【短編集】ざまぁ

彼岸花

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あの人は私をエミリーナだと思っている

バーナードとエミリーナ

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バーナードも馬鹿ではない。
自分が隠れ蓑として使われていることは解っていた。解っていて、使われているように見せかけて相手を使う。
自分が負けるかもしれないと思いながら、騙し合いをしていた。

バーナードが破れたとしても、失うものはなにもない。
もともと地位も名誉もなかったバーナード。いまの立場はスカーレットに近づくために手に入れた。
スカーレットに近づけるなら、他国のスパイの掌の上で転がされてもいい。

掌から転がり落ちたとき、バーナードの道連れになるのはスカーレット。
そのスカーレットからは、常々「一緒に死んで欲しい」と言われていた。二人で心中するための毒薬が入ったペンダントを、互いに肌身離さず持っている。

国王は知らない。副官も毒薬のことは知らない。

国王がエミリーナを公妾にしたことには驚いたし、エミリーナを殺害したことにも驚いた。

もっともバーナードにとっては、副官が勧めてきたエミリーナの生死などどうでもいいことだった。

「残念ながらお前には、敵と通じていたという証拠があがっている」

バーナードの副官を捕らえ、その他のスパイも捕らえた国王は、最期の後始末として責任をバーナードに負わせて処刑して終わらせようとした。

(残念だがスカーレット様と心中することはできなさそうだ)

国王がスカーレットについて触れなかったので、バーナードはそう思った。

(後々毒杯を賜るようなことがあるかも知れないが)

その結末にバーナードは満足していた。
だがスカーレットの両親は納得していなかった。出したくもないのに、王妃として迎えるのだから娘を差し出せと命じられ、長女は駆け落ちし、次女は無理矢理連れていかれた。
次女のスカーレットは公爵家の跡取りだったというのに、王家は王命を出した。格は多少劣るが、スカーレット以外にも国王と年齢が釣り合う貴族令嬢はいた。

そもそも、国王の結婚に「年齢が釣り合う」必要はない。二十歳以上年齢が離れていても問題ないのだ。

だが王家は無理矢理縁を結んだ。それほどのことをしておきながら、塔に幽閉している。
幽閉するくらいなら、返して欲しいとスカーレットの父親は何度か申し出たが、

「スパイの炙りだしに必要だ」

国王の返事だった。
だがこんな返事を聞いて「はいそうですか」などという貴族はいない。
立ち回りを失敗したら、公爵家が潰される。その考えは最終的に「公爵家を潰すために、無理矢理スカーレットを王妃にした」という考えに行き着き、公爵家は王に反旗を翻すことにした。

クーデターは簡単に成功し、公爵家は王権を奪った。その時、国王は殺害された。

だが騒ぎをこれ以上大きくしないようにするために、スカーレットは国王の子を身籠もっていることにし、産まれた子を王位に就けることになった。

その子どもは国王との子ではなく、塔の幽閉を解かれた時に結ばれたバーナードとの間に出来た子どもだった。

産み月から大体の者は理解していたが、スカーレットの実家の公爵家には元の王家の血も入っているので、皆黙っていた。

スカーレットが産んだ第一子は国王として即位し、それ以降の子はバーナードとの間に出来た子として王位は得られなかったが、家族仲良く暮らした。


バーナードと共に過ごせるようになってから、スカーレットは姉のことはすっかりと忘れた。

どこかで幸せに過ごしているのだろうと。

だが、そうではなかった事が解った。
それは王宮の補修工事が行われた際、破損箇所を調べるために、煉瓦を剥がしたところ、隠し部屋が発見された。

「ここは……ひっ!」
「うわああああああ!」


暗がりの中、ランプの明かりで調査をしていた者たちは、ずらりと並んだ瞬き一つしない女性たちを発見した。

隠し部屋には、女性の剥製が並んでおり、その一体はスカーレットの姉だった。

その後の調査で、前国王は気に入った女を剥製にする趣味があったことが解った。スカーレットの姉も気に入っており、

「まさかあの男が、駆け落ちを勧めていたなんて」

スカーレットの姉に駆け落ちを持ちかけ、協力すると見せかけ、ほとぼりが冷めるまで別荘に隠れているといい……など言葉巧みに話を持ちかけた。スカーレットの姉は前国王の悪魔の囁きに乗せられ、別荘へ連れていくための馬車に乗り込んだあと、密閉された車中で気化した毒を吸って命を奪われた。


調査の結果、剥製は全て前国王が作らせたものだった。
前国王が死んで数年経っているので、剥製技師から情報が漏れそうなものだが、剥製技師も隠し部屋に監禁しており、内側から開けることができなかったらしく、干涸らびた剥製技師の遺体も見つかった。

新国王の父親は前国王ということになっているので、このことを国民に公表するわけにはいかないということで、闇に葬られることになったが、調査だけはしっかりと行われた。

「あの「エミリーナ」は、前国王の好みではなかったようだ」

剥製にされた女性たちの顔を見て、バーナードは呟いた。
調査が終わった女性の剥製は、近日中に焼却処分されることになっている。

「これが始まりだそうだが……」

最初に作られた剥製は、随分と古いものだった。どうも前国王は幼少期から女性を剥製にすることに取り憑かれていたらしく、前国王の母親の小間使いに恋をし、その小間使いの娘が妊娠し、出産後に手伝いそのまま同居するために暇乞いすると聞き、殺害という凶行に及び、そしていつまでも手元に置きたいという狂気に囚われ、実行に移した。

あまりに二人の年齢が離れていたので、その小間使いの突然の失踪と前国王を結び付ける者はいなかった。

「エミリーナ……か」

バーナードが妻として迎えた女の実家だと思っていた、由緒正しい伯爵家の令嬢だった。
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