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脇役剣聖、いざ決戦へ

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 十日後。
 俺、サティ、フルーレ。そしてロシエル、スレッド、エミネムの六人は、ギルハドレッドの領主邸にいた。
 修行を終え、今は休養期間……修行で酷使した身体を休め、万全の状態にする。
 今は、領主邸に増築した風呂に、俺とスレッドは入っていた。

「いい湯だぜぇ~……あぁぁ」
「なあスレッド。お前さ……盗賊なんだろ? 今更すぎるけど、俺たちの味方していいのか?」
「ああ。問題ねぇぜ。基本的にオレら盗賊団『カルマ』は、舐めた奴はブチのめすってポリシーで動いてる。今回は魔族の連中に舐められたし、ブチのめすことに変わりねぇ」
「そっか……なあ、お前」
「盗賊はやめねぇぜ」

 スレッドはまっすぐ俺を見て言った。

「オレら『カルマ』の仲間は、絆で繋がっている。盗賊家業は、昔オレらをハメた悪どいクソ共に借りを返す絶好の職業なんだ。ラス、てめーはいいヤツだが、この件でウダウダ言うようなら、敵とみなすぜ」
「……それが、お前の信念なのか?」
「ああ。もともと、オレと『カルマ』の団員は、同じ孤児院で育った仲間なんだ。で……孤児院の姉さん……オレの姉が、孤児院の支援をするって近づいてきたクソ貴族に、まあ手籠めにされちまってな……」
「…………」
「帰って来た時は、まあ酷い状態だった。いたぶられ、弄ばれ、ガキだったオレですら身震いするくらい『悪』を感じたぜ。なんとか一命は取り止めたが、今も心の傷は治っていない……信頼できる医師の元で、静かに過ごしている」
「……お前は、どうしたんだ?」
「オレは姉をあんな目に合わせた貴族が許せなくてな。『神スキル』と『神器』に一気に目覚めて、その貴族を殺した。初めての殺しだった」
「…………」
「空っぽだった。殺しをしたけど、何も残らなかった」

 スレッドは後悔している。俺は、そう見えた。
 でも、全てを抱え込むように拳を握り、俺に突き付ける。

「何も残らなかったが……一つだけわかった。復讐は、やればスッキリする。だからオレは決めたんだ。弱い者を食い物にする連中をブチのめして、弱者の代わりに制裁する。奪う連中から全て奪って、弱い連中にバラまいてやる。そうすれば、みんなスッキリするんじゃねぇか、ってな。だからオレは孤児院の仲間たちと『カルマ』を作ったんだ」
「……賞金首になって、後悔はないのか?」
「ないね。オレが死ぬときは決まってる……いつかオレも、奪われる側になる時だ」
「…………」

 覚悟は決まっているようだ……こういうヤツは強い。
 戦う時がいずれ、来るかもしれない。俺はそう思った。

「でもまあ……あんまり、思い残すことはねぇんだ。姉さんを預けた医者が、姉さんのことを一生守りたいって言うし、姉さんも医者に心を許している。あの医者ならきっと、姉さんも幸せになれる。だからオレは……自分に全て還ってくるまで、『カルマ』でいようって決めているんだ」
「……スレッド」
「そんな顔すんじゃねぇ。さっきも言ったが、オレは後悔してねぇんだ。今考えることは、舐めたことする魔族をブチのめすことだろうが。それに……あのロシエルとかいうガキのおかげで、オレも前より強くなったしな……へへへ、暴れてやるぜ」
「おう。よし、風呂あがったら飲もうぜ。奢ってやる」
「お、いいねおっさん。へへ、あんたみたいに話を聞いてくれるヤツ、初めてだぜ」

 スレッドは俺に拳を向けた。
 俺も拳を伸ばし、スレッドと合わせるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 風呂上り。スレッドと飲み、いい気分のまま解散した。
 部屋に戻ろうとすると、二階のバルコニーにサティ、エミネムがいた。

「おう、お前たち」
「あ、師匠」
「ラスティス様。お疲れ様です」

 寝間着なのか、二人とも薄着だ。
 こうしてみると……んー、サティは全体的に以前より引き締まっている。エミネムもかなりいい。
 なまじ『眼』がいいので、以前との違いに気付いてしまう。
 すると、サティがモジモジして俺を見ているのに気付いた。

