摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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混乱

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「いつから発症したの?」
「高校生になってすぐです」
「11ヶ月ってとこか」
「はい……。武田さんは?」
「どうだったかなー。俺を信じられなくなった日からかな」
「答えになってないですよー!」
「ははっ。だよな。うーん、高校1年の夏終わりくらいかな」


武田と高山は南雲が帰ってくるまで自身の話をすることにした。


「で、君はさ」
「はい?」
「どっちの人なの?」
「どっち?」


あやふやな訊き方をしてくる武田に高山は戸惑う。
何と何を比べているのかが分からない。


「治したい人? 治したくない人?」


高山は何を当たり前のことを訊いてくるんだ、と思った。
それと同時に妖しく笑う武田に寒気がした。

葉を落とした木々は不気味に揺れ始めた。
耳につく乾いた葉の音がしない。


「そ、そりゃ治したいに決まってるじゃないですか……」


答えてもいいか分からない質問に喉から声を捻り出す。
怯えている表情の高山を見て、武田は教室の外に目を向ける。


「来るよ」
「へ……? 何がですか……?」
「君、ほんとに鼻が効かないね」


3秒も経たないうちに南雲と早川が教室に戻ってきた。


「あら。彼女さん?」
「ちげーよ。南雲に用事があるんだって」
「小春先輩に?」
「そうだよ。じゃあ、俺は帰るよ」


南雲が帰ってきた途端、役割が終わったと言って武田は帰っていった。
残された高山はオドオドしながらも南雲に声をかける。


「な、南雲さんですか?」
「うん。そうよ」
「私相談したいことがあって……!」
「場所変えようか」


今日は科学部が休みらしい。
南雲たちは理科室に移動し、向かい合って座る。
南雲の隣には早川が座っている。


「梨香とお友達?」
「顔は知ってるくらいで話したことは……」
「そうだね。高山さんとは話したことないね」


早川は南雲の腕にしがみつきながら高山を見つめる。


「そうなのね。仲良くしなよ、梨香」
「はーい」
「で、きっと花吐き病について話にきたのよね?」
「はい……! 私、高山鈴香って言います……」
「高山さんね。私は南雲小春」
「夜空ちゃんから話を聞かせてもらって、南雲さんに助けてほしくて……!」
「ちょっと待って」
「はい……」
「私は助けることはできないよ。人一倍奇病患ってるだけ」
「そ、そんな……!」
「手紙を見せなよ。アドバイスぐらいは貰えるかもよ」


横から早川が口を挟む。
それで思い出したかのように高山は南雲に自身の手紙を渡す。
南雲はその手紙に目を通す。


「好きな人を傷つけるね。好きな人いるんだ」
「はい……。ずっと片思いしてて……」
「それは確かに傷つけにくいわけね。完治したいっていう解釈でいいのかしら?」
「はい」
「生きたいんだ、高山さん」
「え、うん……」
「へぇー」


自分から訊いた早川本人は興味がないように返事をする。
高山は武田と話している時から疑問に思っていることを訊くことにした。


「あの、南雲さん」
「何?」
「南雲さんたちは完治したくないんですか?」


空気が凍る。
高山は生まれて初めてそれを体験した。
こんなにも冷たく感じるなんて思いもしなかった。


「ふふ」


南雲は妖艶な笑みを浮かべて高山を見つめる。
見蕩れそうになるが、それ以上に恐怖を感じる。


「私は自分のことしか分からないわ。まぁ、生きたくなかったり、死んだ方がマシな結末だったりするんじゃないかしら?」
「高山さんは完治した方が生きやすそうだね」
「こら、梨香」
「はーい。すみませんでしたー」


早川に嫌な態度を取られた高山は言い返す。


「早川さんはどうなの?」
「ごめんなさいね、高山さん。梨香が嫌なこと言ってしまったよね」
「いいえ。私のただの興味です」
「いいよ。答えてあげる」


早川は高山に耳打ちをした。
早川の吐息が耳にかかり、くすぐったい。


「私の結末はね……」


鼓動が早くなるのが分かる。
早川はゆっくりと言葉を並べていく。


「治療してもしなくても結末は一緒。違いは死期だーけ。早いか、遅いか」
「へ……?」
「ああ、別に同情はいらないよ。だって私、」


早川はさらにゆっくりと話しかける。


「この世界がだーい嫌いだもん」
「ひっ……!」


ガタンッ!


高山は勢い良く立ち上がったことで、座っていた丸椅子が倒れた。
後退りをして、南雲と早川の両方を見る。


「おかしいよ! 何でそんな簡単にその事実を受け入れられるの?!」
「そうかもしれない。でもね、怖がらせてるわけじゃないの」


南雲は高山を瞳に映して離さない。


「そういう結末もあるってこと、知っておいてほしいの。身近な人にもいるはずよ」
「ぁ……」


1人の少女のことを思い出す。


「匂い的にはまだ1年は経ってないけどもう少しで経ちそうね」
「何で分かるんですか……」
「だから言ったでしょう。人一倍奇病を患っていたの。だから何となくは分かるよ」
「私……っ」
「落ち着いて」


そう言われて、高山は倒れた丸椅子を起き上がらせ、座り直す。
どうやら、南雲の話は続くようだった。
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