最弱召喚士の学園生活～失って、初めて強くなりました～

二度目の茶会

　アルベロは、寮に戻るなり自室へ。
　以前買った礼服を引っ張り出しておく。エステリーゼの茶会は四日後、準備は礼服を引っ張り出すだけで終わった……正直、やる気がない。
　そして、談話室へ向かい、誰もいないことに気付く。

「……誰もいない。ニスロクやレイヴィニアもいないのは珍しいな」

　魔人の姉弟は、学園内だけ外出が許可されている。
　ガーネットがお小遣いを渡しているので、購買に買い食いでも行ったのか。適当に考え、喉が渇いたのでキッチンに向かい、水を飲む。
　すると、寮のドアが開き、全員戻ってきた。

「おう、みんなしてどこ行ってたんだ？」
「アルベロ……あんた、タイミング悪いわね」
「オレは二度も同じ事言うつもりないからな」

　アーシェが呆れ、キッドは部屋に戻った。
　首を傾げるアルベロ。すると、リデルとラピスが苦笑した。
　そして、レイヴィニアが言う。

「キッドのやつ、フロレンティア姉にいっぱい虐められたみたいだ。あいつの過去、けっこう暗くて重たかったぞー」
「え……お前、何を聞いてたんだ？」
「あいつの過去」
「……お、俺は聞いてないけど」
「あはは。タイミング悪かったなー」

　レイヴィニアはけらけら笑う。
　リデルがレイヴィニアの頭を撫で、アルベロに言った。

「キッドに関わりたくていろいろ聞いたの。アルベロ、後で話してあげる」
「お、おお……」
「で、アルベロ。あんたどこ行ってたの？」

　アーシェが言う。
　この質問に答えたのはラピスだ。

「確か、本校舎の職員室でしたよね？」
「ああ。いろいろあってな……俺も話すよ」

　アルベロは、エステリーゼの茶会に招かれた話をした。

　◇◇◇◇◇◇

　それから四日は、実に平和だった。
　普通に授業を受け、普通に購買で買い物し、普通に食事して、普通に寝る。
　普通の、学生生活。アルベロは、F級だったころを思い出していた。
　アルベロは、キッドに誘われ酒場……ではなく、城下町にある喫茶店へ。
　コーヒーを二杯注文し、訝しげにキッドを見た。

「んだよ」
「いや、お前もこういう店来るんだな」
「ばーか。ガキに合わせただけだ。おこちゃまに酒はまだ早い」
「はぁ！？」

　キッドはコーヒーを飲む。
　そして、真顔で言った。

「お前、オレの過去を聞いたか？」
「……ああ。リデルから聞いた」
「そうか……」
「…………え、それだけ？」
「フン。それだけだ……さっさと飲め。ぬるくなるとマズいぞ」
「お、おお」

　アルベロはコーヒーを飲み干す。
　たまに、キッドは意味不明だ。だが……そんなに悪い気がしない。
　すると、キッドは言う。

「明日、茶会だろ？……それが終わったら、本気の模擬戦だ。いい加減、オレも『完全侵食』に至りたいんでね。お前とリデルには付き合ってもらうぞ」
「……いいぜ。へへ、三人そろって変身とかカッコいいよな」
「……やっぱお前ガキだわ」

　キッドは笑った。
　ようやく、いつものキッドが帰ってきた。そんな気がした。
　アルベロは、残ったコーヒーを飲み干す。

「そういやお前、明日は茶会だったな」
「ブッ……やめろよ。それを思い出すのは明日の朝にしようと思ってたのに」
「……フン」

　そう。明日はエステリーゼの茶会だ。
　面倒くさい上にかったるい……アルベロは力が抜ける。
　キッドは、つまらなそうに言う。

「シカトしちまえよ。中途半端に話をするから付け上がるんだ。もう関わり合いにならねぇって意志を見せろ。おめー、中途半端すぎんだよ」
「……でもよ、フギル兄さんに悪い」
「はぁ～……だったら、割り切れ。フギルだけに関わって、他の連中とは関わるな」
「そうはいかねぇんだよ……面倒くさいけどな」
「……はぁ」

　キッドは、くだらなそうにため息を吐いた。

　◇◇◇◇◇◇

　翌日。
　今日は休日。そして……エステリーゼの茶会だ。
　アルベロは、礼服に着替えアーシェに髪をセットしてもらう。
　そして、フギルの迎えが到着し、馬車に乗って王都のラッシュアウト邸へ向かった。
　馬車の中で、フギルは言う。

「アルベロ。今日はフラグメント公爵令嬢もヨルハ王女殿下もいない。もしかしたら、お前目当ての貴族がいるかも……」
「大丈夫です。俺、結婚するつもりないんで」
「そ、そうなのか？」

　フギルは驚く。
　ちなみに、茶会にはフギルの婚約者とラシルドの婚約者も出席する。フギルの婚約者にはしっかり挨拶し、ラシルドの婚約者には挨拶してきたら無難に返そうとアルベロは決めていた。
　エステリーゼは、まだ婚約者がいない。

「姉上。今日はどれくらい求婚されると思う？」
「え？　あの色ボケ殿下がいるんじゃ……」
「姉上は王族に加わるつもりはないようだ。ラッシュアウト家を継ぐからな」
「ふーん……まぁ、どうでもいいけど」

　馬車は進み、エステリーゼの家……ラッシュアウト家に到着した。
　これから数時間。退屈な茶会が始まる。

「とりあえず、茶とお菓子だけ満喫しよっと」
「……全く」

　フギルは苦笑したが、それ以上は何も言わなかった。

　◇◇◇◇◇◇

「ごはんごはん～♪」
「ふふ……」
「ねぇ、ごはん食べていい？」
「ええ。いっぱい食べなさい……ふふ、死ぬほど、ね？」
「うん」

　アースガルズ王国上空にて。
　『暴喰』と『色欲』が動きだした。