女嫌いの王子は婚約者の素顔を知らない(改稿版)

荷居人(にいと)

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4章婚約者12歳、王子15歳

2

「スフィア!」

「殿下……?」

「フィセード様、私何もしてないんです!だから……っ」

何故衛兵もいないと行く先々でだんだんと疑問を持ちながらも、壁に凭れつつ牢に続く道を行けば、その先に見えたのはスフィアが座り込む姿。その姿に焦りが募り急いで駆け寄ってスフィアに寄り添う。紙袋で隠しているとはいえ、女の身体。でも今の俺に嫌悪感はなく、ただスフィアが心配になるばかりだ。

牢で鎖に繋がれた平民少女の声はもはや俺には聞こえなかった。紙袋を被っていようとスフィアの息が荒いのがわかる。いや寧ろ被っているからこそ紙袋がスフィアの息に合わせて動きわかりやすい。

「スフィア、ここを出よう」

「はい……」

「フィセード様!」

親しくもないのに何故軽々しく名を呼ばれなければならないのか。鎖をがちゃがちゃと口も何もかもが煩わしい女にようやく目を向ければ、嬉しそうに笑う姿。

「気持ちが悪い笑みを向けるな。気色悪い声で俺の名を呼ぶな。行くぞ、スフィア」

「そんな、酷いです!待って!」

ここにいると……いや、あれを見るとどうにも殺したいくらいに憎いと思えた。会ったのは転校してきたあの日だけだったろうに。そういえば意識を失う直前もあれに憎悪を抱いたなと少しだけその時の気持ちを思い出す。

呼び掛けた俺に、スフィアはよたよたと立ち上がり、情けないが俺もまだ体力と筋力が戻っていないために互いが互いに寄りかかるようにして牢からは離れ、牢から出れば来た時には誰一人見かけなかった侍女や兵士たちが城を歩いており、俺を見て誰もが慌てた様子だった。

「お身体の調子もまだよくないでしょうに何故こんなところへ!」

「俺は大丈夫だ。それよりもスフィアを」

「そんなわけないでしょう!」

そうしてスフィアを侍女が、俺は兵士に寄りかかる形でそれぞれの部屋に運ばれた。部屋の前には青ざめたレオルトがおり、どうしたとばかり中へと入れた。

「まさか殿下が部屋にいらっしゃらなかったなんて……っ返事がないから寝ているか、容態が急変したのかともうどうしようかと思っていたんですよ」

「? お前はさっき来ていただろう?」

あまりに青ざめているものだからどうにも嘘を言っているようには見えない。だが、確かに牢へ向かう前、話していたのはレオルトだったのは覚えている。

「私、先ほどまで書類整理をしていましたので今日は初めて会うかと思いますが……?」

それを聞いて首を傾げたのは俺で、ならば先ほどのレオルトは?となればどちらかが偽物ということだ。今思えばレオルトが俺を部屋から出させるだろうかと思った。

ベットから抜け出した時点でお戻りくださいとベットへレオルトなら戻すだろう。それに俺に何かを気づかせるような物言いはレオルトらしくない。

ならばあれは誰だったのか。ふと思い浮かんだのはスフィアの師匠。だが、ありえない。包帯を巻いたスアンの変装ならともかく、レオルトの変装、顔までそっくりなんて変装は難しいという話以前に無理だ。しかし、レオルトそのままだったのは誰がも何も俺が見ている。なのに何故か俺は頭の中であの師匠こそがあの時のレオルトなのだと

「悪い、疲れているみたいだ」

「勝手に部屋を出るからですよ」

「そうだな。レオルト、それよりもスフィアの体調が最近悪いことを知っていたか?」

「いえ、先程兵士から聞いて初めて知りましたね」

「そうか、今日はもう寝る。明日スフィアの様子を伝えてほしい」

「かしこまりました。では失礼いたします」

レオルトが出ていって、ようやくひとりの時間。思えば掃除中に侍女が紙袋が濡れていたからとゴミ箱を漁るのもおかしいし、スフィアがわかりやすくそんなことをするとは思えない。

とはいえ、スフィアの体調が悪かったのは嘘ではないだろう。牢へ行くまで誰にも会わなかったのもそいつの仕業なのだろうか?明らかな不法侵入にはなるが、誰かに言う気にもなれない。

大切な何かを思い出すきっかけを与えてくれたような気がしたからだ。恐らくまた違う何かでそいつ師匠に会う気がした。

またレオルトの姿で来るのだろうか?もしくは他の形で来るか。わからないが聞きたいことは山ほどある。スフィアの師匠は恐らく。だが何が普通ではないのかまではわからないが、俺自身がそれを疑わずに知っているとでも言うように頭の中で肯定してしまう。

「スフィア……俺は……」

そしてその人物のおかげとでも言うべきか俺はスフィアに対して自覚した想いがある。でもそれは今のスフィアであって、そうではない気もしていた。その矛盾がよくわからない。

女嫌いもそれがわかればわかるような気がして……でも、その原因はなんとなく平民少女であるとどこかで理解もしている。あのレオルトがスフィアの師匠だと確信しているのとはまた違う感じだ。原因はあれっぽいなと曖昧な感じなのだ。

とはいえ理解をしていたとしてもあれに会うのは意識が途切れたあの日が初対面だったはず。それに牢に入れられた平民少女の態度も気になった。初対面の時、あんな気安そうな態度には見えなかったからこそ余計に。

三年間の間に何かあったのか?牢に入れられ続け狂ったにしては何かがおかしいと思う自分がいる。それに俺の名を軽々しく呼ぶ原因にはなりえないだろう。

とはいえ、俺は眠り続けていてあれと会う機会はなかったのだから余計に意味がわからない。夢で会っていたなんて言われたらバカにするところだ。俺は夢を見た覚えはないからな。

……いや、夢は見たかもしれない。同じ夢を。

あれは誰かが何かを言っていた。顔ひとつ思い出せない夢の中の住人。けど、決してあの平民少女ではないことだけは断言する。あれと比べるなと思う自分の心が叫んでいる気がしたからだ。
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