった。
大浴場の脱衣所には、大勢のメイドがいた。
「洗髪を担当します」「右腕を担当します」「右足を担当します」
「左腕を担当します」「左足を担当します」「身体を担「全員出てけ!!」
身体の部位ごとに洗うメイドがいることに驚愕しつつ、エレノアは全員を叩きだす。
服を脱ぐと、ユノがじーっと見ていた。
「おっきいね」
「邪魔だからイヤだけどね。剣振ると揺れて痛いし」
「ふーん」
「あんたも……うん、普通ね」
ユノは通常サイズだった。ユノは自分の胸を持ち上げる。
「邪魔にならないサイズが一番」
「はいはい」
さっそく浴場内へ。
「「おお~……」」
さすが、王族専用の浴場だ。
浴槽は全て大理石で作られ、獅子の口から湯がドボドボと流れていた。
シャワーヘッドや蛇口は黄金に輝き、植物から造られた高級石鹸からは甘い香りが漂っている。
「さすが王族専用。聖剣に選ばれないと来れないわね」
「よし、行く」
「待った。まずは身体洗いなさい」
「ん。ね、背中洗って……洗えない」
「はいはい」
エレノアは、ユノの背にシャワーの湯を浴びせ、石鹸を泡立てる。
「わ、すっごい香り……王族の石鹸すごぉ」
「ん……」
ユノの背中を洗う。
綺麗で真っ白な背中だ。傷一つない、華奢な背中。
「はいおしまい。前は自分でね」
「ん……」
どこか、リスを思わせる小動物っぷりに、エレノアはついクスっと笑う。
目をギュッと閉じ、長い髪をごしごし洗う姿を見ながら、エレノアは自分の身体を洗う。
身体と髪を洗ってまとめ、二人は湯船へ。
やや温めの湯は、身体も心も溶けていくような心地よさだ。
しばし、湯を堪能していると……ユノが言う。
「ごめんね……」
「え?」
「わたし、役立たず……何も、できなかった」
「…………あんた」
「わたし、聖剣に選ばれて嬉しかった。同世代では敵なしだったし、こっちに来ても、わたしと同じくらい強い人は少ししかいなかった……でも、そうじゃなかった。みんな……わたしがお姫様だから、手加減してた。こっちの人もみんな、わたしのこと特別扱いしてた」
「…………」
「わたし、弱い……」
ユノは、落ち込んでいた。
ユノは間違いなく強い。恐らく、これが初めての挫折。
ここで止まるか、進むかで、ユノの剣士としての道が決まる。
エレノアは、湯船から上がって浴槽の縁に腰掛けた。
「あたしも弱いわ」
「え?」
「あたしね、あの魔界貴族に殺されそうになった。でも……勝てた」
「……どういうこと?」
「最後まであきらめなかったから。それと……あたしを信じてくれた奴がいたから」
「…………それ、ロイ?」
「……これだけでわかっちゃうんだ。あんたも、相当あいつのこと好きね」
「うん。ロイ、優しいから好き」
ユノも、浴槽の縁に腰掛けた。
エレノアは笑い、ユノに手を差し出した。
「あたし、エレノア。改めてよろしくね」
「わたしはユノ。エレノア、これから一緒に強くなろう」
「ええ」
がっしり握手。
この瞬間、エレノアとユノは友達になり、ライバルとなった。
「ね、なんでエレノアは魔界貴族を倒せたの?」
「…………運が良かったのよ」
「運?」
「ええ」
それだけ言い、エレノアはもう一度湯船に浸かった。
◇◇◇◇◇◇
一方、ロイは。
学生寮の自室で、『木刀』となったデスゲイズを布で磨いていた。
ドアがノックされ、誰かと思いドアを開けると……そこにいたのは、サリオスだった。
「申し訳なかった」
「……あ、あの」
「きみを見張り塔い閉じ込めるよう指示したのは、ボクなんだ」
「え」
「エレノアがきみのことばかりを気にするから、魔が差した……本当に、済まなかった」
「えーと」
「ロイ・ティラユール。許してくれとは言わない、ボクを恨んでくれてもいい。でも……エレノアの隣は、まだキミのものではない。ボクも、自分の誇りをかけて、エレノアの隣を自分のモノにする。負けないよ、ロイ」
「あ、あの」
「これは迷惑をかけたお詫びだ。じゃあ、今日はここで失礼する。ああ、学園の再開は二日後からだ。あとで知らせがあると思うけど、伝えておくよ」
「…………」
サリオスは、一方的に謝罪をして、詫びの金貨をロイに渡して去った。
ポカンとしていると、デスゲイズが言う。
『ふむ、なかなか潔いな。ちょっと馬鹿っぽそうだが、もしかしたら根は悪い奴ではないかもな』
「……でも、一方的すぎるだろ」
『まぁ、いいだろう。臨時収入が入ったと思えば』
「言いたいこと言って、金置いて行っちゃった……それに、エレノアの隣とか」
『ライバル、といったところか。まぁ、剣士としてはライバルになりえんがな』
「うっさいな」
ロイは、机に置いてあったペーパーナイフを見た。
「契約の、代償……か」
『文句を言うなよ。こればかりはどうしようもない』
「……わかってるよ」
ロイは、デスゲイズと契約して『聖剣士』の道を諦めた。
その代わりに、最強の『狩人』として生まれ変わった。
『万象眼』という眼を手に入れた。デスゲイズの権能の一つ『暴食』の力で、あらゆる防御を無効化する矢を放てるようになった。
そして、その代わりに。
「───ッッッ!!」
ロイは、ペーパーナイフに右手で触れた瞬間、右手に焼けるような熱さ、刺すような痛み、電撃のような痺れが走った。
「…………」
強大な力を手に入れた『代償』だ。
ロイは、右手を押さえながら言う。
「『あらゆる刃物に触れることができない』……か。ははは、聖剣士になれない誓約か」
ロイは、あらゆる刃物に触れることができなくなった。
食事用のナイフも、ペーパーナイフも。当然、剣も槍も斧も。
木剣には触れることができるので、聖剣レジェンディア学園には通える。
本当に、ロイは聖剣士への道を歩めなくなったのだ。
「…………」
『後悔しているか?』
「まさか」
後悔は、ない。
エレノアの隣を歩くことはできない。
でも……前を歩くエレノアを、援護することはできる。
「これが、俺の道だ。デスゲイズ、これからも頼むぞ」
『任せておけ、相棒』
聖剣が最強の世界で、魔王の力が宿った弓を使う少年ロイ。
ロイの、聖剣レジェンディア学園での学園生活が、真に幕を開けた。
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