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しおりを挟むお庭にすぐに出られる部屋を貸してもらったシエルは、まず、ジルバが書き写した資料を確認した。治癒魔法の中でも、高度な魔法が効果が高いのかと思ったが、それよりも魔力の使用量が多いほど効果があるようだ。その他は明確な特徴が無い。黒い花を引っこ抜いてみたが、すぐにまた生えてくる。治癒魔法で小さくしてから抜くと、暫くは生えてこなかった。花は表層にすぎす根本の部分が解決出来てないのだろう。
引っこ抜いた黒い花は、萎れることなく何事も無かったようにそこに存在し続ける。なぜか刻むこともすり潰すことも出来ない。シエルは不気味に思えてならなかった。
ぐるぐる悩んでは仮説を立てて実験し、また悩んでは実験しを繰り返していたら、マシューがミュゲーの花と差し入れと植物図鑑を持ってきてくれた。籠の中を見ると、甘い苺だった。嬉しくて口いっぱいに頬張ってしまう。
マシューが注意したそうに眉根を寄せながら令嬢だからと我慢している顔を見て、思わず吹き出しそうになった。
「ふふっ、マシュー様ありがとうございます。大変美味しゅうございました」
「あぁ、なら良かったが、」
言っていいものか黙っているべきか揺れているのが手に取るように分かる。
「マシュー様、お願いがございます。魔木から糸を作った時のように、火を起こす魔導具を用意して頂けませんか?」
「すぐに用意しよう。他に必要なものはないか?」
生真面目なマシューだが、何をするつもりか確認もせずに動いてくれて有難い。ミュゲーの花の毒を役立つようにするために、あれこれ試してみることにしたのだ。
マシューが持ってきてくれた魔導具で魔法の火にミュゲーの花をあてる。花はあっさりと黒焦げになった。魔木の時のように柔らかくなるとか、浮かぶとかそういった変異を半ば期待していたが、空振りに終わった。
ため息をつきそうになる自分の頬をパァンと叩いて気合を入れる。
(焦ってはダメよ、シエル!)
しらみつぶしに煮る、焼く、すり潰すをおこなう。更に工程を組み合わせてみる。が、薬にはならず、人体に害のある毒になってしまう。
残るは天日干しと、他の薬草と混ぜるかーーー。
実験するのに疲れたシエルは、マシューが貸してくれた植物図鑑をパラパラと捲ることにした。1ページに簡単な挿絵と、花が咲く季節や育て方、魔力量、簡単な解説が載っている。
植物は、大きく分けて火、水、風、土の精霊の性質に分類できるらしいが、シエルはよく知らなかった。目次を見るとこの植物図鑑は、4分類に則って記載されているようだ。前置きをとばしとばし読み進めると、性質の説明のページがあることに気がついた。思わず叫んでしまった。
「えっ詳しい解説があるわ!!」
1つの性質について何ページにも渡って解説がある。古本屋で仕入れたり修道院で読んだりした本には性質があることが数文で書かれているくらいなのに。
だから、シエルは今までも薬を作ることはあっても性質はあまり気にしたことがなかった。工房で教わったり実験で発見したりした知識をもとに薬を作っていた。
魔法は貴族の男子しか扱えないから情報も世に出回っていなかったということか・・・・・・。
(ふん、彼らの鼻をあかしてやろうじゃないの!)
体系的に学習できることが嬉しくて文字を追いかける目が止まらない。火と水、風と土はそれぞれ相反する性質を持っていることや、今まで経験として知っていたことを裏付ける内容に興奮が止まらない。
ミュゲーの花は、茎が長く白い小ぶりの花をいくつも付けている。すり潰すと青い液体が染み出してきたから、恐らく水の精霊の司る性質を持っているということだろう。
索引を活用しながら、水の分類のページを開く。ミ、ミ、ミ・・・・・・。見つけた。やはり水の性質を持っていた。じ~んと嬉しさが込み上げてくる。
(うん、私の研究は間違ってなかったわ)
水の性質は水との親和性が高いために、漬けたり煮たりして加工するということか。今まではそういうものとして受け入れるしか無かった断片的な知恵が、知識としてまるで脳に刻み込まれているようだった。
(でも、ミュゲーの花はそれでは毒にしかならなかったわね。そういえば、黒い花は何の性質の花なのかしら)
黒い花は、古の森で見つかったものと、それ以外で見つかった花とで特徴が異なる。
古の森で発見されたものは、魔木であるドゥッシェの葉によく似た、ギザギザとした葉で、二重楕円の葉脈を持っていて、大きな花弁だ。
一方、万霊の森などで見つかった黒い花はクガラシによく似た小ぶりの花弁を持った花だ。どちらもすり潰せれば、せめて性質が推測できたものを・・・・・・。シエルは、ため息をついた。
ふと、牢屋にいた時の魔木が頭を過ぎった。あの魔木は、もしかして火の性質を持っていたのだろうか。針葉樹ということしか分からないが、火の分類のページをとりあえず調べていく。魔木のページを中心につぶさに調べる。が、結局分からなかった。
ところが、最後のあとがきに補足として載っている情報があった。
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魔木は扱いが難しいが、上手く扱えば糸として使用できるという。魔木は加工次第でその木が持つ不思議な性質を引き出せるという話も聞いたことがある。真偽も含め今後の研究で明らかにしたいと思っている。現時点では魔力の濃度が関係しているのではないかと考えているが定かではない。
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魔力の濃度。あの時、牢屋で魔木が糸に変わったのは、魔力の濃度が変わったからということか。樹皮は濃度を高めて硬くして身を守っているのだろう。
そういえば、魔導具の消費が異様に早かったっけ。魔木が魔力を吸収していたとしたら?方法は不明でも、魔力の濃度が外側の樹皮と内側で一定になっていたとしたら?
どうやって魔力を吸収したのかは疑問が残る。が、濃度を一定にしたら加工ができたという仮説が正しければ、辻褄が合う。
あの魔木は火の性質を持っていたからこそ、魔法の火によって魔力を吸収して濃度が一定になり吸収出来たのだろう。
ならば、ミュゲーの花も魔法の水を取り込めば加工できるのだろうか。魔法の水なんて聞いたことがないけれど。
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