摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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終演

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最近、食欲が出ない。
腕の点滴を見るのも億劫だ。
だが、食事を無理矢理にでも喉を通す。


「う゛ぅ……っ」
「ヨル……」
「ま、まだ私できます! まだ輝かせてください!」
「約束、覚えてる?」


ああ。もう潮時なのだ。
そう現実を叩きつけられる。


「……はい。ごめんなさい……」
「私はヨルのマネージャーで、1番のファンで、1番近くにいた。それだけで十分」
「告知お願いしてもいいですか?」
「ええ。任せて」


マネージャーは椅子にぐったりと無気力に座りながらも笑顔を絶やさないアイドルの手を握りながら運営用のスマホで告知文を打ち込む。


「引退……早いですね……」
「そうね。でも私はヨルと二人三脚でここまで頑張ってこれて嬉しいわよ」
「私、悔しいです……っ」


奇病にかからなかったら。
もっと早くアイドルになれていたら。

ヨルはそんなたらればを続ける。


「そうね……」
「マネージャー、ありがとうございました」
「最後のライブがあるでしょ。お礼はその後にしてちょうだい」
「はは。ですね」


2週間後のライブが最後になる。


「ゆっくり休むのよ」
「はい」


あと少しで、『ヨル』というアイドルから『天野夜空』に戻ってしまう魔法が解ける。
それまで、ヨルは練習を続けた。
歌もダンスもトークも色々考えた。


「ネット、見たよ」


学校で天野は南雲が話し掛けられる。


「はい……。もう限界みたいです。食べ物を食べるのも億劫になってきちゃいました」
「そっか……。まだ自分の意識を保てられているの?」
「え? それってどういう……」
「前も言ったけど、羽根に支配されるよ。貴方は本当の貴方?」
「私は私ですよ! 自分の意志でアイドルもしてます」
「そうよね。野暮なことを訊いたわ。ごめんね」
「すみません……。私も大声出しちゃって……」
「いいえ。それで、2週間も保つことができるか不安よ、私は」


天野は頭の中が白くなる。
最後にステージに立つことも許されない程、自分の病は深刻なのだと思い知らされる。


「で、でも、私はどうしても立ちたいんです! 南雲さん……、何とかなりませんか?!」
「色々対処法はあるだろうけど、まず貴方には手紙が届いていない。適切なものがないのよ。でも、手紙が無いことで1つ分かることは、貴方の存在、奇病がイレギュラーだったってこと」
「そんな……」
「でもそれを誰かのせいにしないでね」
「それはしませんよ」


天野は即答する。
南雲はそれに微笑む。


「よかった。でね、効く薬なんて無いけど、この薬を飲めば多少延命とか進行速度が遅くなったりとかできるはず。効くか分からないし、後遺症なんて分からない。それでもチャレンジする?」


今の南雲の表情は真面目でありながら、どこか妖艶さを感じる。
それに怖気づきそうになるが、天野は首を縦に振る。


「そう。幸運を祈るわ」
「ありがとうございます!」


南雲は白い包みを天野へ渡す。

あっという間に2週間が経ち、卒業ライブ当日になる。
今まで以上のパフォーマンスが出来た、とヨルは思う。


「最後に私からいいですか?」


アンコールはまだ止まない。
しかし、ヨルが口を開くと、ファンたちは静かになる。


「私はこの短い間だけだったけど、アイドルできてとっても楽しかったです! ファンのみんなに応援されて幸せ者でした! 嫌なことも辛いこともあったけど、ステージに立ちたいという気持ちだけはずっと私の中にあり続けました。私をここまで連れてきてくれたみんな、本っ当にありがとう……!」


涙でぼやける視界いっぱいにヨルのイメージカラーである紫のペンライトが動き始める。

アンコールが湧き上がった会場は熱く感じられた。


「私の1番好きな歌! みんな聴いてね! 『アイドルになりたいっ!』」


泣きながら歌った。
感謝しながら歌った。
悔しがりながら歌った。


「みんな! またいつか! 絶対会おうねー!」


嘘を叫んだ。

ヨルという人格は今日限りこの世から姿を消した。
すっかり冷え込んでいて、空気が澄んでいるからか、星が綺麗に見える夜だった。
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