【R18】私の下僕

みっきー・るー

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 ◇ ◇ ◇

 湯浴みを済ませて初夜を控える夫婦の寝室へ向かうと、夫となったマシューが寝台の端に腰掛けていた。
 初夜から別々の寝室で過ごしたなんて噂を立てられては困るのだろう。
 心底嫌そうな雰囲気を感じて、馬鹿馬鹿しい気持ちが胸に広がる。

「殿下。無理はいけません。私も身体を休めたいので、お嫌でしたら自室に戻りますね」
「そんなわけにはいかないだろう!」
「私も嫌で仕方がないのに、一応の礼儀としてこの部屋に参ったのです」
「い、嫌ではない。できる」
「私はしたくありません」

 マシューはカレンを鋭く睨みつけた。

「君だって王子妃という立場のために結婚したのだろう。ならば、俺と子を作ることが、君の欲望を満たす一つの手段になるはずだ」
「それでは、殿下。寝台の上で横になってください」
「なんだと?」
「殿下は足がお悪いのですから、まずは私が奉仕いたします」

 わざとらしく嫌味を告げると、マシューは眉根を寄せた。
 不快そうに右手をついて、ずりずりと身体を引きずり寝台の上に仰向けになる。
 カレンは寝台横の棚に立てかけられた杖を一瞥した。

「俺がこのような身体になったこと、さぞかし愉快なのだろうな」
「まあ、どういう意味でしょうか?」

 二人は胡散臭い笑みを浮かべて、視線を重ねる。
 カレンは彼の上に跨がり、羽織っていたナイトガウンを脱いだ。

 ――浅ましいくらいに男なのね。

 マシューはカレンの裸体を凝視して喉を上下させた。
 カレンは自身の存在が鱗粉を放つ、毒蝶のような蠱惑的な魅力を持つと知っている。豊かな乳房とくびれた腰回りは男を誘う。
 カレンは組み敷いている男の胸元に手を伸ばして、ナイトガウンの合わせから胸の尖りを撫でた。そして腰紐を解く。
 この数カ月、彼は日課にしていた剣の鍛錬もできていない。礼装越しに感じていた筋肉質な身体は、もうそこにはなかった。
 顔と同じくしなやかで美しい肌には、生々しい傷跡が残っている。あの事件で応戦して負った傷。心にも大きな傷を負っただろう。
 自業自得だと責められることや、同情されること。すべてが胸を抉ってきたはずだ。
 それなのに、この人はこの国の王子として生きる道しか残されていないから、なるべく上手くいくであろう道を選び取り、耐えている。

 ――なんて馬鹿な男。

 カレンは潤滑剤を手に取り、中身を手の平に垂らした。マシューは目元を赤く染めて瞠目している。

「では、失礼いたします」

 露わになった彼の分身は切っ先を持ち上げ始めている。カレンはそれを両手で包み込むように握った。

「っ……! ぁっ!」

 マシューは情けない声を発した。
 自慰をしていないのだろうか。少し触れただけなのに、丸みを帯びた先端からは、とくとくと興奮の滴りが流れてくる。
 先端のくぼみを指先で強く擦ってから、硬い雄茎を上下にしごいた。
 粘着質で卑猥な水音は、カレンの性欲を刺激していく。股のあいだにぬるい蜜が垂れてくるのを感じた。

「気持ちいいですか?」
「き、聞くな!」

 マシューは右手の甲で口元を隠し、頬を上気させている。
 心は嫌で仕方がないのに身体は素直に反応してしまうなんて、屈辱でしかないだろう。

 ――ああ、苛々する。

 熱い肉杭を強めに握りしめて、激しく上下させると、彼は腰を浮かせて下腹部を震わせた。

「カレン、もう、出てしまう……っ、やめてくれ」

 やめろの意味は、身体を繋げる準備は整ったとでも言いたいのだろう。
 カレンは彼のものを握っていた手を離して、腰を持ち上げた。

「き、君は、少しくらいは濡れているのか?」

 さすがに処女を気遣うくらいの情はあるようだ。マシューは跨がるカレンに向かって右手を伸ばす。
 カレンは彼の手から逃れるように寝台から下りた。棚に置いてあった手巾で手の平の潤滑剤を拭き取る。

