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第475話 怒りの一撃
しおりを挟む刹那、山河をも崩壊させる強い魔力を纏った回し蹴りがシリュウを襲った。
メキメキメキ、シリュウの骨からそんな音が鳴る。
「それ、返してもらえるかな?」
いつもの明るく優しげな声ではない。
ノアにしては本当に珍しく怒気を含んだ声だ。
「ガハッ……!」
盛大に吹き飛ばされるシリュウは家を10軒ほどぶち抜いた所でようやく止まった。
「これが噂の大聖女ですか……カハッ……」
ドババババ、と嘔吐するように血を吐くシリュウ。
「返してって言ったよね?」
シリュウは目を見開いた。km単位で吹き飛ばされた直後に前から、蹴り飛ばした本人が話しかけて来たのだ、軽い恐怖である。
「くっ……噂以上ですね、これは……!?」
慌てて距離を取ろうとするが、遅い。ノアの方が速度は数段上だ。その声は後ろに飛び距離を取った筈のシリュウのそのまた後ろから聞こえた。
「逃がさないよ」
ノアの右手がシリュウの左手を手首から握り潰す。ぐちゃりと潰れた左手から心臓を入れていた壺が溢れ落ちる。
それを拾い上げるとノアは悲しげに呟く。
「私でもこんなに怒ることあるんだ。知りたくなかったかな、こんな感情は──」
ドン!!
更にノアの回し蹴りがシリュウの腹部を捉える。
再び、盛大に吹き飛ばされるシリュウはノアを強く睨んだ。
ドスン!
吹き飛んだシリュウを止めたのは。
人間の足だった。
正確には人間の靴の裏。
その人物は驚き半分に口を開いた。
「驚いたわ、大聖女にかかれば魔王信仰のNo.2様もこんななのね。それに私が斬った腕、また生えてるけど、よく見ると手首から先がぐちゃぐちゃね」
「エルルカ・アーレヤストォ……」
褐色肌に長い髪にバンダナを巻き、ライフル銃と誰が見ても高そうな二本の双剣を腰にさし、既に瀕死のシリュウは忌々しそうに──エルルカ・アーレヤスト、その名を呼んだ。
「本当なら、最初から私の手で葬り去りたかったけど、状況が状況だから文句は言えないわね」
エルルカは刀をシリュウの首に向けて振り下ろす。
──ガキン。
だが、止められた。
武器はペキシュ。丸みを帯びた鎌形の剣だ。
「シトリ・チャーチ。確か影移動を極致まで極めたと聞いているわ」
「……」
返事はない。その代わりに鋭い刃がエルルカを襲った。
難なくエルルカはそれを避ける。
今はシトリでは無く、シリュウの討伐を優先しよう。そうエルルカは考えた。
得意の超高速移動でシリュウにトドメを刺す。
──が。
「!?」
刃が刃で止められた。
「俺の隷をこうもポンポンと殺されちゃ困るんだよ」
「意外ね。協力者とは言え、魔王が人類を助けるなんて。少し評価を改めなきゃいけないみたいね──」
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