摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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ユウガオ

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「おーい、小春ぅー」


南雲は自分を呼ぶ主の方を見る。


「何ー?」
「次の授業サボってさ、アイス食べに行かない?」


そんなことをいう彼女と南雲は義務教育を受けている身である。
中学校に通う少女たちだ。


「バレたら面倒だからパス」
「なんでー! いいじゃん。今日暑いし」


甘い誘惑をチラつかせてくる少女は小鳥遊柚羽。
中3の夏。
部活動も終わり、受験勉強に専念する生徒がたくさんいる。


「あと2時間で給食だよ。頑張ろ?」
「無理無理~~」
「じゃあ学校終わりに行こう」
「5時間目の自習の時行こ!」
「話聞いてた?」


小鳥遊は自由な少女だった。
彼女に振り回される南雲が少し気の毒に思えるくらいに。
しかし、南雲はそんな彼女を羨ましいと思っていた。


「いいじゃん」
「給食食べ終わった後よ? 放課後にしましょうよ」
「うーん」
「給食のデザート、フルーツポンチだって」
「放課後でいっか」


そして、小鳥遊は単純だった。
フルーツポンチの単語を聞くと、すぐに南雲の意見を飲み込んだ。


「次って道徳か~。おじいちゃん先生だから眠くなるんだよねぇ」
「それな」
「お。小春も略した言葉使うの」
「家じゃ絶対使えないけどね。それに、これは柚羽の影響だし」
「あはは~。あたしのこと好きだね~」
「鳥肌立ったわ」
「辛辣っ!」


南雲にはどこにも居場所なんて無いので、小鳥遊が唯一の生きる理由だった。
友情か恋愛かは分からないが、確かに好意はあった。


「はぁ……。道徳、ね……」


小鳥遊は転校生だった。
どこかまだクラスに馴染めていないのか、馴染まないようにしているのかは定かではないが、少し浮いている存在であった。
今思うと、不思議なオーラが出ていたのかもしれない。

おじいちゃん先生の道徳の授業が終わり、4時間目の授業も終わる。


「給食~」
「手洗いしに行こう」


2人はついでにトイレにも行くことにした。
しかし、中には先約がいた。


「小春ちゃんってさ、お兄ちゃんたち頭良いんでしょ? しかも、お金持ちなんだってね。羨ましい~」
「私たちみたいな庶民とは舌合わなそう。給食とか泥水すすってるとか思ってそうだもんね」
「分かる~。だから、あんな澄ました顔してんだね」
「毎回成績良いの裏で賄賂回ってるかららしいよ! ヒロ君が言ってた」
「やば~!」


ありもしない話で南雲の外面は形成されている。
別に今始まったことではない。
この世に南雲小春という存在が生まれた瞬間からレッテルが貼られていた。


「きゃっ?! 何すんのよ?!」
「やめてよ!」


南雲が俯いて立ち止まっていると、陰口を言っていた彼女たちの悲鳴が聞こえてくる。
南雲は疑問に思い、顔を上げると、小鳥遊が彼女たちに水道の蛇口から水を掛けていた。


「あはは~。ゴミついてたからさ。で、妄想癖も洗い流せたかな?」
「はぁ~?! 何よあんた! 転校生のくせに!」
「まじで最悪!」
「ごめんごめん。まだゴミ取れてないけど、許して? 大好きなヒロ君にでも体操着借りなよ」
「まーじでありえない! 先生に言うから!」


彼女たちたちはがつがつとトイレから出てくると、南雲と鉢合わせる。


「げ。小春ちゃんいたんだ」


それだけを言って通り過ぎていった。
南雲はその場にしゃがみこむ。


「もう嫌だ……。何で私だけこんな思いしなきゃいけないの……」
「大変だね、エリート家族の一員って」
「まあね。ほんと死のうかしら」


小鳥遊が手を差し出し、南雲は手を添え、立ち上がる。


「あはは~。まだだめだよ。私のこと1人にするの~?」
「寂しがり屋だね。いいよ、柚羽が死ぬまで生きてあげる」
「上からだね」


さっさと教室に戻ろうとすると、教室前に立っていた先生とさっきの彼女たちに捕まる。
そして、2人は職員室に連れていかれてしまう。


「何でこんなことしたんだ?」
「陰口を言っていたからですよ」


先生の前だというのに、小鳥遊は態度を変えなかった。


「嘘をつくな! あの2人はそんなこと言っていないぞ!」
「あっちが嘘ついてます。中立でいてくださいよ。先生でしょ」
「お前なぁ、先生への口の利き方が分かってないみたいだな!」
「私の言葉遣い変でしたか? 敬語で話してるつもりなんですけど」
「おいっ!」
「彼女たちが南雲さんの陰口言っていたので、水をかけました。まだ聞きたいことありますか? この件に関しては私も悪いと思いますが、あちらにも非があると思います」


南雲は単純に小鳥遊を凄いと思った。
自由で単純なくせに強い少女。
羨ましい。

結局、隣に座ってた先生が仲裁して、両者が反省文を書くことに収まった。


「ありがとね、柚羽」
「私は何にもしてないよーん。てか、アイス!」
「それ書き終わったらね」
「手伝ってくれる?」
「いいよ。早く終わらせようね」


その日の放課後、反省文を10分で書き終えた2人はアイスを食べに行った。
汗が止まらない夏の日のことだ。










・小鳥遊柚羽(タカナシユズハ)
・15歳(中学3年生)(当時)
・花吐き病→ユウガオ
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