30歳の聖女は、精神年齢が「8歳」です。

さくしゃ

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弟から見たクミ②

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 王都東地区は、四つある王都の区の中で犯罪発生件数が頭一つ抜きん出ており、特に「ゴミ溜め」と呼ばれる東地区の夜の街から出るゴミが捨てられるかつての旧王都中心部には、同時に社会から捨てられた人たちも集まり一つの集落というかコミュニティを形成している。
 その中には、マフィアなどもいるため王都民でも近づくものはいない程、常に人同士の争いが絶えない場所。

 「変わらないな……」

 僕は幼少期を過ごし、久しぶりに来たスラムを見て昔の記憶にふける。
 
 華やかなネオン街の裏路地を一歩進めば、そこに突然現れる古代遺跡を思わせる石造建物の街並み。

 屋根はなく、壁も崩れ放題……そのため、勝手に住み着いた住人が建物の倒壊に巻き込まれ死亡するなんてことも珍しくはなく年に数十件程、事故の報告がやってくる。

 そして、街の至る所に捨てられた夜の街のゴミ、それらのゴミに群がり、漁るスラムの住人……

 「ん?なんか今日はゴミ山にいる人の数が少ないな……」

 僕は首を傾げる。

 いつもならバーゲンセールの品物を巡って争う主婦の方々のように「我先に」とライバル達を押し除けて争う光景が繰り広げられる「ゴミ山の争い」が、今日は繰り広げられていない。

 「何かあったのか?」

 疑問を感じながらも姉を探すためにスラム街の奥へと進む。

 歩くたびに思い出す。木の根が張った石段の地面、苔の生えた倒壊寸前の建物達、暖かい日差しに眠りこける老人、街の中を元気よく駆け巡るボロボロの服を着た逞しい子供達……

 自分たちもかつては姉と一緒にこの道を走りゴミ山へ向かった。そこで喧嘩を売ってくる大人達を相手に格闘する日々。大変だったけど、今思うと懐かしく刺激的すぎる日々。

そして、どんなに辛くても姉が笑うと僕も笑い、笑顔は伝染し、周りの人たちが笑顔になる。

 「そう思うと女性に対する行動は異常な部分があるけど、人を笑顔にしてしまう点では昔から変わらないな」

 スラム街に入って15分……スラムの中心部であるかつての王の銅像が立つ広場に到着。

 ここは、「闇市」と呼ばれ、ゴミ山の中から見つけ出した魔道具の部品、生活用品などなど様々なものが売り買いされる所で、僕たちも幼い頃はゴミ山で集めたよくわからないガラクタをここで売って生活費を稼いでいた。

 ここもゴミ山同様にスラムの人々が集まる場所で、値切り交渉の罵声が飛び交う騒々しい場所なのだが、今日はいつものように品物を囲み、飛び交う怒りの声ではなく豆のスープを囲み笑い合う声が飛び交っていた。

 「ぬははは!私が作ったから酷い味だろ!」

 その中心では、姉さんがスラムの人たちと一緒になって笑い、それが伝染して周りが笑顔になっていく。

 「人はいつ死ぬかわからない。だから、いつ死んでもいいように笑って過ごす」

 姉さんが幼い時に言った言葉が頭をよぎる。

 「ははは……僕の杞憂だったな」

 僕は、姉の笑顔を見て胸が軽くなり、その場の空気を壊さぬようにそっとスラムを後にした。
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