摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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ベゴニア

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好きだから嫌い。
そんなラブソングの歌詞は信じることができない。


「好きだから嫌いになれないんじゃん……」


高山はため息をつく。
そのため息には何の意味があるのか。
焦燥。
諦め。
安堵。
それとも、何も意味が無いのか。

天野から話を聞いて、高山には気になって仕方ない存在がいる。
『南雲さん』だ。
2年3組の黒髪ボブの女性だという情報も得ている。


「あ……」


2年3組の教室の前にいると、廊下の奥の方から『南雲さん』であろう女性が歩いてくる。


「すみま……」
「あれれ? 鈴香じゃん。どうしたの?」
「げ……」


高山はその声の主をよく知っている。
その人のことを考えない日は無いくらい、心を寄せている相手だから。


「ゆ、優斗君……」
「誰か探してる? それとも俺?」
「違うし! もう戻るから!」
「えぇ~……。武田ぁ、俺なんかしちゃったかな?」
「知らねーよ」


高山は佐藤を前にすると、気持ちが葛藤して素直になれなくなってしまった。
普通に話したい気持ちと花吐き病を治さなければいけない気持ち。

教室に戻ると、天野がこちらを見ていた。


「会えた?」
「うん。でも別の人に話しかけられちゃって話せなかった」
「そっか。急がなくてもいいんじゃないって言いたいところだけど、命に関わる結末なら急いだ方がいいよ」
「うん……」


放課後にも2年3組の教室へ向かうが、『南雲さん』の姿を探すことができなかった。
どうやら佐藤は帰ったようだった。姿が無い。
高山はため息をついて、仕方なく自分の教室に戻ろうと振り返ると、高身長の男性が目の前に立っていた。


「あ、すみません」


その男性の横を通り過ぎようとすると、声を掛けられる。


「なぁ」
「はい?!」
「高山鈴香だな」
「そ、そうですけど……。何で私の名前……」
「この前佐藤から聞いた」
「あぁ……」


確かにこの前佐藤に声を掛けられた時に隣にいたような気がする、と高山は定かではない自分の記憶を思い出す。


「俺、武田ね。それでさ、午前中も来てたよな。誰かに用あるのか?」
「あっ……、いや……」
「佐藤に用があるようには見えないけど」
「あの……」
「……南雲か」
「え?! 何でそれを……?!」
「ふっ。匂いだよ、匂い」
 

そう言われた瞬間、高山は武田の花の匂いを感じた。
高山が匂いに疎いのか、花吐き病という奇病を自覚していないのか。
後者はまずありえない。
あれだけ苦しんで花を吐いているのだから。


「武田さんも……?」
「君、匂いを認識するの遅いね? その様子だと気づいてなかったろ」
「はい……」
「きっと南雲も気づいてたよ。知らないけど」
「南雲さんってもう帰っちゃいましたか?!」
「鞄はあるからまだだろうけど、お取り込み中なんじゃない?」
「オトリコミチュウ……?」
「ここ最近ずっと後輩の女子が通ってるからね」
「なるほど……」
「もう少しで帰ってくるだろうから待ってなよ」
「ありがとうございます……」
「佐藤が残ってたらよかったんだけど、1人で大丈夫そう?」


武田は意地悪そうに高山を覗き込む。


「は、はい……!」
「ふはっ!」


緊張している上、武田が先輩であるということもあり、高山はイエス以外の答えをできないのを知っていて、高山の返事を聞いて、武田は笑い出した。


「ごめんね。俺で良ければ、一緒に待つよ」
「ありがとうございます!」


生徒が数人しか残っていない2年3組の教室に武田と高山は前後の席に座る。
周りから見ればカップルに見えるだろうが、2人にはそんな気がさらさらない。










・花→ベゴニア
・花言葉→片思い。愛の告白。
・誕生花→11/12
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