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第337話 ミリア湖再来
しおりを挟む──ルスサルペの街
ハイルデート家・私有地・ミリア湖──
「いいねぇ、夜の月明かりも映えるな、この湖は」
湖の水面に映る異世界の月を見ながら俺はスゥっと息を吐く。
「そうだね、凄く綺麗、あ、お魚が跳ねたよ」
魔力を纏った足で大気を踏みしめ、渓谷を抜け、今は湖の上空を飛ぶクレハをお姫様抱っこした俺は、ここでまた自分より高い位置を飛ぶ生物に出くわす。
それは他でもない。この湖の番人。
青い大きな竜。そしてミリアのお友達──
「──よう、タケシ、覚えてるか? 邪魔するぜ」
現れたタケシは人懐っこく「グウ!」っと、返事を返してくると、俺たちの周りを旋回する。
にしても、空中で一日に二回も自分より何倍も大きな生物に遭遇するってのは、中々にレアな体験だな。
「お邪魔するねー!」
旋回するタケシに優しく手を振るクレハ。
律儀に「グウ!」と、また返事をするタケシを横目に、俺たちは〝ルスサルペの街〟へと向かう。
──〝ルスサルペの街〟に着くと、俺は宿を探す。俺一人なら野宿でも良いが、クレハが一緒だからな。
できれば、野宿は避けたい。
「お、まだ明かりは点いてるな、空きあるかな?」
古民家風の建物を見つけると、急いで駆け寄る。
小さく民宿に近いが、歴とした宿屋だ。
普通に空いていた宿屋に一部屋を取り、まだ開いてる店(酒場らしいが)に遅めの夕食を取りに行く。
酒場と聞いていたから、治安はどうなのかと思ってたが、驚くほど治安はよかった。
酒場特有の薄暗さはあるが、年配夫婦がやっており、何処と無く異世界っぽさがある──〝ハラゴシラエ〟と比べると規模は小さめの店だ。
それでもカウンター10席、テーブル8席はある。
そしてこの治安の良さは、この店の老夫婦にある。
この店の店員は強いのだ。そこら辺のゴロツキや盗賊なら、ワケ無く倒せるだろう。
俺も店に入ったら、チラリと一瞬だけ見られた。
店主が俺が気づいたことに気づいたんだ。
恐らく若い頃は名のある冒険者や衛兵、それか騎士をやっていたのだろう。
上手く隠してはいるが、修羅場を経験した独特の雰囲気もある。
あからさまに店主に警戒される俺。
あーあ、ヤダねぇ。別になにもしませんよ?
「お、兄ちゃん、見ねぇ顔だな? 冒険者かい?」
木樽のジョッキに入ったビールを持った、眼帯のイカツメなおっさんが俺に話しかける。
常連らしい眼帯のおっさんはイカツメな顔とは裏腹にその声は実にフレンドリーだ。
「そんな所さ、邪魔するぜ」
フード付きマントを被った、如何にも怪しい俺はクレハを連れ、テーブル席に腰掛ける。
「さて、何食うか?」
「私はお肉にしようかな」
席に着くと、直ぐ様メニューも見ずクレハは肉を頼むと言葉にする。
そういや、クレハは肉が好物だったな。
「俺は何か適当に」
そういうと、俺とクレハは、鶏の唐揚げ、大鶏の手羽先、イヤーキノコのサラダ、十本ダコのカルパッチョ、チーズと月トマトのピザを頼んだ。
まあ、二人でシェアして食べようと言う話でだ。
クレハと駄弁りながら待つこと10分ちょい、料理が運ばれて来ると、話もそこそこに食事を取り始める。
「あ、ユキマサ君、ピザ1枚ちょうだい」
「おう。あ、俺にも唐揚げをくれ」
八分の一に切れたピザをクレハに渡し、山盛りで出てきた唐揚げを俺は一つ貰う。
味は、うん。普通。
特別美味い物でも無く、不味いわけでも無い。
チェーン店の店の料理ぐらいのレベルだ。いつもかわらない味。まあ、この店は手作りだろうけど。
俺は〝ハラゴシラエ〟の料理のが好みだな。
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