【R18】肉食令嬢は推しの王子を愛しすぎている

みっきー・るー

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 魔法石精製の授業を受けてから二日後。
 私は自室の机に向かいながら、歓喜の万歳三唱をしていた。ようやく目標だった木属性の魔法石を四つ精製することに成功した。
 机の上に転がる透き通った緑の宝石。
 ラーセ殿下の瞳のように綺麗だ。

「ふわわ……とんでもないものを生み出してしまった!」

 うろうろと部屋の中を歩き回っていると、扉を開け後ろ手にノックをする弟の姿があった。

「え、どうして扉が開いているの!」
「何度も声をかけましたが、姉上が奇行を繰り返し気付かれなかったのです」
「奇行って……」
 なんて言い草だろう。
 イオはつかつかとこちらに歩み寄り机の上を見た。

「……凄い失敗の数々ですね」
 彼は机の端に盛られた失敗作を見つめ、表情をこわばらせている。
「こちらの成功作を見なさい!」
「成功してよかったですね」
 祝われている顔ではない。
「もう、態度が悪いわね」
 私はクッション付きの小箱に四つの魔法石を収めた。失くしてしまっては大変だ。
 イオはその様子を見つめながら口を開く。

「で、それをどうされるのですか? どうせラーセ殿下への贈り物なのでしょう?」
「ラーセ殿下は好みが分かりづらいから悩んでいるの。ブローチやカフスも素敵よね……ああ、でもカフスは数が足りないわ」
「姉上。加工店の予約はされましたか?」

 魔法石をアクセサリ等の日用品に加工する店は随所に存在する。
 この時期は学園での魔法石精製の授業が行われるため、多くの店が忙しくなり予約で埋まってしまう。
 もちろん私もその点は知っていたので、イオに頷きを返した。

「精製に夢中のご様子だったので、忘れているかと思いました」
 中々辛辣な弟だ。
「姉上が授業で精製された魔法石はどうするのですか? そんな全く授業に関係ない属性の魔法石を持ち込むだけですか?」
「あなた、話し方がお父様に似てきたわね……」
「それは光栄です」

 バース侯爵家当主である父は、尊敬に値する人格者で仕事も出来る立派な人だ。
 私もイオも敬い慕っている。が、弟は些か父の意を汲み取りすぎだ。
 ラーセ殿下に好意的ではない父と弟。あからさまに悪く言われるわけではないが、態度に出し過ぎである。

「私が作った魔法石はリッド殿下に差し上げたのよ」
「リッド殿下に?」
「何でも土色の魔法石を加工の際に使いたいとかなんとか」
「それを了承されたのですか?」
「まあ私は使わないし、必要としている人の役に立つならいいわ」

 それに散々失敗してようやく成功した魔法石だ。仕上がりも、よく見れば微妙だったかもしれない。
 そんな話をイオにしてしまったら、間違いなく呆れられるので黙っておこう。
 何故だか既に今、弟の眉間の皺が深くなっているのだ。

「最近学園で姉上の奇行を見ておりません」
「だから奇行って言い方おやめなさい」
「最近学園で姉上がラーセ殿下を追い回しているのを見ておりません」
「言い直しても辛辣だわ……」
「喧嘩をされたのかと思っておりました」

 イオはそう告げて私の手元に視線を向ける。
 木属性の原石を熱心に精製し、ようやく完成したことを喜ぶ姿から、喧嘩とは違うのかもしれないと思ったようだ。

「心配性ねぇ」
 私が苦笑すると、イオの表情が揺れた。
「喧嘩なんてするわけないじゃない。あんなにも優しい方なのに」
「男は優しいだけでは駄目です」
 それもそうだが、ラーセ殿下よりも年下の弟がそれを説く姿が何だか面白い。

「どちらかというと、殿下を不快にさせていたかもしれないのは私よね」
「ようやく、そこに思い至ったのですね」
「…………もう少し言葉を選んで欲しいわ」
 イオのきつい物言いに嘆息していると、彼は珍しく視線を泳がせている。

「姉上の元気がないと心配になります」
「え?」
「姉上はラーセ殿下のこととなると、少々短慮になりますし、その、とにかく心配になります」
 イオの真っ直ぐな眼差しは嘘を言っているようには見えず、本当に心配されているようだ。
「私、元気がないように見えて?」
「はい」
「……気のせいよ。大丈夫。心配をかけてごめんなさいね」

 つい子供にするように弟の頭を撫でると、彼はむっとした表情で眉根を寄せる。
 イオは私の言葉に納得はしていないだろうが、小さく息を吐いて頷いた。

「分かりました。姉上の言葉を信じます」

 渋々といった様子で弟は部屋を出て行った。
 そんなにも元気がないように見えたのだろうか。
 私は鏡台に向かい、鏡に己の姿を映してみた。何度も練習した令嬢スマイルを浮かべてみる。
 普段通りの姿がそこにはあった。
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