摘んで、握って、枯れて。

朱雨

文字の大きさ
13 / 36

テンシ

しおりを挟む
熱い声援が全身を通り過ぎていく。
その風はいつも嬉しくさせ、頑張って良かったと思わせるものであった。


「歌もダンスもこれから頑張っていくから! 応援よろしくお願いします!」


これは彼女の抱負でもあり、反抗でもある。
彼女の職業はアイドル。歌いながらダンスをする。
200人の箱を埋めるくらいには人気らしい。


「ヨルでしたー! みんなありがとうー!」


ヨルの笑顔はまるで天使のように可愛らしかった。
運動神経も良く、歌も頑張っている。努力ができる女の子である。

舞台裏にいくと、ヨルは突然倒れてしまう。
か細いヨルの身体は女性スタッフでも容易に持ち上げられるほどのものだった。
ヨルはいつからか体調不良が続くようになり、体調不良に見舞われる前の食生活では体重のキープが出来なくなった。


「はぁ……っ?!」
「大丈夫?! ヨル、貴方また倒れたのよ?!」
「ほん……とですか……?」


ヨルは目を覚ますと必ず青ざめたマネージャーの顔を見ている。
その度、いつ契約を切られるのだろう、と心配になるのだ。
原因だって分かっているのに治療法がないわけで、現状維持を強いられている。


「ごめんなさい。いつも心配をおかけしてしまって……。でも、大丈夫なので、まだステージに立たせてください」
「ヨル……」


ヨルのマネージャーはヨルの体調を心配して病院に同行してくれた。
しかし医者は原因不明の栄養失調だ、と言う。
そのため、点滴を打ったり食べる量を増やしたり、出来ることをしてきた。


「私、まだ輝いていたいんです。学校だって頑張ります。お仕事だって頑張ります。ですから、マネージャー、私のことを見守っててくれませんか……?」
「……はぁ。私が無理だと判断したら終了よ。無理矢理にでも食べる量を増やすこと。そして、無理な時は無理と言うこと。これらを絶対守りなさい」
「ありがとうございます!」


ヨルは鉄剤を飲んで、この日はもうマネージャーに家まで送ってもらった。
帰りの車内はエアコンを付けず、窓を開けたままにしてもらった。
車内に入ってくる風は生温く、気持ちが悪い。しかし、それが心地良い。
窓は少し冷たかった。


「ただいま」
「おかえり。夜空、貴方また倒れたんですって?」
「うん」
「もうやめなさい、こんなこと。体調管理が出来ない子がアイドルなんて。絶対向いてないわ」
「ごめんなさい……。でも、頑張らせて……」
「はぁ……。ご飯食べて寝なさい」
「はい……」


夜空とはヨルのことである。ヨルは芸名である。


「ふぅ……」


後は寝るだけなので、部屋に戻ると、また倒れ込む。


「はぁ……っ! い、い、痛い……っ!」


夜空は肩甲骨付近に激痛が走る。


「痛い痛い痛い痛い痛い……」


泣くほど痛い。
背中に感じる異物が脈を打っているのを感じる。
ドクンドクン、と。

通りきれなかったものが全て出ていったかのように、スッキリではないが、多少の異物感は無くなった。


「また……綺麗になってる……」


夜空の背中に背負っているのは羽だ。天使の羽。
白い羽だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。最近になって羽先の方から銀色になってきた。
三日月に映える銀色になるのかもしれない。


「むしり取ってやろうか……」


そんなことして痛い想いをするのは夜空本人。
何にも得がない。損しかない。
人間の面白いところは損得の天秤にかけた時、損が重い場合は手を引くのが簡単であることが多い。
夜空もその1人にすぎない。


「誰か……助けてよ……」


今夜は快晴で、夏の夜空に輝く星々は眩しいほどだ。
月も出ていないため、自分だけの輝きで世界を照らしている。










・天野夜空(アマノヨゾラ)
・15歳(高校1年生)
・天使病→ハクギンイロ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...