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3章 夜空のダイヤモンド
41話
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ついに始まった別れへのカウントダウン。とはいえ、詩音くんに変わったことはと言われれば特筆すべき点はない。まぁ、当たり前だ。詩音くんに旅行の真の目的は伝えていないのだから。
一方で、僕の変わったことと言えばあまりに多すぎてなかなか語るに苦労する。
例えば。僕はもう、あの日を最後に詩音くんの部屋に行かなくなった。詩音くんもそれには気づいているようで、毎日のように部屋に誘われる。でも。
せっかく旅行行くんだし、それまでの楽しみにしよう。ずっと一緒だったら特別感がないでしょ。
と、そう誤魔化すと詩音くんはコクリと頷いていつも納得してしまうのだ。本当に、あまりにも単純だと思う。僕としては助かっているけれど。でも。問題はもっと他にある。
コンコン、と廊下からロック音が響く。しかしこれは、僕の部屋の扉が叩かれた音ではない。しばらくするとガチャと扉の開く音がして、大きな声が響いた。
「あっ、詩音くんいらっしゃーい」
やけに楽しそうないつもより高い声。ひなたの声だ。
その後少しの間会話するような不鮮明な声が聞こえ、そして最後には扉の閉まる音がした。
これが、最近の僕の不満だ。僕が部屋へ訪れないことをいいことに、詩音くんがひなたの部屋に入り浸っているのだ。
もちろん、これは始めから想定していなかったわけではない。僕という縛りがなくなった詩音くんを今、抑えるものは何もないのだ。そうなったらそりゃあ、好きな人の部屋くらい通いもするだろう。でも。
想定していなかったわけではないとはいえ、深い息を零さざるを得ない。つくづくぶれない奴だ、と思う。しかし。これは何度も言う通り、想定していた事態。なんとか我慢できる。問題はこの先だ。
今まで散々僕を心配していた一茶、好きとまで言ったひなた。その二人が、最近一切僕を気にかけてすらくれないのだ。
確かに、ひなたはあほだから。仕方のない部分もあると思う。でも。一茶くらい、なにか言ってくれてもいいだろうに。なにせ、詩音くんが隠すこともなくひなたの元へ通っているのだ。僕は拗ねているのなんて想像に容易いだろう。
「ひどいよねぇ、みんな」
僕は抱きかかえた白色のクマのぬいぐるみに、柄にもなく声をかけた。相変わらず空虚を見つめるその真っ黒な瞳は、まるで僕を見ていなかった。でも。そんなところがこれをくれた本人、詩音くんになんだか似ていて憎めなかった。
「ほんま、何やってんのやろ。僕」
こんなまるで子供のようなことをしてしまうのも、全部お酒のせいだ。これ以上何かしでかす前に、今日はやめておこう。
目の前にあるお酒の残りをぐいと飲み干し、大きく伸びをする。椅子がギィと音を立て、クマが僕の膝から転げ落ちた。
僕はやっぱり、独りぼっちだった。みんな、僕の事なんて見ていない。そんなこと、知っていた。
拾い上げたクマは、僕の匂いだった。もらった時は詩音くんの香りだったし、最近まではひなたが連れまわしたせいですっかりひなたの香りになっていたのに。
抱きしめると、形が歪んで少し苦しそうに見えた。
「詩音くん、寂しいよ……」
こうして流れた涙を、誰も知らない。そんな日々は、まさに旅行が始まるその日まで続いた。
一方で、僕の変わったことと言えばあまりに多すぎてなかなか語るに苦労する。
例えば。僕はもう、あの日を最後に詩音くんの部屋に行かなくなった。詩音くんもそれには気づいているようで、毎日のように部屋に誘われる。でも。
せっかく旅行行くんだし、それまでの楽しみにしよう。ずっと一緒だったら特別感がないでしょ。
と、そう誤魔化すと詩音くんはコクリと頷いていつも納得してしまうのだ。本当に、あまりにも単純だと思う。僕としては助かっているけれど。でも。問題はもっと他にある。
コンコン、と廊下からロック音が響く。しかしこれは、僕の部屋の扉が叩かれた音ではない。しばらくするとガチャと扉の開く音がして、大きな声が響いた。
「あっ、詩音くんいらっしゃーい」
やけに楽しそうないつもより高い声。ひなたの声だ。
その後少しの間会話するような不鮮明な声が聞こえ、そして最後には扉の閉まる音がした。
これが、最近の僕の不満だ。僕が部屋へ訪れないことをいいことに、詩音くんがひなたの部屋に入り浸っているのだ。
もちろん、これは始めから想定していなかったわけではない。僕という縛りがなくなった詩音くんを今、抑えるものは何もないのだ。そうなったらそりゃあ、好きな人の部屋くらい通いもするだろう。でも。
想定していなかったわけではないとはいえ、深い息を零さざるを得ない。つくづくぶれない奴だ、と思う。しかし。これは何度も言う通り、想定していた事態。なんとか我慢できる。問題はこの先だ。
今まで散々僕を心配していた一茶、好きとまで言ったひなた。その二人が、最近一切僕を気にかけてすらくれないのだ。
確かに、ひなたはあほだから。仕方のない部分もあると思う。でも。一茶くらい、なにか言ってくれてもいいだろうに。なにせ、詩音くんが隠すこともなくひなたの元へ通っているのだ。僕は拗ねているのなんて想像に容易いだろう。
「ひどいよねぇ、みんな」
僕は抱きかかえた白色のクマのぬいぐるみに、柄にもなく声をかけた。相変わらず空虚を見つめるその真っ黒な瞳は、まるで僕を見ていなかった。でも。そんなところがこれをくれた本人、詩音くんになんだか似ていて憎めなかった。
「ほんま、何やってんのやろ。僕」
こんなまるで子供のようなことをしてしまうのも、全部お酒のせいだ。これ以上何かしでかす前に、今日はやめておこう。
目の前にあるお酒の残りをぐいと飲み干し、大きく伸びをする。椅子がギィと音を立て、クマが僕の膝から転げ落ちた。
僕はやっぱり、独りぼっちだった。みんな、僕の事なんて見ていない。そんなこと、知っていた。
拾い上げたクマは、僕の匂いだった。もらった時は詩音くんの香りだったし、最近まではひなたが連れまわしたせいですっかりひなたの香りになっていたのに。
抱きしめると、形が歪んで少し苦しそうに見えた。
「詩音くん、寂しいよ……」
こうして流れた涙を、誰も知らない。そんな日々は、まさに旅行が始まるその日まで続いた。
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