146 / 182
一夜の重さ
しおりを挟む
巨大な蝶となったエルサが王国内に現れ数時間が経過。
生徒会室にて。バビスチェはササライと食事をしていた。
テーブルにクロスを掛け、食堂にいたコックを『洗脳』して作らせた高級料理に舌鼓を打つ二人。
「ん~おいしい。ね、ササライ」
「うん。味の秘訣はこのソースかな? お肉の味を引き出してるね」
バビスチェは満足そうにしている。
ササライもニコニコしながら食事をしていた。だが、ササライの背後にいる赤髪の少女ヴェスタは、先ほどから喉をゴクンと鳴らし、ステーキをジッと見ていた。
「ね、バビスチェ。もう夜だけど……これからどうするんだい?」
「そうねぇ……」
バビスチェは口をナプキンで拭き、ワイングラスを指で弾く。
チーンと透き通った音が響き、首を傾げながら言う。
「いつもなら、愛を振りまいてしばらく放置。勘のいい聖剣士や他国から来た聖剣士たちがこの状態に気付いて、ようやく私の手番で国が傾き始めてる、って気付くんだけど……今回はいろいろイレギュラーなのよねぇ。わりと早く勘づかれちゃって、可愛いペットを殺されちゃった」
「うんうん。やっぱり、侮れないよね」
「そうねぇ。でも、まだ初日だし焦らないことにするわ。私の『魔王聖域』が展開されている以上、暴力行為はできないしね。それに、アンジェリーナちゃんも動き出したし」
「アンジェリーナ。きみの公爵級だよね……けっこう強いみたいだけど、大丈夫なのかい?」
「まあねぇ~」
バビスチェは、ワインボトルを手に取ろうとするが、ササライが先に取る。
そして、バビスチェのグラスに注いだ。
血のように赤いワインをバビスチェは揺らす。
「いつもとは違うことが多いけど~……まあ、楽しむわぁ」
「……バビスチェ」
「ん?」
「トリステッツァのこと、忘れないようにね。ボクらの誰もが、彼が死ぬなんて考えていなかった……何度でも言うけど、今回の七聖剣士は侮らない方がいい。それと……八咫烏もね」
「大丈夫よ~……私、七聖剣士に敵意なんてないからねぇ」
「…………ま、頑張って。ああそうだ、一つだけ頼みがあるんだ」
「ん?」
「次はボクの手番でね。ボクの部下を一名、配置していいかい? もちろん手は出させない」
「…………まぁ、いいけどねぇ」
「ありがとう」
ササライは笑い、ソワソワしていたヴェスタに言う。
「ヴェスタ」
「はい、主!!」
「そこのワインボトル、取ってくれない?」
「……え。私じゃないんですか?」
「ああ。キミはボクの護衛。今回は───あの子に任せてる」
「むぅ」
ヴェスタは不満そうに、ワインボトルをササライに渡した。
◇◇◇◇◇
「…………ぅ」
『起きたか、ロイ』
「……デスゲイズ」
目を開けると、ロイは温かい何かに包まれていた。
温かいだけじゃない。甘い香りがして、ふわりと柔らかい……素肌に触れるスベスベした感覚が何とも心地よく、ロイは夢を見ているのかと思ってしまう。
完全に目を開けると……モゾモゾと何かが動いた。
「……ん」
「え」
『……ククク』
ロイに抱きついていたのは、アオイだった。
毛布を巻き付け、裸で抱きついている。
しかも、ロイも服を着ていないことに気付いた。
「……ん、起きたか」
「あ、あ、アオイ……?」
「手当はしたが、体温が低くてな……拙者の身体で温めた」
ロイとアオイは密着し、毛布を巻き付けて寝ている状態だった。
これには驚き離れようとするが、アオイが逃がさない。
「まだ動くな。手当はしたが、傷は深い」
「いでっ!?」
身体を動かすと、ビキビキと軋む。
それだけじゃない。血が足りずフラフラした。
アオイは、ロイの胸に甘えるように密着する。
「すまない……全て、拙者が弱いせいで、こんな……」
「……気にするなって。それより、怪我は?」
「ない。ロイ殿……あなたには感謝している。拙者を、魔王の支配から解放してくれた。拙者……いや、私を女と認めてくれた。ありがとう」
「あ、ああ……」
アオイが密着する。
柔らかな胸の感触がダイレクトに伝わり、意識してしまう。
