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62 カマロン視点

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カマロンはシエルとマシューが出ていった後、サミュエル様とジルバと予言についての会話を思い出していた。その場にいる3人の疑問が全く一緒だった。


「予言では、"黒き月の夜に黒き花が咲き乱れし時、過去の過ちが災いとなって押し寄せるだろう"とあったが、なぜ紫の月の日なのか」


子供が書いた日記だから、紫と黒を間違えたのでは無いか。黒い花が咲いてる紫の月の日は、月が黒くなるのではないか。それぞれ考えをぶつけあったが、答えなど誰も持っていない。


こういう時にどうするか示してくれるのがサバラン様だ。大抵の貴族は保身のために明言を避け、どうすべきか決めたがらない。この国の現国王もその類の人物だ。私利私欲に走るよりはマシだと思っている。


サバラン様の冷静さは非常事態の時ほど磨きがかかる。まるで決闘前の男のように鋭く重い圧を発する。カマロンはこういう時にいつも敵わないと思ってしまう。


古の森と万霊の森、小規模な森と周辺の村を訪れて現状を確認するようにと指示を出して、サバラン様は聖典について司祭に聞いてくると出かけていった。


城から1番近い古の森に真っ先に向かった。魔獣がチラホラと出現はしたものの特に大きな異変はないと分かり、胸をなでおろした。だが、カマロンは先程から不穏な空気を感じ取っていた。何かが起きるのではないか、そんな不安に突き動かされ、ろくに休憩も取らずに万霊の森へ向かう。


大きな街道に沿って進んでいたが、途中で進路を変えざるをえなかった。鎧を纏った騎士や兵士達が大勢で南下していくのだ。ぞわりと毛が逆立つ。気づかれないように集団へ近づいていく。馬からおり、屋根へとよじ登る。


「数が多い。誰の司令だ?」


よくよく観察すると、私兵や傭兵らしきものも混じっているのが見て取れる。騎士の中には見知った顔の者もいるが、どこの家の者か分からない。


(くそう、こういう時にジルバかマシューがいれば!)


あれこれ考えながら聞くのは最も苦手とするところだ。どうしたものかと思っていると、1人見つけた。バッと音を立てずに地面に降り、何食わぬ顔で集団へ入り、彼に近づいた。向こうも正面を向いたまま、ほとんど口を動かさずに言った。


「カマロンか。お前よりジルバが良かったが仕方ない」
「それは私も心底思っているよ、ラング」


ラングは、昼の裕福な商人風の服装からは考えられないほど、傭兵の姿が似合っていた。特徴的な髭と、左側の腰あたりの膨らみが無ければ気づけなかっただろう。


「ドレーン伯爵やビオレソリネス公爵の取り巻き達の兵だ。ハニーニ王国の第2王子が西の国境門を攻めてくるらしい」


後ろからガっと肩を掴まれた。反射的に腰へ手が伸びた。瞬間、足に激痛が走った。


「よう、わけぇ兄ちゃん、お前も稼ぎに行くんだろう?俺もそうだがよぉ、傭兵に取り入るのは狡くねぇか?」
「そう若者を虐めないでやってくれよ、ダンのお頭。初めてのことで分からないことだらけで聞いてきただけさ」
「ふん、まあ、確かに、兄ちゃん、甲冑も着てきてないくらいだもんな、ガハハハハッ」

後ろからも豪快な笑い声が聞こえてくる。
酒臭い匂いに顔を顰めないように集中しながら言う。


「すいませんねぇ、お頭さん。俺は初めてだもんで、その、準備も何もよく知らねぇもんで心配して教えて下すったんです。あの、この人は偉いんですか?」
「ん?あぁ、こんな優しい雰囲気醸し出しといて、戦場では殺しまくるもんで、吸血鬼って言われてるのさ。で、俺ら傭兵たちのまとめ役だ」


驚く振りをしたカマロンの背中をバシバシ叩いくと、男とその取り巻きらしき連中は去っていった。


姿が見えなくなるまで待ってからカマロンも、ラングの前に移動しながら囁くようにお礼を言った。


「さっきは助かった」
「あぁ。海に近い西の国境門を攻めるという情報の真偽は分からん、罠かもしれん。頼んだぞ」


無言で軽く頷き、カマロンは周囲に気づかれないように歩調を緩めて徐々にラングから離れる。そして、市場に差し掛かったタイミングで、民衆に混じって集団から抜けた。


カマロンは路地裏の影で西の国境門へ向かう集団を見送った。城へ戻って報告しようか、このまま万霊の森へ行こうか悩む。風の魔法で伝令を送ろうにも用意がない。が、万霊の森まではすぐだ。確認してから戻った方がより情報を集められるし、時間もそう大差ないだろう。


決断してからは早かった。万霊の森へ辿り着くのも通常の半分くらいの時間しか、かからなかった。


万霊の森のすぐ側にある村へ入った瞬間、肉が焦げたような臭いと禍々しさを感じた。村の様子もおかしい。門番らしき人がおらず、女達が晩御飯の支度で慌ただしく動いている様子も無い。


ドォン。鈍く地響きのような音がした方へ向かうにつれ、身を揺るがすような轟音に混じって悲痛な声が聞こえてくる。もつれそうになる脚のスピードを更に上げる。


カマロンは目の前の光景に言葉を失った。大量に魔物が雪崩込み、襲われている人々。あちこちで悲鳴があがり、衝撃音とともに木々が押し倒される。魔物が暴れる度に土埃が舞い上がり、地面が割れるように揺れ、逃げ惑う人々がぶつかり合う。まさに地獄絵図だった。


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