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第1話 継承(大陸暦2922年)
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外は土砂降りのようだ。屋根を叩く水の音が聞こえる。
響玲(キョウレイ)はふらふらと部屋を出た。手には今、11歳年上の兄の蒼章(ソウショウ)から継承した、彼らの家系に伝わる魔力媒体の剣。それを赤く染めるのは蒼章の血だ。
今出てきた部屋––ここは戦線の後方に配置された営だから、仮拵えの簡素な部屋––を振り返る。
蒼章の遺体が目に入る。右足と首がない。右足は、戦場で無くしたと聞いた。首は、たった今響玲が切り落とした。もともと蒼章の体には、寿命がほとんど残っていなかった。長年に渡り戦場で攻撃魔法を使い続けたから。
先代の魔法使いが戦闘不能に陥ったら、それを殺し、歴代の魔法使いの知識と技術を継承する。それが、国家に仕える特級魔法騎士を輩出する彼らの家系の宿命だ。
今引き継いだ大量の魔法術式と戦術が頭の中をぐるぐる回る。すでに習得した術式と結びついていく。
––大丈夫、これを処理する訓練はしてきた。
「目が赤く光っている。血の呪いも発動している。継承は成功だ」
ふいに近くで声が聞こえた。儀式を見守っていた魔法管理官たちだ。そちらを見ると彼らはひっと悲鳴を上げる。赤く光る目をし、濃紺の髪に兄の返り血を浴び、首の周りに茨の輪のような赤い呪いをまとわせた自分の姿はさぞ化け物に見えたことだろう。
「兄を埋葬してもらえますか。私はこのまま前線に出ます」
彼らに声をかけるとガクガクとうなづいて、逃げるように去っていった。最後にもう一度兄の遺体を見て、装備を準備しに自分にあてがわれた部屋に向かおうとする。
ふいに廊下の奥が騒がしくなった。誰か走ってくる。この軽い足音は。
「いけません、王女様!継承直後の魔法使いは危険です!」
管理官たちが止めるのを聞かず、走ってきた小柄な人物が首に手をやり、濡れたレインコートの留め具を外し、廊下に投げ捨てた。その下から眩く輝く長い銀髪が溢れる。
「響玲!」
その人物––王女であり次期女王の真波(シンハ)が響玲に抱きついた。
「真波様!?どうしてこんなところに?護衛は?」
「ちゃんと連れてきているわ。心配しないで。ごめんなさい、私、間に合わなかった。あなたにこんなことさせちゃいけなかったのに」
真波の背は響玲の首くらいまでしかない。そのことに少し驚いた。少し前まで、真波の方が大きかったのに。
響玲は、真波の肩に手を置き、立たせ、その足元に跪いた。血濡れた剣が床に当たってガチャリとなった。
「響玲…」
「真波様。これより私が魔法騎士として、国と陛下、次期女王陛下にお仕えいたします。絶対にお守りします。どうかご安心を」
真波は息を呑み、一瞬の沈黙ののち、言葉を絞り出した。
「…わかりました。ここからの作戦の指揮はわたしがとります。これからあなたのすることを伝えます。司令部に入って」
次期女王の真波18歳、魔法騎士の響玲16歳の時のこと。
響玲(キョウレイ)はふらふらと部屋を出た。手には今、11歳年上の兄の蒼章(ソウショウ)から継承した、彼らの家系に伝わる魔力媒体の剣。それを赤く染めるのは蒼章の血だ。
今出てきた部屋––ここは戦線の後方に配置された営だから、仮拵えの簡素な部屋––を振り返る。
蒼章の遺体が目に入る。右足と首がない。右足は、戦場で無くしたと聞いた。首は、たった今響玲が切り落とした。もともと蒼章の体には、寿命がほとんど残っていなかった。長年に渡り戦場で攻撃魔法を使い続けたから。
先代の魔法使いが戦闘不能に陥ったら、それを殺し、歴代の魔法使いの知識と技術を継承する。それが、国家に仕える特級魔法騎士を輩出する彼らの家系の宿命だ。
今引き継いだ大量の魔法術式と戦術が頭の中をぐるぐる回る。すでに習得した術式と結びついていく。
––大丈夫、これを処理する訓練はしてきた。
「目が赤く光っている。血の呪いも発動している。継承は成功だ」
ふいに近くで声が聞こえた。儀式を見守っていた魔法管理官たちだ。そちらを見ると彼らはひっと悲鳴を上げる。赤く光る目をし、濃紺の髪に兄の返り血を浴び、首の周りに茨の輪のような赤い呪いをまとわせた自分の姿はさぞ化け物に見えたことだろう。
「兄を埋葬してもらえますか。私はこのまま前線に出ます」
彼らに声をかけるとガクガクとうなづいて、逃げるように去っていった。最後にもう一度兄の遺体を見て、装備を準備しに自分にあてがわれた部屋に向かおうとする。
ふいに廊下の奥が騒がしくなった。誰か走ってくる。この軽い足音は。
「いけません、王女様!継承直後の魔法使いは危険です!」
管理官たちが止めるのを聞かず、走ってきた小柄な人物が首に手をやり、濡れたレインコートの留め具を外し、廊下に投げ捨てた。その下から眩く輝く長い銀髪が溢れる。
「響玲!」
その人物––王女であり次期女王の真波(シンハ)が響玲に抱きついた。
「真波様!?どうしてこんなところに?護衛は?」
「ちゃんと連れてきているわ。心配しないで。ごめんなさい、私、間に合わなかった。あなたにこんなことさせちゃいけなかったのに」
真波の背は響玲の首くらいまでしかない。そのことに少し驚いた。少し前まで、真波の方が大きかったのに。
響玲は、真波の肩に手を置き、立たせ、その足元に跪いた。血濡れた剣が床に当たってガチャリとなった。
「響玲…」
「真波様。これより私が魔法騎士として、国と陛下、次期女王陛下にお仕えいたします。絶対にお守りします。どうかご安心を」
真波は息を呑み、一瞬の沈黙ののち、言葉を絞り出した。
「…わかりました。ここからの作戦の指揮はわたしがとります。これからあなたのすることを伝えます。司令部に入って」
次期女王の真波18歳、魔法騎士の響玲16歳の時のこと。
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