女嫌いの王子は婚約者の素顔を知らない(改稿版)

荷居人(にいと)

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3章婚約者9歳、王子12歳

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「今ここに、ハブルア学園の名を紙袋学園へと名を変えることとなったことを宣言する!」

その言葉と共に、全校集会で集まった生徒らが熱気立った。もちろん、紙袋を被った者たちが。ここには高等部の人たちもいるが、さすがに校舎が別なだけに紙袋の存在に今だ驚いている様子で、紙袋に染まってはいないようだ。さらに追い討ちをかけるように学園長の宣言に、信じられないとばかりに誰もが固まっている。

俺も驚いている、さすがに。初日からなんとなく予想はしていたが、あれ学園長はもはやスフィアに逆らえないのではなく、逆らう気のない生徒たちと同じくファンと言う名の信者と変わらない気がする。いや、紙袋を被っている時点で確実に信者か。それにスフィアが学園長を脅したとして、学園名を変える意味がわからない。

なんだ、紙袋学園とは。

これは父にどういう評価をされるのかわからない。今日の放課後、この学園の問題をスフィアから提示されるだろうが、今まさにこれこそある意味問題じゃないかと思う。問題を解決ではなく、問題を増やしてどうする。

スフィアに視線を向けてはみたが、ぴくりとも動かず、素晴らしいと言わざる終えない姿勢で真っ直ぐと学園長を見ている。見ている……はないな。ただ、顔を真っ直ぐにしているだけだ。

微動だにしないその姿勢はさすがと言ったところだろう。中等部、初等部の教師にもちらほら紙袋人間がいる。その内、紙袋を被らないのは俺だけになったりしないだろうか。なんてことを思う。

そう言えばまだ紙袋に染まってないひとつ上の者に言われた言葉を思い出す。

「王太子殿下……その、大変ですね」

王太子としての仕事に関して言われたわけじゃないのは明らかだった。その者の視線は廊下を歩く紙袋たちに向けられていたのだから。一ヶ月の間に変化したことは何も紙袋人間が増えただけでなく、立場を気にしていただろう者たちが気軽に俺へ話しかけるようになったことでもある。紙袋を被ってない者たちは、どれも同情するような言葉ばかりだったが。

残りは訳のわからない紙袋たち。ただただスフィアについて語られることが多数。何故、俺に言う?となるわけだ。確かに俺の婚約者ではあるが、まさか仲間にでも思われているのか?聞いていて普通に疲れた。

「さて、今日はぜひとお願いした紙袋の神様から言葉をいただきましょう!」

最近のことで思考を巡らせている間に、学園長の言葉が頭に響く。学園長、貴方ももはやスフィアを神様扱いかと思えば、スフィア信者と確信せざるおえない。そして紙袋の神様が自身だと理解しているだろうスフィアが席を立ち上がる。

信じられるか?これ紙袋王太子の婚約者なんだぞ?

「殿下、行きましょう」

「は?」

なんて思って遠いどこかを見ていれば何故か誘われる俺。当然とばかりに手を差しのべられたが俺は何も聞いていない。しかし、混乱する俺に容赦なくスフィアが腕を掴み、無理矢理立たせてきた。壁を破壊できる怪力の持ち主なら、俺を立たせるくらい簡単なのはわかっていたが、こうもあっさりと立たされるのはどうにも微妙な気持ちになる。

なんとかひとりで歩ける意思を示しただけマシだろう。腕からスフィアの手は離され、二人で壇上へあがる。学園長が己の立っていた場所を譲るようにそこを退いた。

学園長がいた場所に立つのは、何も知らない俺ではなく指名された紙袋の神様俺の婚約者だ。その神様とはただひとり、穴ひとつない紙袋を被っているスフィアに他ならない。ただ、そこへ立っただけで紙袋たちが騒ぐ。

「神様ー!」

「こっち、みてー!」

「ああ……紙袋の神様、尊い………っ!」

普通に引いた。涙ぐんだ声まで聞こえたことに。ただ紙袋を被ったスフィアが壇上の真ん中に立っただけだぞ?気持ちが全くわからない。

高等部と紙袋に染まってない人たちもきっと俺と同じ心境に違いない。俺はお前たちと同じだ。頼むからその憐れんだ目をこちらに向けるな。変に視線を逸らすわけにもいかず、内心で叫ぶ俺の気持ちは伝わりそうにもない。

高等部の人たちと関わりはないに等しいとはいえ、これが俺の婚約者であると理解はしているのだろう。だからこそ紙袋に染まっていない中等部とついでに初等部の純粋な幼い子たちと共にその憐れんだ目をこちらに向けるに違いない。

その視線で言う言葉があるとするならば

『貴方の婚約者、管理大変そうですね……』

だろうか。大変も何も管理する以前の問題だ。神様紙袋なんざ、ただの人間である俺に管理できるはずないだろ?俺にやれるのは現実逃避だけ。

王太子として一番やってはいけないことだ。けど、これは……これは、仕方ないだろう!?思わず目で訴えてしまったのだろうか、紙袋でない人たちは手で目を押さえて頷いてくれた。

その中には女もいたというのに、それが気にならないくらいにその者たちに仲間意識が芽生えた気がする。なんていい人たちだろうか、と。人は切羽詰まると、嫌いなはずのものも気にならなくなると学んだ時だった。

そんな意思疏通をしている間にスフィアの話は終わったようで、全校集会もこのためとばかりに終わった。俺はただ、スフィアの婚約者として紹介されただけだった。紹介するの逆じゃないか?なんてことは言わない。誰一人それに反感するものはいなかったし、無事に終わるならそれが一番いいのだから。
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