「本当は介護のつもりで最後まで抜いて差し上げようと思ったのですが、やめてくれと仰るのでやめておきますね」
「は……?」

 マシューは肘をついて上体を斜めに起こす。

「殿下。殿下のその立派なものは、彼女の中へ何度挿入されたのですか?」
「…………どういう意味だ」
「言葉のままです。私、できれば奇麗なものを身体に受け入れたいのです」
「俺や彼女に対して性病を疑っているのか?」
「いいえ。婚約中なのに、不貞を犯して使用されたものなど汚らわしいと思っているだけです。貴方も彼女も」
「おまえ――っ、やはり」
「あら、私が犯人とでも思っているのですね。残念ですが私は何もしておりません。だって、私は何も悪いことをしていないのに、どうしてそんなことをする必要が? 悪事と呼ばれる行為を働いたのは殿下ですよね?」

 貴方は運が悪かったのです。と締めくくりに伝えると、マシューは渋面を作る。

「そうやって私のせいにして、不貞だけでは飽き足らないご様子ですね。いつまで私を貶め続けるのですか?」
「許してくれ、失言だった。まだ心の整理がつかないんだ」
「与えられた地位ばかりを見る女に辟易としていたのですか? 高飛車な婚約者も自分自身ではなく、建前ばかりを見ている女だと思っていた?」
「すまない……」
「いまさら謝罪をされても、何も響きません」

 カレンは自室へ続く扉を開けた。ケネスが一礼をして室内へと入る。
 マシューは驚きに目を剥いた。そして己の姿が他人に晒していい状態ではないことに気付く。

「カレン! どういうつもりだ!」

 彼はとっさに立ち上がろうと動き、棚の前に置いた杖へ手を伸ばす。しかし、カレンはそれを部屋の端へと弾き飛ばす。

「殿下。あなたと子を生すつもりはありません。彼女の生んだ子が貴方の子だと証明できたら、王家に養子として引き取りましょう」
「何を言っているんだ……」
「彼女、妊娠しているそうです。腹の子が王家の血を引いている可能性もあるため、子流しの薬を使うこともできず、毎日泣き暮らしていると聞きました」
「そんな……」
「可哀想に――、彼女は妊娠していると知って、ますます心を壊してしまったそうです」

 カレンは淡々と伝えながら、潤滑剤を自らの秘部に塗り込んだ。そして、それをケネスに渡す。
 彼は下衣をくつろげて己のものを取り出し、同じように潤滑剤を塗った。

「おまえたち、まさか……」
「ああ、殿下。私が今から孕む子は、どうしたら殿下の子では無いと証明できるのでしょう」
「俺がそう主張すればいいだろう!」
「――殿下の言葉を信じる者はどれだけいますか? 私の言葉を信じる者はどれだけいますか?」

 傷ついた彼女のもとに駆けつける器量も、二人で駆け落ちする勇気もない男。

「殿下。ご旅行の道中、避妊薬を手に入れたそうですね。きちんと服用されました? あれは民の中では効果が高い薬だと評判です。――ああ、そうなると彼女の腹の子は、誰の子なのかしら」

 内密に用意した避妊薬。王家の薬師から受け取った物ではないため、その効果を正しく計れない。故に、彼女の子が王家の子で無いという判断をしきれない。
 カレンはマシューの上に馬乗りになって、彼の自由のきく右手と口を強く押さえた。

「嫌いな女に抵抗もできないなんて、情けないですね」

 マシューの鼻先まで顔を近づけると、血走った瞳がカレンを睨み上げる。

「真実の愛だの恋だの、そんな感情、無関係の他人にとってはどうでもいいものなのですよ?」

 ケネスが膝をついた重みで寝台が大きく軋んだ。カレンが突き出した臀部に彼は触れて、濡れそぼつ秘部に昂ぶりの先端をあてがう。

「お嬢様。挿れてもよろしいでしょうか?」
「平気よ――、でも初めてだから優しくね」
「かしこまりました」

 口を覆われたマシューは顔を揺らし、くぐもった声を発しながら抵抗を試みた。

「殿下、あまり動かないでください」

 圧迫感のあるものが狭い蜜洞を押し開き侵入してくる。カレンは浅い呼吸を繰り返しながら息苦しさを逃した。

「自由のきかない身体で、己の行為がもたらした結果、何を失ったのか噛みしめればいいわ。信用や評価、そして愛する人。ああ、王位もですね」
「っ!?」
「陛下は第二王子殿下を立太子させるお考えのようです」

