24 / 36
終演
しおりを挟む
最近、食欲が出ない。
腕の点滴を見るのも億劫だ。
だが、食事を無理矢理にでも喉を通す。
「う゛ぅ……っ」
「ヨル……」
「ま、まだ私できます! まだ輝かせてください!」
「約束、覚えてる?」
ああ。もう潮時なのだ。
そう現実を叩きつけられる。
「……はい。ごめんなさい……」
「私はヨルのマネージャーで、1番のファンで、1番近くにいた。それだけで十分」
「告知お願いしてもいいですか?」
「ええ。任せて」
マネージャーは椅子にぐったりと無気力に座りながらも笑顔を絶やさないアイドルの手を握りながら運営用のスマホで告知文を打ち込む。
「引退……早いですね……」
「そうね。でも私はヨルと二人三脚でここまで頑張ってこれて嬉しいわよ」
「私、悔しいです……っ」
奇病にかからなかったら。
もっと早くアイドルになれていたら。
ヨルはそんなたらればを続ける。
「そうね……」
「マネージャー、ありがとうございました」
「最後のライブがあるでしょ。お礼はその後にしてちょうだい」
「はは。ですね」
2週間後のライブが最後になる。
「ゆっくり休むのよ」
「はい」
あと少しで、『ヨル』というアイドルから『天野夜空』に戻ってしまう魔法が解ける。
それまで、ヨルは練習を続けた。
歌もダンスもトークも色々考えた。
「ネット、見たよ」
学校で天野は南雲が話し掛けられる。
「はい……。もう限界みたいです。食べ物を食べるのも億劫になってきちゃいました」
「そっか……。まだ自分の意識を保てられているの?」
「え? それってどういう……」
「前も言ったけど、羽根に支配されるよ。貴方は本当の貴方?」
「私は私ですよ! 自分の意志でアイドルもしてます」
「そうよね。野暮なことを訊いたわ。ごめんね」
「すみません……。私も大声出しちゃって……」
「いいえ。それで、2週間も保つことができるか不安よ、私は」
天野は頭の中が白くなる。
最後にステージに立つことも許されない程、自分の病は深刻なのだと思い知らされる。
「で、でも、私はどうしても立ちたいんです! 南雲さん……、何とかなりませんか?!」
「色々対処法はあるだろうけど、まず貴方には手紙が届いていない。適切なものがないのよ。でも、手紙が無いことで1つ分かることは、貴方の存在、奇病がイレギュラーだったってこと」
「そんな……」
「でもそれを誰かのせいにしないでね」
「それはしませんよ」
天野は即答する。
南雲はそれに微笑む。
「よかった。でね、効く薬なんて無いけど、この薬を飲めば多少延命とか進行速度が遅くなったりとかできるはず。効くか分からないし、後遺症なんて分からない。それでもチャレンジする?」
今の南雲の表情は真面目でありながら、どこか妖艶さを感じる。
それに怖気づきそうになるが、天野は首を縦に振る。
「そう。幸運を祈るわ」
「ありがとうございます!」
南雲は白い包みを天野へ渡す。
あっという間に2週間が経ち、卒業ライブ当日になる。
今まで以上のパフォーマンスが出来た、とヨルは思う。
「最後に私からいいですか?」
アンコールはまだ止まない。
しかし、ヨルが口を開くと、ファンたちは静かになる。
「私はこの短い間だけだったけど、アイドルできてとっても楽しかったです! ファンのみんなに応援されて幸せ者でした! 嫌なことも辛いこともあったけど、ステージに立ちたいという気持ちだけはずっと私の中にあり続けました。私をここまで連れてきてくれたみんな、本っ当にありがとう……!」
涙でぼやける視界いっぱいにヨルのイメージカラーである紫のペンライトが動き始める。
アンコールが湧き上がった会場は熱く感じられた。
「私の1番好きな歌! みんな聴いてね! 『アイドルになりたいっ!』」
泣きながら歌った。
感謝しながら歌った。
悔しがりながら歌った。
「みんな! またいつか! 絶対会おうねー!」
嘘を叫んだ。
ヨルという人格は今日限りこの世から姿を消した。
すっかり冷え込んでいて、空気が澄んでいるからか、星が綺麗に見える夜だった。
腕の点滴を見るのも億劫だ。
