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それは地から

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 さっそく、ロスヴァイセによる『聖剣の使い方』が始まった……のだが。
 ユノは、ロスヴァイセをジーっと見て、周囲をキョロキョロする。

「ロスヴァイセ会長、聖剣は?」

 そう、ロスヴァイセは手ぶらだった。
 ロスヴァイセはニコニコしながら手をポンと合わせる。

「ふふ、ロスヴァイセって長いし言いにくいでしょう? ロセで構いませんよ~」
「じゃあロセ会長。聖剣ないの? お部屋忘れた?」
「ゆ、ユノってば!! もうちょっと言い方……」

 エレノアに小突かれ、ユノはゆらゆら揺れた。
 ロセはクスクス笑い、指をパチンと鳴らす……すると、ロセの背後から、全長三メートルを超える巨大な『斧』が現れた。
 いきなり現れた斧に、エレノアたちはギョッとする。

「これが私の聖剣、『地聖剣ギャラハッド』です。ふふ、おっきいでしょう~?」
「す、すごいな……」

 ロセの二倍以上ある、黄金の両刃斧だった。
 刃の部分がギザギザになっており、持ち手の部分もゴツゴツして持ちにくそうだ。だが、ロセはその巨大な両刃斧を片手で摑み、ブンと振り回す。
 
「ど、どこにあったの……? まさか、空から?」
「不正解。まず、みなさんに覚えてもらうのは、聖剣の『収納』です。魔力で作った空間に聖剣を収納しておけば、いつ、いかなる場合でも聖剣を取り出して戦えます。見ての通り、私の聖剣は巨大なので、軽々しく持ち歩けないので……収納空間は便利ですよ?」
「そういえば……王城の護衛をしている聖剣士たちはみんな、聖剣を帯刀していなかったな」

 サリオスは「なるほど……」と頷いていた。
 もちろん、公の場などで帯刀する場合もあるようだが。

「ふふ。上級生に会ったことはまだないですよね? 上級生はみんな、収納空間に聖剣をしまっていますよ。もちろん、例外はありますけどねぇ」
「「「なるほど……」」」

 三人は頷いた。
 ロセはニコニコしながら、両手をポンと打つ。

「今日は、『収納』の習得をしましょう。それと、一人ずつ私とお手合わせして、実力を確認させてくださいね」
「「「はい!」」」

 こうして、生徒会長ロセの指導が始まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 数時間後。

「いいですか? 魔力によるイメージです。身体強化や魔力操作と同じです。魔力で鞘を作るイメージをすれば……ほぉら」

 空間に、黒い穴が空いて『地聖剣ギャラハッド』がズシンと落下、地面に突き刺さった。

「ふんぎぎぎぎ……ッ」

 エレノアは手を前に突き出し、プルプル震えている。

「───……こう、かな?」

 サリオスはコツを掴んだのか、練習開始から一時間で収納空間を精製。

「お菓子、いっぱい入れておけるかも」

 ユノも、開始十分で収納空間を精製した。
 ロセはユノとサリオスに言う。

「お二人の魔力、とてもスムーズに流れていますね。まだ先の話ですけど、『魔法』の習得も早そうです。ふふ、才能でしょうかねぇ」
「あの、あたし、は……、っふんぎぎぎ!!」
「エレノアちゃんは……どうやら、細かい魔力操作が苦手みたいですねぇ。でも、収納空間を精製しようとする魔力量は、この中で一番多いです。潜在的な魔力量は、お二人よりも上ですね」
「そりゃ、どうも……っ!!」

 プルプル震えていると、小さな黒い穴がポコッと開いた。エレノアが顔をほころばせると、すぐに穴は閉じてしまった。

「あ、あぁぁ……」
「大丈夫大丈夫。本来、収納空間の精製は、二学期の後半から始めるんです。なぜこれを最初に始めたかというと……収納空間精製の訓練は、魔力操作や身体強化を使うのに役立つからなんです」
「……なるほど。イメージですね?」
「大正解! サリオスくんは博識ねぇ」
「ど、どうも……」

 収納空間の精製。
 魔力により、現実とは異なる空間を作り、そこに聖剣を収納しておく。
 無から有を作り出す初歩の初歩であり、これには『イメージ』が何よりも絡む。
 イメージは、魔力操作において重要だ。イメージの力で空間を精製するのは、魔力操作をする上で最も難しい。これを習得すれば、魔力操作も上手くなる。
 魔力操作が上手くなれば、身体強化も上手くなる。

「慣れれば寝てても収納を維持できるわ。これから毎日、収納で聖剣をしまっておくようにね~」
「「はい!」」
「は、はい……うう、できるのかな」

 エレノアは、がっくり項垂れてしまった。
 ロセは「慣れれば大丈夫だから、がんばって」と明るく声をかける。
 
「じゃあ次ね。一人ずつ、私と模擬戦をします。今から私は、皆さんがこれから習得すべき技術を見せますので、しっかり見ておくように。ああ……皆さんは、私を殺すつもりでかかってきてくださいね?」

 再び、地聖剣ギャラハッドが上空から落ちて来た。
 ロセは身体強化で数メートル跳躍し、柄を片手で摑む。そして、落下の勢いを利用して聖剣を地面から引き抜き、思いきり振り回しながら着地した。
 ダイナミックな振り回しに、三人は圧倒され───瞬時に、理解した。
 ロセは、魔界貴族『伯爵』のベルーガより、遥か格上だ、と。