そして、アオイは言う。
「ロイ殿、あなたに頼みがある」
「え……」
「もし、魔王を撃退して、平和を取り戻すことができたら……あなたに、私の女を捧げたい」
「ブッ」
「女である私を受け入れたあなたしか考えられない。頼む」
「あ、いや、その」
『ククク。面白い、面白いぞ。エレノアとユノに聞かせてやりたいな!!』
デスゲイズが興奮していた。
へし折ろうとしたが、部屋の隅に立てかけてあるので届かない。
そして、部屋を見渡して気付いた……窓の外が、暗い。
「待った。今、夜……アオイ、時間、どれくらい経過した!? 王都は」
「……五時間ほど経過した。完全に日が暮れ、今は夜だ」
「───!!」
ロイは毛布を剥がし、起き上がる。
傍にあった制服を着こみ、デスゲイズを手に取った。
「こうしちゃいられない!! アオイ、王都に……ぅ」
アオイは裸だ。恥ずかしがりもせず、ロイに裸身を晒している。
ロイは毛布をアオイに渡す。
アオイは、冷静に言う。
「落ち着け。今動いてもどうにもならない。あと数時間、きっちり休んで夜明けと共に行動を開始すべきだ」
「……でも」
『ロイ。アオイの言う通りだ。少しでも休んで体力を回復しろ』
「……っ」
二人の言う通りだった。
まだ、本調子ではない。
『休みながら、これまでのことをまとめておけ。今の状況を整理すれば、これからどうすべきか見えてくるはずだ』
「……わかった。アオイ、ごめん」
「いい。さ、もう少し温まろう。私の毛布に」
「い、いやそれは……ってか、少しは恥ずかしがれっての!!」
アオイは毛布を開いて裸身を晒し、ロイを招き入れようとする。
ロイは顔を背けた。さすがに二人きりでこの状況はヤバすぎる。
デスゲイズが『エレノアとユノには黙っておくぞ?』と言ったので弓をブン投げ、部屋を見渡した。
「ここ、廃村だよな」
人気がない。
窓から外を見ると、小さな家が二十軒ほどの小さな村だ。
畑の跡が見え、川も流れている。
ロイとアオイのいる家は、椅子テーブルと粗末なベッド、小さな暖炉がある家だ。
毛布をマントのように羽織ったアオイは近くの民家からボロボロの椅子やテーブルを運び、『雷聖剣イザナギ』の居合で一瞬でバラバラに。暖炉に入れ、雷魔法で火を点けた。
再び外に出ると、何本かトウモロコシを持ってきた。
「外の畑にあった。獣に食われていたが、無事なのがいくつかあったぞ」
「おお、焼いて食うか」
「ああ。それと、水も」
家にあった鍋で湯を沸かし、綺麗に洗った家のカップに入れる。
トウモロコシを焼き、二人で食べた。
そして、アオイは近くの民家から使えそうな服を探し、川で洗って暖炉の傍に干した。乾いてから着るのだろう。
食事を終え、一服していると───ロイが気付いた。
少し遅れてアオイが気付き立ち上がる。手には『雷聖剣イザナギ』があった。
「アオイ」
「ああ……」
何かの気配。
近づいてくるのがわかる。
ロイは弓を手にし、窓へ近づく。
それは、小さな何かだった。
月明かりで見にくいが……球体だった。
アオイが飛び出そうとしたので、ロイは止めた。
そして、ドアの前で止まり、ロイはドアを開けた。
「……お前」
『…………』
それは、小さなトラだった。
桃色の毛をした斑模様のトラが、うつむいていた。
『あたし、用済みだって……殺されかけて、逃げてきた』
「……そっか」
『もう、行く場所もない。そう思ったら……お前の匂いを感じた』
「ちょうどよかった」
『え? ぁ……』
ロイはシェンフーを抱きかかえ、モフモフと抱きしめた。
「寒かったんだ。少し抱っこさせろ。ああ、メシ食ったか? トウモロコシあるぞ」
『……殺さないのか』
「ああ。もう、バビスチェに対する恩義とか気持ち、ないだろ。だったら今日からお前は俺のペットだ。三食付きで、俺の部屋で飼ってやるよ」
『……うん。それも悪くないな』
そう呟き、シェンフーはロイの胸で精いっぱいの甘えを見せた。
生徒会室にて。バビスチェはササライと食事をしていた。