「サティ、どうした?」
「えっと……その、緊張してて。エミネムさんにお話聞いてもらったんですけど……まだ、緊張が」
「ああ、あと三日で戦いだしな……そりゃ緊張するさ」
「あの、師匠……緊張しない方法って、ありますか?」
「ない。俺だって、カジャクトとの戦いで死ぬかもしれないんだ。緊張だってするさ」
「でもでも、師匠は強いし」
「強いのと、死ぬことは無関係だ。いいか……自信を持て。お前もエミネムも、以前とは比べものにならないくらい強くなった。俺が保証する」
「師匠……」
「エミネム。お前も緊張してるだろ?」
「……はい。一対一、援軍もない、本当の戦いですから」

 そう、今回の戦いは一対一だ。
 正々堂々。間違いなく、竜族の連中は本気で戦う。
 戦いに掛ける誇りは間違いなく本物だ。だからこそ、たとえ死ぬことになろうとも、俺は手を出さないつもりだ。

「気楽にいけ、とは言わん。死んでも悔いのないよう、全力を出せ」
「「…………」」

 二人は何とも言えないような表情だった。
 これに関して俺が言えることはない。それに……。

「俺は、お前たちが勝つと信じている。サティ、エミネム……頑張れよ」
「……はい!!」
「わかりました、ラスティス様の信頼に応えてみせます!!」

 二人を激励、部屋に帰るように言った。
 すると、気配を消していたフルーレが柱の影から出てきた。

「本当に、二人が死にそうになっても助けないつもりね」
「ああ。フルーレ……お前も、絶対に手を出すなよ。悪いがその時は、全力で止める」
「わかっている。いくら魔族相手でも、決闘の礼儀くらいはわきまえているわ」
「……なら、いいけどな」

 それだけ言い、フルーレも部屋に戻った。
 俺は部屋に戻る前に、ロシエルの部屋のドアをノックする。

「……あれ、いないのか」

 部屋にいないようだ。激励しようと思ったが……まあ、いいか。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ロシエルは、ギルハドレッド領主邸の裏庭で一人いた。

「…………」

 三日後、魔族と命を賭けた真剣勝負をする。
 不思議と、心は落ち着いていた。何故なら、負けるはずがないと確信しているから。
 仮に、ランスロットやボーマンダ相手でも、ロシエルは勝てるつもりだった。

「…………」

 だが、ラスティス。
 彼に関しては、確実に勝てるとは言えなかった。
 模擬戦という名の『殺し合い』をしてわかった。

「……あいつ、本当に強いな。ランスロットや団長よりも」
「そりゃほめ過ぎだ」
「ッ!?」

 いつの間にか隣に、ラスティスがいた。
 気配をまるで感じなかったが、七大剣聖なら誰もが気配を完全に殺せる。油断していたロシエルが悪い。
 ラスティスは、ロシエルを見て言った。

「歌、好きか?」
「───………え」
「誰にも言ってない。ミルキィちゃんのこと」

 背筋に冷たい汗が流れた……ラスティスは、ロシエルが『ミルキィ』だと気付いていた。

「俺のスキルは『神眼』……身体を循環する魔力の流れを見る。人間の身体に流れる魔力は、声や指紋と同じで、それぞれ違うんだよ……で、お前とミルキィちゃんの流れが全く同じだから、双子か、もしくは同一人物かって思った。でも、足運びや歩幅、呼吸の回数や鼓動のリズムが、ミルキィちゃんと全く同じだった。だから、同一人物って気付いたんだ」
「…………」

 ロシエルはため息を吐き、顔を隠していたマフラーと帽子を取った。
 そこに会ったのは、見慣れた『ミルキィ』の顔。

「それで、どうするつもり? 七大剣聖のくせに、楽団でチヤホヤされるために歌を歌ってるって、団長に報告する?」
「んなことするか。お前の事情とかどうでもいいし、歌姫と七大剣聖を両立してるのがスゲェって思うくらいだしな」
「…………」
「誰にも言うつもりはないし、こうして聞いたのも確認のつもりだから気にすんな。それより……竜族を舐めるなよ。あいつらは『領域』を持たない代わりに、魔力でアホみたいに身体強化をする。力じゃ間違いなく勝てないぞ」
「知ってる。少し見ただけでわかった……でも、勝つよ」
「……それならいいさ」

 それだけ言い、ラスティスは屋敷へ戻ろうとする。

「ああ、それと……お前の歌、俺は好きだぜ。また聞きに行くよ」

 それだけ言い、ラスティスは屋敷に戻った。
 ロシエルはラスティスが去ったドアを見ながら笑う。

「……変なヤツ」

 戦いは三日後。魔界最強である竜族との戦いが始まる。
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