「……オレから行くよ」
「殿下……」
「だいじょぶ? 怪我しない?」
「ははは……勝てる気はしないけどね。でも、強くなりたいからさ」

 サリオスは、光聖剣サザーランドを抜いてロセに突き付ける。
 生徒会長だから、女子だからなどという考えはもうない。ロセは遥か格上。剣を合わせれば得る物は多い……サリオスは、ぶるりと震えた。

「では───行きます!!」
「はぁい」

 授業で、ほんの少しだけ習った『身体強化』で走り出すサリオス。
 まだまだ拙い。身体を流れる魔力は荒く、強化も甘い。でも、普通に生身で突っ込んでくるよりはマシだろう。
 
「トラビア王宮剣技───「はいダメ~」……えっ!?」

 なんと、『地聖剣ギャラハッド』の柄が分離し、サリオスの横薙ぎを柄が受け止めた。正確には、柄に収納されていた『短槍』だった。
 ロセは言う。

「まず、きみたちは剣術に頼りすぎです。せっかく女神の聖剣を持ってるんだから、もっと特性を理解して、聖剣を『使って』戦わないと───……って、あらら! 模擬戦って言ったのに、指導になっちゃったわぁ~……ごめんなさいねぇ」
「い、いえ……」
「せっかくだし、このまま続けましょうか。まず、聖剣の最初の能力……『変形』です」
「変形……?」
「ふふ、聖剣はいくつかの形態に変形することができます。私の場合、柄を分離させた『短槍』が一つ。ほかにもありますけど……今は秘密です」
「……じゃあ、オレの剣も」
「はい。状況に応じて、変形させることが可能です」
「すごい……」
「さ、続けますよ」
「はい!!」

 剣術だけに頼るな。
 その教えをサリオスは頭に入れ、自分にできることを考える。
 今の自分ができるのは、幼少期から習っている『トラビア王宮剣術』と、光聖剣サザーランドを発光させることだけ。
 聖剣の属性を利用した『魔法』や、聖剣を『変形』させることはまだできない。
 サリオスの連続攻撃を、ロセは短槍を器用に使って捌く。

「……すごいわ」
「殿下も間違いなく強い。でも……ロセ会長、見切った上で殿下の攻撃を丁寧に捌いてる。殿下がやりやすいように、本気を出させようとして……」
「……ねぇ、変形ってどう思う?」
「……できるのかな。これ、すっごく細いけど」

 ユノは氷聖剣を見る。
 変形。姿を変えることができるとは思えないが、ロセが言うならできるのだろう。
 すると、サリオスの剣が、ロセの槍に弾き飛ばされた。

「はい、ここまで」

 槍の先端がサリオスの首に突き付けられる。
 サリオスは肩で息をして、大汗を掻いていたが……ロセは、汗一つ流さず、息も乱れていない。
 
「素直な剣で、非常に読みやすいですね。実戦経験はほぼゼロ。習った剣をそのまま使っています。まだまだ伸びしろがあるので、これから毎日特訓しましょうね!」
「は、は、はい……っぷは」

 ロセはにっこり笑い、収納からタオルとドリンクを取り出してサリオスへ。
 サリオスは、ありがたく受け取り、汗を拭いながらドリンクを飲み、エレノアたちの元へ。
 
「……自分がいかに弱いのかを思い知ったよ」
「どんまい」
「さすが生徒会長ね……バケモノだわ」
「でも、追いついてみせるさ。そうだろう、エレノア、レイピアーゼ令嬢」
「そうね……めっちゃやる気出てきたし!」
「わたしも。それと殿下、ユノでいいよ」
「……ああ、ありがとう、ユノ」

 ユノは、サリオスの頑張りを評価したのか、名前呼びを許してくれた。
 そんな三人を見ながら、ロセはうんうん頷く。

「青春ねぇ~……はふぅ」
「次、あたしが行きます!!」
「はぁ~い。ふふ、エレノアちゃんね」

 エレノアは『炎聖剣フェニキア』を構え、刀身に炎を纏わせる。

「では、行きま───……って、わわわわわっ!!」

 突如、地震が発生した。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「…………ん?」
『む、どうしたロイ』
「…………これは」

 ロイは、魔族狩りの帰り、平原の道をのんびり歩き……立ち止まった。
 背中が妙にぞわぞわする。
 地面に手を触れると、不快感が増したような気がした。

「デスゲイズ、妙な気配を『───チッ、来たか』……え?」
『ロイ、来るぞ……ヤツが、パレットアイズが動き出した』
「え───……って、うぉぉぉぉ!?」

 突如、地震が起きた。
 大地震だった。
 ロイですら立っていることができない大地震。思わず態勢を低くする。
 ただの地震ではない。
 
「なんだ、これ……」

 下から、何かが来る。
 ロイの位置から数百メートル先の地面に巨大な亀裂が入った。
 そして───……大地を突き破るように、巨大な『城』が現れた。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ななな、なんだコリャァァァァァァァ!?」

 ロイは絶叫した。
 地面から巨大な『城』が現れれば、誰だって叫ぶだろう。
 地震が収まると、遠目で見たことのあるトラビア王城よりも巨大な『城』が、ロイの数百メートル先にドドンと鎮座している……まるで、初めからあったような存在感に、声も出ない。

「…………城」

 ロイがポツリと言うと、デスゲイズが言った。

『これが【箱庭空間ダンジョン】だ。パレットアイズが人間界に作り出す《遊び場》で、数は最大で五つ。四人の魔界貴族『侯爵』が管理するダンジョンと、パレットアイズの側近である『公爵』が管理するダンジョンが一つだ。ククク、ちょうどいい……ロイ、乗り込んで魔界貴族を始末しろ』
「できるかボケ!!」

 ロイは叫び、トラビア王国に向けて猛ダッシュした。
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