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「その日はハワードさんがケーキを買ってきてくれて家族三人で祝っていた。叔父クリスさんも、仕事が終わり次第叔母ミリーナさんと後から来てくれる予定で、ケーキを先に食べながら祝っている時だった。キャロエさんが突拍子もなくごめんなさいとそう言って隠し持っていた包丁で俺と話していたハワードさんの胸を貫いたのは」

祝っている時に突然だったのか。幸せになると思われたそんな時に……。

「何が起きたのか理解できなかった。さっきまで笑い合っていハワードさんが真っ赤に染まって、同じように笑っていたように見えたキャロエさんが涙を流しながらハワードさんを刺した包丁を持っていたから」

楽しい瞬間が一気に血に染まれば、それは確かに記憶を改竄したくなるほどのショックになるかもしれない。それが自分ゼロ母親キャロエによる手によってなら余計に。

ハワードが事故で死んだと記憶を改竄したのは、母親キャロエ父親ハワードを殺したことを認めたくない気持ちがそうさせたのがわかる。

「その時、キャロエさんは他に何か言っていたの……?」

「ずっと謝ってた。ごめんなさいと繰り返し。それで謝りながキャロエさんは包丁を捨て、俺の首を締めて殺そうとした」

「そこで私とクリスが家に着いたの。クリスはゼロを守るためにキャロエさんをゼロから離したけれど、あまりに暴れるからと覆い被さるように上から押さえつけたのが間違いだった。近くに包丁が落ちていることに気づかなかった夫は、キャロエさんを押さえつけるのに必死で包丁を手に取ったことに気付かず………そのまま刺されたわ」

状況は違えど、そこをゼロは叔父が母親を襲おうとしたと改竄……したのね。全ては母親の仕出かしたことを信じたくない幼い心がそうさせた。

「それで、叔父クリスさんを退け、また俺を殺そうとしたキャロエさんから包丁を奪い取った叔母ミリーナさんがキャロエさんを殺した」

「……ええ、思い、出したのね」

付き人の正体はミリーナ様……?なら、付き人は殺されたわけじゃなく、存在しなかったのね。ゼロは無意識にそれを理解した上で記憶を改竄してしまっていたのかもしれない。

「そうして死ぬ寸前キャロエさんが残した言葉が、愛せなくてごめんねという言葉……だった。まだ子供だったけど、理解するにはそれだけで十分だったんだ。キャロエさんは俺が母さんに愛されたくて祖父を殺したのを理解した上で庇おうとしたことを。俺がキャロエさんを追い詰めた。俺が追い詰めたせいでキャロエさんは一家心中をしようとした。俺が祖父を殺したから………っ」

自分ゼロのせいで起きた悲劇。それが、記憶を改竄せずにはいられなかったほどのショックな出来事。

母であるキャロエが父であるハワードを殺し、さらには止めようとした叔父クリスまでを殺した後、ゼロを守るために叔母ミリーナにキャロエを殺させてしまった。私が子供のときその現場にいたなら、正気でいられただろうか?

でも記憶を改竄したせいで、ゼロはさらなる罪を重ねてしまった。殺人ほどではないかもしれないが………それでも罪に小さいも大きいもない。

自分を保つためだったにしても……過去は覆せないのだから。
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