愛した人を悪役にした俺は

荷居人(にいと)

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そんな努力がいつかは報われると思うことで俺は自分を保っていた。しかし、それすら崩れるのは、花を持って扉から聞こえた懐かしい笑い声を聞いたその日。

「私ね、カーンに会えるのが一番の楽しみなの!」

声がでないはずのエミィの声が枯れた様子もなく聞こえる。いつから、一体いつからエミィは声を出せるようになっていた?そんな疑問ももちろん浮かんだが、それ以上にエミィが俺以外に向ける嬉しそうな声に嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。そんな資格はないと頭では理解しながらもこの感情は止まらない。

「そうですか……私もですよ、皇后様」

「エミィと呼んでくれないの?」

ああ、聞きたくないのに聞かずにはいられない自分が嫌になる。

「お立場が違いますので」

「そればっかりね……私、皇后様になった覚えはないのだけど………」

ガツンと頭を殴られたようなそんな感覚。いや、俺が見えなかったなら俺との記憶が消えていてもおかしくはない。でも、それでも………っ!

「………陛下が来たようなので私はこれで」

「!」

バレていた。かちゃりと開かれた扉にカーンと目が合う。何故か普段表情を変えないカーンから憐れむように視線を向けられて、なんだ?とは思ったが、すぐお辞儀をして何事もなかったように去っていった。

「いつも何もいないのに変なカーンね……陛下って幽霊なのかしら?たまに花が急に現れるし………あながち間違ってないかも?」

そんなカーンを引き止めるよりも昨日までとはまるで別人のエミィに俺は戸惑うしかない。何より結局エミィが俺の存在に気づかないことに変わりはないのだから。よかったじゃないか、エミィが笑ってたんだ。嬉しいことじゃないか、エミィの声が聞けて。

なのに………なんで涙が止まらないんだ?

「エミィ……っ」

「それにしても今日からようやく声を出してもいいなんて………話す人がいなきゃ意味ないのになぁ」

カーンが、カーンが隠していたのか?エミィの呟きに一瞬怒りが沸き上がるがそれ以上に虚しさが広がった。知らされたところで俺はエミィと共に喜ぶことすら許されないと再確認させられたのだから。

「エミィ……話し相手になるから………」

「カーン………戻ってこないかなぁ」

ああ、俺以外の男の名を呼んでくれるな。だが、それを俺が望む権利はない。わかっている、わかっているんだ。

「好きだ……愛してる……っもう、君を悪くなんて言わせないから」

「暇だしもう一眠りしようかな」

「お願いだ……!俺に気づいて………っ」

俺の声が今日もエミィに届くことはなかった。
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