テーブルにクロスを掛け、食堂にいたコックを『洗脳』して作らせた高級料理に舌鼓を打つ二人。
「ん~おいしい。ね、ササライ」
「うん。味の秘訣はこのソースかな? お肉の味を引き出してるね」
バビスチェは満足そうにしている。
ササライもニコニコしながら食事をしていた。だが、ササライの背後にいる赤髪の少女ヴェスタは、先ほどから喉をゴクンと鳴らし、ステーキをジッと見ていた。
「ね、バビスチェ。もう夜だけど……これからどうするんだい?」
「そうねぇ……」
バビスチェは口をナプキンで拭き、ワイングラスを指で弾く。
チーンと透き通った音が響き、首を傾げながら言う。
「いつもなら、愛を振りまいてしばらく放置。勘のいい聖剣士や他国から来た聖剣士たちがこの状態に気付いて、ようやく私の手番で国が傾き始めてる、って気付くんだけど……今回はいろいろイレギュラーなのよねぇ。わりと早く勘づかれちゃって、可愛いペットを殺されちゃった」
「うんうん。やっぱり、侮れないよね」
「そうねぇ。でも、まだ初日だし焦らないことにするわ。私の『魔王聖域』が展開されている以上、暴力行為はできないしね。それに、アンジェリーナちゃんも動き出したし」
「アンジェリーナ。きみの公爵級だよね……けっこう強いみたいだけど、大丈夫なのかい?」
「まあねぇ~」
バビスチェは、ワインボトルを手に取ろうとするが、ササライが先に取る。
そして、バビスチェのグラスに注いだ。
血のように赤いワインをバビスチェは揺らす。
「いつもとは違うことが多いけど~……まあ、楽しむわぁ」
「……バビスチェ」
「ん?」
「トリステッツァのこと、忘れないようにね。ボクらの誰もが、彼が死ぬなんて考えていなかった……何度でも言うけど、今回の七聖剣士は侮らない方がいい。それと……八咫烏もね」
「大丈夫よ~……私、七聖剣士に敵意なんてないからねぇ」
「…………ま、頑張って。ああそうだ、一つだけ頼みがあるんだ」
「ん?」
「次はボクの手番でね。ボクの部下を一名、配置していいかい? もちろん手は出させない」
「…………まぁ、いいけどねぇ」
「ありがとう」
ササライは笑い、ソワソワしていたヴェスタに言う。
「ヴェスタ」
「はい、主!!」
「そこのワインボトル、取ってくれない?」
「……え。私じゃないんですか?」
「ああ。キミはボクの護衛。今回は───あの子に任せてる」
「むぅ」
ヴェスタは不満そうに、ワインボトルをササライに渡した。
◇◇◇◇◇
「…………ぅ」
『起きたか、ロイ』
「……デスゲイズ」
目を開けると、ロイは温かい何かに包まれていた。
温かいだけじゃない。甘い香りがして、ふわりと柔らかい……素肌に触れるスベスベした感覚が何とも心地よく、ロイは夢を見ているのかと思ってしまう。
完全に目を開けると……モゾモゾと何かが動いた。
「……ん」
「え」
『……ククク』
ロイに抱きついていたのは、アオイだった。
毛布を巻き付け、裸で抱きついている。
しかも、ロイも服を着ていないことに気付いた。
「……ん、起きたか」
「あ、あ、アオイ……?」
「手当はしたが、体温が低くてな……拙者の身体で温めた」
ロイとアオイは密着し、毛布を巻き付けて寝ている状態だった。
これには驚き離れようとするが、アオイが逃がさない。
「まだ動くな。手当はしたが、傷は深い」
「いでっ!?」
身体を動かすと、ビキビキと軋む。
それだけじゃない。血が足りずフラフラした。
アオイは、ロイの胸に甘えるように密着する。
「すまない……全て、拙者が弱いせいで、こんな……」
「……気にするなって。それより、怪我は?」
「ない。ロイ殿……あなたには感謝している。拙者を、魔王の支配から解放してくれた。拙者……いや、私を女と認めてくれた。ありがとう」
「あ、ああ……」
アオイが密着する。
柔らかな胸の感触がダイレクトに伝わり、意識してしまう。
そして、アオイは言う。
「ロイ殿、あなたに頼みがある」
「え……」
「もし、魔王を撃退して、平和を取り戻すことができたら……あなたに、私の女を捧げたい」
「ブッ」
「女である私を受け入れたあなたしか考えられない。頼む」
「あ、いや、その」
『ククク。面白い、面白いぞ。エレノアとユノに聞かせてやりたいな!!』
デスゲイズが興奮していた。
へし折ろうとしたが、部屋の隅に立てかけてあるので届かない。
そして、部屋を見渡して気付いた……窓の外が、暗い。
「待った。今、夜……アオイ、時間、どれくらい経過した!? 王都は」
「……五時間ほど経過した。完全に日が暮れ、今は夜だ」
「───!!」
ロイは毛布を剥がし、起き上がる。
傍にあった制服を着こみ、デスゲイズを手に取った。
「こうしちゃいられない!! アオイ、王都に……ぅ」
アオイは裸だ。恥ずかしがりもせず、ロイに裸身を晒している。
ロイは毛布をアオイに渡す。
アオイは、冷静に言う。
「落ち着け。今動いてもどうにもならない。あと数時間、きっちり休んで夜明けと共に行動を開始すべきだ」
「……でも」
『ロイ。アオイの言う通りだ。少しでも休んで体力を回復しろ』
「……っ」
二人の言う通りだった。
まだ、本調子ではない。
『休みながら、これまでのことをまとめておけ。今の状況を整理すれば、これからどうすべきか見えてくるはずだ』
「……わかった。アオイ、ごめん」
「いい。さ、もう少し温まろう。私の毛布に」
「い、いやそれは……ってか、少しは恥ずかしがれっての!!」
アオイは毛布を開いて裸身を晒し、ロイを招き入れようとする。
ロイは顔を背けた。さすがに二人きりでこの状況はヤバすぎる。
デスゲイズが『エレノアとユノには黙っておくぞ?』と言ったので弓をブン投げ、部屋を見渡した。
「ここ、廃村だよな」
人気がない。
窓から外を見ると、小さな家が二十軒ほどの小さな村だ。
畑の跡が見え、川も流れている。
ロイとアオイのいる家は、椅子テーブルと粗末なベッド、小さな暖炉がある家だ。
毛布をマントのように羽織ったアオイは近くの民家からボロボロの椅子やテーブルを運び、『雷聖剣イザナギ』の居合で一瞬でバラバラに。暖炉に入れ、雷魔法で火を点けた。
再び外に出ると、何本かトウモロコシを持ってきた。
「外の畑にあった。獣に食われていたが、無事なのがいくつかあったぞ」
「おお、焼いて食うか」
「ああ。それと、水も」
家にあった鍋で湯を沸かし、綺麗に洗った家のカップに入れる。
トウモロコシを焼き、二人で食べた。
そして、アオイは近くの民家から使えそうな服を探し、川で洗って暖炉の傍に干した。乾いてから着るのだろう。
食事を終え、一服していると───ロイが気付いた。
少し遅れてアオイが気付き立ち上がる。手には『雷聖剣イザナギ』があった。
「アオイ」
「ああ……」
何かの気配。
近づいてくるのがわかる。
ロイは弓を手にし、窓へ近づく。
それは、小さな何かだった。
月明かりで見にくいが……球体だった。
アオイが飛び出そうとしたので、ロイは止めた。
そして、ドアの前で止まり、ロイはドアを開けた。
「……お前」
『…………』
それは、小さなトラだった。
桃色の毛をした斑模様のトラが、うつむいていた。
『あたし、用済みだって……殺されかけて、逃げてきた』
「……そっか」
『もう、行く場所もない。そう思ったら……お前の匂いを感じた』
「ちょうどよかった」
『え? ぁ……』
ロイはシェンフーを抱きかかえ、モフモフと抱きしめた。
「寒かったんだ。少し抱っこさせろ。ああ、メシ食ったか? トウモロコシあるぞ」
『……殺さないのか』
「ああ。もう、バビスチェに対する恩義とか気持ち、ないだろ。だったら今日からお前は俺のペットだ。三食付きで、俺の部屋で飼ってやるよ」
『……うん。それも悪くないな』
そう呟き、シェンフーはロイの胸で精いっぱいの甘えを見せた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
355
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる