摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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カスミソウ

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化学の授業が終わり、朝倉は田中を引き連れ、佐藤のいる教室に向かう。


「南雲さん? ああ、南雲なら授業終わったらすぐ出てったよ」
「まじかあ……」


佐藤に南雲がいるか否かを聞くと、答えはNoと返ってきた。
朝倉はとても残念がって見せる。


「え、どうしたの、これ」
「朝倉は恋をしたのさ!」
「まじか!」
「違う!」


田中は佐藤に要らないことを言う。
そして、朝倉が南雲を好いているということを全否定してしまう。


「ただ気になることがあるだけで……」
「ふっふっふ~。まあ、それが恋だって気づかないのが朝倉らしいよねぇ~」
「そうだよなぁ。てか、さっき体調悪いの佐藤の飴のせいにしてたぞ」
「何だとー! 人の良心を踏みにじりやがって!」
「あれ美味かったよ」
「だろー?」


残念だが、昼休みに再び来ようと考える。
今は少しでも情報を共有したいところである。自分の命にも関わっているのなら尚更だ。


「また来るよ」
「俺から何か声掛けとこうか?」
「頼むー」
「おうよ~」


朝倉と田中は自分の教室に戻っていく。
次の授業が終われば昼休み。お腹が空いたので、間食として持ってきていたチョコレートの1包みを口に入れる。
そして田中にも1包みをお裾分けしてやる。


「本当に暑っついな」


共感を得たいだけで、返事は求めないことを言う。
夏を生きているなら1日に50回は言うだろう。


「ほんとそれ。学校終わったらアイス食いに行かね?」
「行くか~」


あっという間に4時間目が過ぎ、すぐに佐藤のクラスへ向かう。
階段を挟んで隣にある教室を覗き込む。
すると、先程すれ違ったであろう女子生徒がいた。しかもこれから昼食だというのに酸っぱいグミを食べている。彼女に違いない。


「あの……、南雲さん……?」
「どうしたの? ああ、佐藤が言ってた人?」
「そうだと思う。俺、2組の朝倉柊太。ちょっと話したいことあるから、今時間ある?」


周りから見たら、朝倉は今から南雲に告白をしようとしているように見えるだろう。だが、朝倉と南雲は初対面である。
何かが起こる可能性はまず無いだろう。


「私は南雲小春。時間はあるよ。私も聞きたいことあるの」


そして2人で誰も来ないであろう空き教室に移動する。
空き教室は本当に誰も使っていないようで、埃っぽい匂いがする。
先に南雲が口を開く。


「朝倉君から先に言ってちょうだい」


南雲は黒髪のショートカットの髪を撫でて、表情を変えず、朝倉を見つめる。


「うん。単刀直入に言うけど、南雲さんって花を吐いたことある?」


南雲はやはり表情を変えず、朝倉から目を離さない。
まるで時が止まっているような気さえしてくる。


「あるよ」


何も隠すことなく即答をしてくれる。
制服のポケットから花弁が落ちてくる。


「これって……」
「そうだよ。私はカスミソウを吐くの」


すれ違った時と同じ香りがする。


「私にはね、優秀過ぎる兄さんと姉さんがいるの。私の手紙には兄さんたちが原因だって書いてた」
「そうなんだ……。因みに治療法は分かってるの?」
「うん。分かってる。凄く簡単なことだけどね」
「どんなの?」
「酸っぱいものを食べ続けること」
「良かったじゃん!」


朝倉は南雲に歓喜を見せてしまう。
やはり表情が変わらない南雲は諦めがついた目をしていた。


「朝倉くんはどうなの?」
「俺は自分を欺き続けたことが原因らしいんだ。よく分かんないんだけどね。完治するけど後遺症が残るらしいんだ」


それを聞いて、南雲は少し羨ましそうに下唇を噛みしめる。


「早く完治するといいね。じゃあね」
「あ、ちょっと!」


南雲は振り向きもせず空き教室を後にした。
そのことに対して朝倉は何かしてしまったのだろうか、と動揺することしかできなかった。










・南雲小春(ナグモコハル)
・17歳(高校2年生)
・花吐き病→カスミソウ
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