だが、食事を無理矢理にでも喉を通す。
「う゛ぅ……っ」
「ヨル……」
「ま、まだ私できます! まだ輝かせてください!」
「約束、覚えてる?」
ああ。もう潮時なのだ。
そう現実を叩きつけられる。
「……はい。ごめんなさい……」
「私はヨルのマネージャーで、1番のファンで、1番近くにいた。それだけで十分」
「告知お願いしてもいいですか?」
「ええ。任せて」
マネージャーは椅子にぐったりと無気力に座りながらも笑顔を絶やさないアイドルの手を握りながら運営用のスマホで告知文を打ち込む。
「引退……早いですね……」
「そうね。でも私はヨルと二人三脚でここまで頑張ってこれて嬉しいわよ」
「私、悔しいです……っ」
奇病にかからなかったら。
もっと早くアイドルになれていたら。
ヨルはそんなたらればを続ける。
「そうね……」
「マネージャー、ありがとうございました」
「最後のライブがあるでしょ。お礼はその後にしてちょうだい」
「はは。ですね」
2週間後のライブが最後になる。
「ゆっくり休むのよ」
「はい」
あと少しで、『ヨル』というアイドルから『天野夜空』に戻ってしまう魔法が解ける。
それまで、ヨルは練習を続けた。
歌もダンスもトークも色々考えた。
「ネット、見たよ」
学校で天野は南雲が話し掛けられる。
「はい……。もう限界みたいです。食べ物を食べるのも億劫になってきちゃいました」
「そっか……。まだ自分の意識を保てられているの?」
「え? それってどういう……」
「前も言ったけど、羽根に支配されるよ。貴方は本当の貴方?」
「私は私ですよ! 自分の意志でアイドルもしてます」
「そうよね。野暮なことを訊いたわ。ごめんね」
「すみません……。私も大声出しちゃって……」
「いいえ。それで、2週間も保つことができるか不安よ、私は」
天野は頭の中が白くなる。
最後にステージに立つことも許されない程、自分の病は深刻なのだと思い知らされる。
「で、でも、私はどうしても立ちたいんです! 南雲さん……、何とかなりませんか?!」
「色々対処法はあるだろうけど、まず貴方には手紙が届いていない。適切なものがないのよ。でも、手紙が無いことで1つ分かることは、貴方の存在、奇病がイレギュラーだったってこと」
「そんな……」
「でもそれを誰かのせいにしないでね」
「それはしませんよ」
天野は即答する。
南雲はそれに微笑む。
「よかった。でね、効く薬なんて無いけど、この薬を飲めば多少延命とか進行速度が遅くなったりとかできるはず。効くか分からないし、後遺症なんて分からない。それでもチャレンジする?」
今の南雲の表情は真面目でありながら、どこか妖艶さを感じる。
それに怖気づきそうになるが、天野は首を縦に振る。
「そう。幸運を祈るわ」
「ありがとうございます!」
南雲は白い包みを天野へ渡す。
あっという間に2週間が経ち、卒業ライブ当日になる。
今まで以上のパフォーマンスが出来た、とヨルは思う。
「最後に私からいいですか?」
アンコールはまだ止まない。
しかし、ヨルが口を開くと、ファンたちは静かになる。
「私はこの短い間だけだったけど、アイドルできてとっても楽しかったです! ファンのみんなに応援されて幸せ者でした! 嫌なことも辛いこともあったけど、ステージに立ちたいという気持ちだけはずっと私の中にあり続けました。私をここまで連れてきてくれたみんな、本っ当にありがとう……!」
涙でぼやける視界いっぱいにヨルのイメージカラーである紫のペンライトが動き始める。
アンコールが湧き上がった会場は熱く感じられた。
「私の1番好きな歌! みんな聴いてね! 『アイドルになりたいっ!』」
泣きながら歌った。
感謝しながら歌った。
悔しがりながら歌った。
「みんな! またいつか! 絶対会おうねー!」
嘘を叫んだ。
ヨルという人格は今日限りこの世から姿を消した。
すっかり冷え込んでいて、空気が澄んでいるからか、星が綺麗に見える夜だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる