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閑話⑤

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「ええい、エミネムはどこへ行ったのだ!!」

 グレムギルツ公爵邸にて。
 ボーマンダは数日ぶりに屋敷に戻ってきたが、戻るなり執事が慌てて報告に来た。
 何でも、エミネムが置手紙を残し、消えたのだとか。
 話を聞くなり、なぜすぐ報告しなかったのかを執事に問い詰めたが……『何度もお取次ぎしたのだが、応じてもらえなかった』と言われた。
 確かに、仕事が忙しく、不必要な報告は全てシャットアウトしていた。
 だが……それ以上に困惑したのが、エミネムの手紙だった。

『ラスティス様について行きます』

 つまり、ラスティスと共に、デッドエンド大平原へ行ったということだ。
 そう確信した時、ボーマンダは手紙を破り捨てていた。
 そして、娘の不在に気づかなかった母親を責め、息子にも文句を言おうと久しぶりに声を掛けようとしたら。

「その、ケイン様は、仕事で領地の視察に……」
「…………」

 公爵代理を任命したのはボーマンダだ。仕事なら責めようがない。
 まぁ、領地の視察と言っても『ギルハドレット領地の視察』だ。ケインは『領地に視察に行く』とだけ報告しており、どこへ行くか、何をしに行くのかは伝えてない。なので、ギルハドレット領地に向かっても全く問題がない。
 そんなことも知らずに、ボーマンダはイライラしていた。
 屋敷の自室で、濃度の高いウイスキーを飲みながら考える。

「ラスティス・ギルハドレット……か」

 ラスティス・ギルハドレット。
 ボーマンダの元弟子。『神スキル』持ちで、ボーマンダが直々に剣を仕込んだ男。
 不思議な男だった。
 若いころは情熱に溢れ、それでもどこか飄々としていた。
 騎士団の部隊を一つ任せてみると、瞬く間に部下たちに好かれた。ラスティスが鍛えた部下たちは、王都最強と言っても過言ではなかった。
 ラスティスが七大剣聖に選ばれたのは、十五歳の時だった。
 たかが十五歳が、年上だらけの部隊員たちに好かれ、七大剣聖に抜擢された。
 
「……クソ」

 ボーマンダは、気に食わなかった。
 アルムート王国最強の七大剣聖。アルムート王国最強の騎士団。双方を率いる男。
 その地位が、脅かされたような気がした。
 そして、もう一人。

『十二歳だと!? 子供ではないか!!』
『し、しかし……ヴァルファーレ公爵家からの、推薦でして……無下にはできず』

 ラスティスが七大剣聖になると同時に、『天才』がやってきた。
 ラスティス・ヴァルファーレ。
 ヴァルファーレ公爵家の天才少年。七歳の時すでに、公爵家お抱えの騎士では歯が立たない強さ。
 ランスロットが十二歳で騎士となり───当時の七大剣聖の一人を、僅か一分足らずで叩きのめし、その地位を奪った。
 ラスティス以上。ボーマンダは、面白くなかった。

「チッ……最強は、ワシでなくてはならんのだ……この、アルムート王国最強騎士、ボーマンダでなくてはな!!」

 グラスを叩きつけるようにテーブルに置く。
 今度は、ワインに手を伸ばす。
 コルクを開け、血のように赤い液体をグラスに注ぐ。

「……まあ、いい」

 『冥狼侵攻』時、ラスティスは七大剣聖ではあったが、元部下たちと共に戦いに出た。
 『七大魔将』の一人、『冥狼ルプスレクス』……上級魔族とは比べものにならない、七大剣聖だろうと相手ができるかわからない敵と、戦った。
 その時、何があったのか? ボーマンダにもわからない。
 気づいたとき、ラスティスではなくランスロットが、ルプスレクスの首を持ち勝鬨を上げていた。
 そして、なぜかラスティスは……腑抜けになっていた。

「…………」

 どう考えても、ランスロットがラスティスの手柄を奪った。
 その功績で、ランスロットは七大剣聖のナンバーツーに、ラスティスは腑抜けたまま、男爵という低い地位と、僻地であるギルハドレット領地に向かった。
 ラスティスの件は、片付いた。
 だが……今度は、ランスロットが調子に乗り始めた。

 『冥狼侵攻』から四年後。
 ランスロットが十六歳になった時、ランスロットは『アロンダイト騎士団』という、女だけの、スキルまたは『神スキル』持ちの少女たちを集めて、騎士団を始めたのだ。
 ボーマンダは当然、そんな『ママゴト遊び』を許さない。

「あの、ボンクラ国王め……!!」

 だが……ディスガイア王が、許可を出した。
 ボーマンダ、ランスロットによる二大騎士団で、王国を守れ。
 馬鹿馬鹿しいにもほどがあった。
 その時から、ボーマンダの真の敵はランスロットとなった。

 「……チッ、飲みすぎたわ」

 ボーマンダは、空っぽになったワインボトルを投げ捨てた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ボーマンダは、椅子に座ったまま寝ていたらしい。
 起き上がり、着替え、朝食を食べ、王城へ向かう……エミネムがいなくても、ボーマンダには仕事が山積み。働かなければならない。
 執務室に入り、さっそく書類に目を通そうとした時だった。

「だ、団長!! 失礼いたします!!」
「騒々しいぞ」
「も、申し訳ございません!! あの、エミネム様が戻られました!!」
「何!!」
 
 思わず立ち上がる。
 部下の騎士が、その威圧にビクッと震えあがった。

「な、中庭にいます。『竜巻』に乗り、七大剣聖ラスティス様と戻られたようです」
「ラスティス・ギルハドレット……!!」

 ボーマンダは歯を食いしばり、エミネム、そしてラスティスを問い詰めるべく部屋を出た。
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