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あの人は私をエミリーナだと思っている
王妃とエミリーナ
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スカーレットは本当は王妃になる筈ではなかった。スカーレットの姉が王妃になる筈だったのだが、使用人と駆け落ちした。
そんなことを国王に正直に告げられないので、スカーレットの姉は流行病に罹って死んだことになった。
死因を流行病にしたのは、最期のお別れなどできないので、近づけば危険に晒されるという名目で、棺を開けないようにするため。
ちなみに姉の死の偽装は抜かりがなく、棺には姉と年の頃が同じで髪色なども似ている、若くして病死した女性が収められた。
スカーレットはその死に顔を見たが、姉とはまったく似ていなかった。
両親は姉の行方を捜しているとは言っているが、スカーレットは期待していなかった。
駆け落ちした姉が戻ってきたところで、スカーレットが王妃の立場から解放されることはない。
スカーレットの姉は、貴族の責務を果たさず好きな相手と駆け落ちして幸せになり、スカーレットは好きでもない国王と結婚し、王族としての責務を果たすことになった。公爵家に産まれた者の定めだとは理解しているからこそ、責務を放棄して逃げた姉に対して怒りが、そして同じように使用人に恋をしていたからこそ嫉妬が収まらない。
スカーレットは使用人のバーナードが好きだった。
好きなだけで、バーナードと手を取り合って逃げるなどということは、考えていなかった。成就しない恋であることは、スカーレットにも解っていた。
だからこそ、逃げた姉が許せなかった。そして自分ばかりが……という思いが募った。
王妃となったスカーレットの元にバーナードが現れたとき、スカーレットは久しぶりに心から微笑むことができた。
そしてバーナードとの再会を喜び、彼ともっと頻繁に会いたいと願い、結婚して妻を連れて会いに来て欲しいと頼んだ。
バーナードはスカーレットの頼みを聞いてくれ、困窮している伯爵家の娘と結婚し、スカーレットに会いにきた。
そしてスカーレットは夫である国王によって、塔に幽閉された。
国王の愛人に収まったバーナードの妻の願いだったのか、それとも国王自ら判断したのかは解らないが、スカーレットにとって、塔での幽閉は幸せだった。
好意などない相手と肌を合わせなくて済む。
「あちらも、私のことなど愛していないけれど」
”国王の責務としてお前を抱く”と言われたスカーレット。
まるで自分だけが責務を果たすために、身を犠牲にしているのだという表情と態度に、スカーレットはあきれ果てて、二度と顔も見たくないほどだった。
だが責務として体を合わせ……幸いなことに子どもはできなかった。
そして「エミリーナ」という公妾を迎えた。「エミリーナ」の妊娠は、スカーレットが誰よりも望んでいた。
「エミリーナ」が妊娠したら、結婚して三年経つが懐妊していないスカーレットは離縁される。
それを期待して、スカーレットは塔の透明なガラス窓をぼんやりと眺める。そこには自分の姿が映っていた。
「エミリーナ……ねえ」
微かに映る自分の姿から、窓の向こうに広がる青空に意識をうつす。
それからしばらくして、塔のドアは開け放たれ両親と、
「バーナード」
「お待たせいたしました」
バーナードが立っていた。
そんなことを国王に正直に告げられないので、スカーレットの姉は流行病に罹って死んだことになった。
死因を流行病にしたのは、最期のお別れなどできないので、近づけば危険に晒されるという名目で、棺を開けないようにするため。
ちなみに姉の死の偽装は抜かりがなく、棺には姉と年の頃が同じで髪色なども似ている、若くして病死した女性が収められた。
スカーレットはその死に顔を見たが、姉とはまったく似ていなかった。
両親は姉の行方を捜しているとは言っているが、スカーレットは期待していなかった。
駆け落ちした姉が戻ってきたところで、スカーレットが王妃の立場から解放されることはない。
スカーレットの姉は、貴族の責務を果たさず好きな相手と駆け落ちして幸せになり、スカーレットは好きでもない国王と結婚し、王族としての責務を果たすことになった。公爵家に産まれた者の定めだとは理解しているからこそ、責務を放棄して逃げた姉に対して怒りが、そして同じように使用人に恋をしていたからこそ嫉妬が収まらない。
スカーレットは使用人のバーナードが好きだった。
好きなだけで、バーナードと手を取り合って逃げるなどということは、考えていなかった。成就しない恋であることは、スカーレットにも解っていた。
だからこそ、逃げた姉が許せなかった。そして自分ばかりが……という思いが募った。
王妃となったスカーレットの元にバーナードが現れたとき、スカーレットは久しぶりに心から微笑むことができた。
そしてバーナードとの再会を喜び、彼ともっと頻繁に会いたいと願い、結婚して妻を連れて会いに来て欲しいと頼んだ。
バーナードはスカーレットの頼みを聞いてくれ、困窮している伯爵家の娘と結婚し、スカーレットに会いにきた。
そしてスカーレットは夫である国王によって、塔に幽閉された。
国王の愛人に収まったバーナードの妻の願いだったのか、それとも国王自ら判断したのかは解らないが、スカーレットにとって、塔での幽閉は幸せだった。
好意などない相手と肌を合わせなくて済む。
「あちらも、私のことなど愛していないけれど」
”国王の責務としてお前を抱く”と言われたスカーレット。
まるで自分だけが責務を果たすために、身を犠牲にしているのだという表情と態度に、スカーレットはあきれ果てて、二度と顔も見たくないほどだった。
だが責務として体を合わせ……幸いなことに子どもはできなかった。
そして「エミリーナ」という公妾を迎えた。「エミリーナ」の妊娠は、スカーレットが誰よりも望んでいた。
「エミリーナ」が妊娠したら、結婚して三年経つが懐妊していないスカーレットは離縁される。
それを期待して、スカーレットは塔の透明なガラス窓をぼんやりと眺める。そこには自分の姿が映っていた。
「エミリーナ……ねえ」
微かに映る自分の姿から、窓の向こうに広がる青空に意識をうつす。
それからしばらくして、塔のドアは開け放たれ両親と、
「バーナード」
「お待たせいたしました」
バーナードが立っていた。
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