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第356話 シナノの家5

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「ほわぁ!」

 キラキラ、キラキラ、目が輝いてるシナノ。
 その視線の先には、すき焼きの縞牛しまうしの肉がある。

 クレハと俺も、自分の分のすき焼きを取り、3人で「いただきます」をする。
 クレハも「贅沢だね!」と言いながら大好物の肉に顔をほころばせる。

「!!」

 肉を食べたシナノが目を見開く。

「美味いか?」
「はい! 美味っしい、美味し過ぎます! しかもタダと言うことで、より美味しさが増します!」
「どんなスパイスだよ」

 空腹は最高のスパイスとはよく言うが、タダ飯でより美味さが増す何て聞いたことはない。
 いや、言われてみれば……どっかで、タダで食う飯は美味いと聞いたことがあるような、無いような?

「あ、美味しい!」
「そりゃよかった」

 クレハも気に入ってくれたようだ。

「ユキマサさん、おかわりしていいですか?」
「おう、どんどん食え、肉は自分で入れな?」

 シナノは俺から渡された、縞牛の薄切り肉の山積みをどんどん鍋の中へ入れていく。

「野菜も食えよ」
「勿論です!」

 肉の煮える間に野菜も食べていく。卵も追加した。

 と、その後もシナノは食うわ、食うわ。
 やせ形の体型の何処にそんな入るのか、疑問に思うぐらい食べた。まあ、食事に体型は関係ないか。

「このスープは何ですか? 凄く美味しいです」
「昆布と鰹節の出汁で取ったスープだ。俺の故郷では一般的な料理だ。スープ自体は別に値段も高くない」

「だ、だし?」
「まず、水を張った鍋に昆布を入れるだろ」
「どうしたんですか、急に? 頭でも打ちましたか」

 食べる手を止め、真顔で返された。

「出汁ってのは、そうやって旨味を抽出するんだよ」
「ちょ、待ってください。私のいない間に私の家でそんな奇行におよんでいたんですか!?」
「出汁取りを奇行と呼ぶのはこの世界の悪い所だ」

 しらたきをズズっと食べる。
 うん、ノンカロリー。

「ユキマサ君、家でも黙々と出汁取ってたよね」
「出汁は命だぜ?」
「ふふ、私も好きだな。出汁料理」
「私もファンになりそうです」

 喋りながらも食べる手は止めないシナノ、でも俺は何かコイツの性格は好きだな。
 良く言えば素直、少し口悪く言えばガメツイ。

「む、何ですか? お、お肉はどんどん食べて良いと許可をいただいた筈ですよっ!」
「いや、そこじゃねぇよ。肉はどんどん食べな? っと、味変じゃないが、ちょっと肉を変えてみるか?」

 〝アイテムストレージ〟から新たに肉を取り出す。さっきのは縞牛しまうしだが、これは華牛はなうしの薄切り肉だ。
 ちなみに縞牛より華牛のが少しだけ高い。

「華牛だ。いかがかな?」
「華牛! 立派な牛肉じゃないですか!」
「肉の質を落とすと思ったか?」
「失礼ながら……はい」

 素直なことで。

「セコいことはしねぇよ。いっぱい食べな?」

 キラっと、シナノの目が一瞬、光った気がした。

 するとシナノは「お腹を空かせる為、少し走ってきます。お肉、絶対に取っておいてください!」と、言い残し、走り去って行った。

「シナノさん、本当に行っちゃったね」

 ……ネギと白菜、追加しとくか。
 後、非常用に取ってあった出汁と調味料諸々。
 つーか、すき焼きの割り下もうほぼ無いじゃん。
 俺が追加しなきゃどうやって食う気だったんだよ?
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