摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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ハツコイソウ

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高山鈴香には好きな人がいる。
身長は175cmくらいで、歳は1つ上、近所に住んでいて、昔からよく遊んでくれていた。
とても優しい男性である。


「ゲホゲホッ! う゛……っ」


好きな人と結ばれるために、治療をして奇病を完治する。
《病気になった原因・・・仲間を信じられなかったため
    唯一の治療法・・・好きな人を傷つけること
    花を吐く際の応急処置・・・真っ暗な部屋で閉じこもる
    治療の結果・・・数ヶ月後に完治する
    処置しなかった場合・・・数ヶ月後植物状態になる》
完治したとして、好きな人を傷つけたら嫌われてしまうのではないか、という心配がある。


「今日は学校行かないのー?」


ドアの前で高山の母が部屋の中にいる患者に声を掛ける。
声色から心配する気持ちが伝わってくる。
高山は詰まる花弁を飲み込み、声を絞り出す。


「ごめん……。今日、体調悪くて……」
「あら……。お粥作るから食欲出たら降りてきなさいね」
「うん……。ありがとう……」


ドアの前から母の気配が無くなってから、高山は飲み込んだ花弁も吐き出す。
部屋に響く少女の嘔吐く音が生々しい。

恋愛成就によって完治した花吐き病の患者は白い百合を吐き出すらしい。
高山はその話を信じてはいなかった。
恋をするだけで胸が苦しいのに、物理的にも苦しまなくてはいけないから。
救われない恋愛をしなければならない。


「つっら……」


誰かが変わってくれるなら変わってほしい。
この苦しいのから解放されたい。
好きな人と笑って過ごしたい。
生きている人間に有り得るであろう権利が恋愛することだと思う。
自由な恋愛ができるか否かは行使できるかどうかだ。


「助けてよ……、優斗くん……」


呟いた名前は名前の主に届くはずもなく、力無く高山の腕は床に打ち付けられた。

次の日、学校へ行くと、いつもの目線を感じる。
何だ、今日は学校に来るのか、と。


「私は今日から毎日来れるよ」


高山の背後から女性の声がする。


「え……?」


この匂いを知っている。
彼女と高山は似た者同士だから。


「私と多分すれ違い多くて、あんまり会えてないよね。天野夜空。よろしく」
「あ、高山鈴香です」


高山は心配になるほど細い天野と教室に入る。


「もう分かってると思うけど、私は鈴香と同じだよ。多分、違う症状だろうけど」
「そうだね。香り的にも違う気がする」


高山は天野と会ってずっと思っていたことがある。
天野から不思議な香りがする。
花を吐き出す時と同じような感覚に陥る。別に花を吐き出すわけではない。
とても心地良い、良い香りがする。


「癖になる香りだね」


高山は天野に顔を近づける。
流石に恥ずかしかったのか、天野は高山の頭を軽く押し返す。


「ところで、南雲さんのところへ行った?」
「南雲さん? 誰それ?」
「私たちの先輩だよ。先日、南雲さんに助けてもらったの」
「へぇ。そうなんだ」
「もし何かあったら相談したらいいと思う」
「教えてくれてありがとう」


高山は『南雲さん』という未知の人間を思うには、足らない段階だと思っていた。


「私、もう長くないからさ」


騒然とした教室の中で誰も聞いていない綺麗な声は奏でられた。
それで高山は『南雲さん』のことを考えなければいけないのだと思わされた。


「長くない……? 対処法とかないの?」
「あるらしいんだけど、私、イレギュラーな存在らしくて、手紙?、渡ってないんだよね」
「ご、ごめん……。私、そんなこと知らなくて……」
「全然大丈夫だよ。話振ったの私だし」
「ほら、お前ら席に着けー」


先生が教室に入ってくる。


「だからさ、南雲さんのとこに手紙持って行ってみて」


自分の席に移動する際に天野が高山に言った。
高山は上の空といった状態で、先生の連絡は1つも頭に入ってこなかった。
ただ分かるのは、恐怖がそこにあることだけ。










・花→ハツコイソウ
・花言葉→淡い初恋。秘密。
・誕生花→11/3
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