 いつも余裕綽々な第一王子。
 カレンに対しては面倒そうな態度を見せる男が、カレンの身体の下で表情を苦悶に歪めている。彼の瞳に薄い透明の膜が張っていく。
 カレンは愉悦を感じたが下腹部の痛みに小さく悲鳴をあげた。

「痛い……!」

 淫路を押し広げながら侵入してきた熱杭がカレンの最奥にたどり着く。

「お嬢様、大丈夫ですか?」
「思っていたよりも痛いわ」
「すぐ終わらせます」

 ケネスは腰を前後に揺らし始めた。抽送が始まると、寝台はぎしぎしと音を立てて断続的に軋む。

「あっ……」

 声が勝手に出てくる。恥ずかしいけれど、これが閨の行為なのだ。
 本来ならば、今、組み敷いている男とするはずだった。
 マシューの口元を覆う手の中が熱い。息を荒くして、抵抗したくてもできない状況が悔しいのか、彼の目尻から涙が伝った。

「……っ、んんっ!」

 マシューは声にならない音を発し続けている。抵抗されるたびに、カレンの嗜虐心は刺激される。
 カレンは美しい顔に華やかな笑みを浮かべた。

「彼女の子、容姿が殿下に似ているといいですね」

 繋がりを擦る音が室内に響き渡る。カレンの嬌声が淫猥な雰囲気を濃くしていく。

「あっ、あっ……、殿下っ」

 痛みと快感を伴う痺れが背を伝い、豊かな胸がマシューの眼前で激しく揺れた。

「お互いの名を呼び合いながら、こんなふうに彼女と身体を重ねたのですね」

 ずっとカレンを睨んでいたマシューの瞳から、徐々に力が抜けていくのが見て取れる。
 マシューのこめかみを流れる涙にカレンは唇を寄せた。

 ――美しくて愚かで、粉々に手折ってやりたい……。

 肉を打ち付け合う音が大きく響き、淫杭が激しく身体の奥を穿つ。
 カレンの視界に快感の火花が散って、マシューの口を押さえていた手が緩んだ。
 解放された口から警備を呼ばれてしまったら終わりだ。
 カレンは慌ててマシューの唇に己の唇を重ねて塞いだが、わずかに開いた口の隙間から彼の舌が侵入し、カレンの舌先を舐めた。

「んぅっ!?」

 カレンが驚いて唇を離すとでも思ったのかもしれない。
 意地になって唇を重ねたままでいると、マシューの舌はカレンの舌を好き勝手に玩び始めた。
 ただでさえ、後ろから激しく責め立てられて、全身の力が抜けそうなのに。
 知らない快感が頭の中を蕩けさせてしまう。

 ――早く終わらせなさいっ!

 カレンは心の中でケネスを罵る。
 従順な下僕は膣奥をひときわ強く叩き、カレンの肉襞が搾り取るように蠢く。ケネスの昂ぶりは期待に応えるかのように熱い精を迸らせた。

「……っ!」

 ぐりぐりと先端を奥に押しつけながら、肉杭は精を吐き出し続ける。
 ケネスは息を弾ませたまま、力を無くした己の分身を膣から抜いた。そして、寝台から離れて下衣を整える。
 彼が頭を下げた気配を感じたが、マシューから唇を離し、彼を振り返る余裕はない。
 ケネスがカレンの自室として用意された続きの部屋へ戻ってから、そっと上半身を持ち上げて唇を離した。
 マシューはカレンの下で深呼吸を繰り返していた。火照った顔の輪郭に汗が伝う。
 彼の下半身を見やると、びくびくと痙攣するそれは、白濁を飛び散らせている。

