摘んで、握って、枯れて。

朱雨

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デルフィニウム

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南雲は高山を制すると、高山の頬に手を添え、親指で片目を擦る。
体をビクつかせるが、高山は黙ってその行為を受け入れた。


「怖い?」


高山は怖かった。
死ぬことも、南雲にこうして自分の全てを見透かされているように見つめられるのも、彼女の瞳に映る自分も、全てが怖かった。
助けを求めても空を切った手だけが高山にあると思い知らされていた。


「そんなにビビらないでよ。小春先輩は高山さんを取って食うわけじゃないんだから」


早川は不機嫌そうに呟く。


「梨香、トゲトゲしいよ」
「だって~!」
「ごめんね。話終わったら帰ろう」
「はい!」


早川は南雲の前では可愛い後輩である。
別に高山を嫌っているわけではない。
命に限りある懸想している先輩との時間を他人に奪われるなんて合ってはならないことなのだ。


「高山さんにはまだ少し猶予があるみたいね」
「ど、どれくらいですか?!」


高山は食い気味に質問をする。


「ハッキリとは分からない。でも、そうね……。半年は無いと思った方がいい」


予想以上に残酷な南雲の返答に高山は絶望する。


「やだ……っ! 私、死にたくない!」
「そうね。好きな人がいるものね」
「どうすればいいですか? 私、嫌なんです、死ぬの!」


普通高山の反応が1番正しいのだろう。
死にたくない。生きたい。
人間として当たり前のことだ。
そのため、南雲や早川にとって眩しかった。
しかし、その反面、希望があった。


「私も高山さんに生きていてほしいわ。もちろん梨香にも」
「ふーん」
「ふふ。いじけないでちょうだい。後輩たちには頼みたいことがあるんだから」
「朝倉先輩のことですよね」


再び高山の中で謎の『朝倉先輩』がインプットされる。


「ああ、私の同級生よ、朝倉君」
「……あ、知ってます。名前だけですけど……」


消えかけていたデータが再起動される。
佐藤と絡むことが少なくなっていた高山は思い出した。


「佐藤優斗のお友達ですよね?」
「そう。彼を支えてあげて。良い人だから」
「は、はい……?」
「話は戻るのだけれど、高山さんはまずその好きな人がと距離を取るべきだと思う」
「ですよね。でも相手と会って話す機会が多いってなったらどうしたらいいですか……?」
「そうね……。私は恋愛という恋愛をしてきたことが無いのだけど」


高山は驚いた。
こんなにも美人な先輩が恋愛をしてきていないなんて。


「私がいるからしてますよ、小春先輩」
「ふふっ。そうね、梨香。うーん。私自身、薬の調合は苦手なのだけれど、これ飲んでみる?」


南雲が出したのはオリーブグリーンの色をした粉。
いかにも怪しく、危ない薬のようだった。


「そんなんじゃないわよ」


高山が不安そうな顔をしていたからか、南雲は言う。


「これは天野さんにもあげた薬。彼女もここまで生きていられるとは思っていなかったでしょうね」
「じゃあ……!」
「あくまでもこの薬は最終手段。まだ飲む時じゃない」
「まだ匂いは新鮮ですね」


高山は息をいっぱい吸った。


「そうね」
「匂い……。私、武田さんにも言われたんですけど、鼻が利かないって……」
「鼻が利かない? 私たちの匂いがしないってこと?」
「いや、まぁ、はい。認識したら感じるんですけどね」
「そう……」


南雲は考え込む仕草を取る。
昔にも同じ事例があったか、解決の鍵になるのか、何が原因か、など莫大な記憶を思い出す。


「手紙はあるわけだし、異例である可能性も無きにしも非ずって感じね」
「告白して砕けるのもありなんじゃない?」
「振られる前提で話進めないでくれる?!」
「ずっと片思いしてるのに何もアクションが無いのはもう脈ナシ。早く振られたら?」
「ちょっと……! あ、分かった。早川さんって恋愛したことない?」
「はぁー? それくらいあるわよ。今だって恋愛してるし」
「2人とも辞めてくれる?」


南雲は論争を始めた2人を宥める。


「もう少し慎重になってちょうだい」


理科室にはまた沈黙が訪れた。
その中で何かを思いついた南雲は高山を見る。


「そうだわ、高山さん」
「な、なんでしょう……」
「その想いを寄せている方に恋人がいるって考えるのはどう?」
「小春先輩も結構なすごい案出しましたね」
「辛いだろうけど、完治したいならどんな手でも使うべきよ」


今日1番の言葉の重みを感じた。
どんな手でも使うべき。
奇病患者はどこまで手を汚すことができるのだろうか。

時計の針は4時58分を指していた。
あと少しで夕方の音楽が流れる。


「どんな手でも……」
「ええ。先例にもいたわよ、山ほど」


高山は全身に鳥肌がたった。


「今日はここまで。また何かあったら来てちょうだい。天野さんにもよろしくね」
「あ、はい……」


先に理科室を出た南雲に続いて、早川が出ていった。


「どんな手でも……、ね……」


高山以外誰もいない理科室で、彼女は小さく呟いた。
烏の鳴き声が大きく感じられた。









・花→デルフィニウム
・花言葉→清明。高貴。
・誕生花→11/14
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