「あら、出てしまったのですね」

 はっきりと口にすると、マシューは青ざめた。

「怖い顔をして怒っていらっしゃったのに、心の中では欲情していたのですね」
「ち、違う!」

 カレンは寝台の上に座り込んでいた身体を起こして立ち上がる。敷布を破瓜の血が汚していた。
 マシューの精もそこここに飛んでいる。

 ――この状況で、私と情事をしていないと言ったところで、説得力がないわね。

 カレンはナイトガウンを着て、部屋の隅へと歩く。
 さきほど放り投げたマシューの杖を手にして、寝台近くの棚の前に置いた。

「ほかにもお手伝いはございますか?」

 嫌みたらしく訊ねると、マシューは顔を背けてしまう。

「では、殿下。おやすみなさいませ」

 カレンはマシューの反応など見る気にもなれず、早々に夫婦の寝室を出て、自室へと戻る。
 身支度を整え待機していたケネスが、手早く着替えを手伝ってくれた。
 部屋の外の廊下には王城の暮らしに慣れるまでの期間限定で、実家から伴ってきた侍女が数人いる。
 しかし、ケネスを部屋へ連れ込み世話をさせていることに対して、不思議に思う者はそこにはいない。
 何年もそうして過ごしてきたから、今更、彼女たちは疑問を抱かないのだ。
 だからといって、婚姻後もケネスを侍従として王城に召し上げるわけにはいかない。
 だから初夜を狙い、企んでいたことを実行した。

 カレンたちは部屋を慌ただしく出て、控えていた侍女と護衛を伴って城の出入り口を目指す。
 あの事件以降、腫れ物のように扱われてきた第一王子。そんな彼との初夜。花嫁の不測の行動に戸惑いつつ、どう対応したらいいのか分からない者が多そうだ。
 彼らがマシューや陛下に確認をするため走っていく隙に、カレンたちは王城を出た。

 帰りの馬車の中。こみ上げる笑いをかみ殺し、カレンは顔を両手で覆い隠す。
 共に馬車に乗る侍女たちは、カレンの震える肩を見ながら『初夜で手酷く扱われたのだろう』と、同情に眉を下げた。
 これから先、カレンは実家で過ごすつもりだ。
 初夜で何が起こったか、あの男は恥ずかしくて誰にも話したりできないだろう。
 自由のきかない身体。自らの身体の上で、妻の処女を別の男が散らす。
 もし懐妊してしまったらと気が気でないはずだ。

 実家に着いてから、すぐにカレンは自室に閉じこもった。両親は娘に何かあったのかと狼狽し、父は抗議に出るため馬車に飛び乗った。
 カレンは窓際に立ち、豪奢な馬車が門扉を出て行く様子を見送る。

「お嬢様、湯浴みの支度が整いました」

 ケネスはすぐには動かないカレンの反応を無言で待つ。
 時が経つにつれて、しだいに気持ちが萎んでいく。腹の奥の鈍痛も落ち着いていた。

「どうして、拒まなかったの?」
「何をですか?」
「あんなこと、したくなかったでしょう」
「何のことか分かりませんが、僕はお嬢様の望むことをしたいです」
「彼がもっと抵抗をしていたら、上手くいかなかったはずよ。おまえも危険だったのよ?」

 想像していたよりも思惑は上手くいき、マシューの矜持や諸々を傷つけることができたはずだ。

「お嬢様の気が晴れるなら、何でも協力いたします」
「駄々っ子を宥めるのとは違うのだから、その言い方はやめてちょうだい」

 カレンはげんなりして、跪くケネスを見下ろす。
 明るい太陽のような髪の色。同色の瞳は蜂蜜菓子のように甘い。

「私、おまえのことがよく分からないわ」
「湯の中にお嬢様の好きな入浴剤を溶かしてあります。きっと穏やかに過ごしていただけます」
「話の逸らし方が雑ね」

 カレンは従順な下僕を見て苦笑し、彼の両手に包帯が巻かれていることに気がついた。
 屋敷に戻ってきたときには何もなかったはずだ。

「おまえ、その手はどうしたの?」

 ケネスはカレンの視界から隠すように、両手を腰の後ろに回す。

「さきほど、果物を剥こうとして切ってしまいました。お気遣いありがとうございます」
「? さきほどっていつよ」

 彼がカレンから離れた時間はさほど長くない。事情を問い詰めようとする両親の対応をするため、少しだけカレンの自室を出たくらいだ。
 ケネスが何をしたのか勘づいて、カレンは渋面を作る。

「おまえは私の望み通りに動けばいいの。支障が出るから、怪我をしないように気を付けなさい」
「はい、お嬢様」

 婚姻後も変わらず『お嬢様』と呼び続ける男は、満面の笑みを浮かべて頷いた。

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