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僕は傷つかないから
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撮影当日。迎えに来たのは主任の可児さんと知らない人。相変わらずの笑顔で紹介してくれる。
「後輩の田町です。これから僕たち二人が玄樹くんのサポートをします」
いや本当にモデルを外から呼ぶ必要ある?
俺より背が高いしキリっとしてるのに甘い顔。
「田町です。よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します。
コウ……春野さんは?」
可児さんが両手を合わせながら浅く頭を下げる。
「ごめんなさい、約束だったのに。
仕事が立て込んでて、終わり次第合流します」
メイクが終わってもコウちゃんは来ない。ついに撮影が始まってしまった。
「初めまして。カメラマンの横松です」
20歳くらいに見える。この人も僕みたいにスカウトされた一般の人なのかな?って思ったのを可児さんが察した。
「横松君はね、ずっとうちの会社を担当してくれてるんですよ」
それから横松さんを見る。
「去年から独立してるんですよね?」
横松さんは慌てて手を振った。
「独立はしてません。こちらの責任者になれたんです。去年っていっても暮れからですし」
慌てた空気を落ち着けて僕を見る。
「だから僕たち同じ一年生です。一緒に頑張りましょう」
つまり何歳なんだろうと思ったけど、年齢にこだわる人たちじゃないみたいだから余計なことは言わないようにした。
可児さんは「カニちゃん」、田町さんは「タマ」って呼ばれてるし、可児さんも僕に紹介する時以外は横松さんを「ヨコ」って呼んでた。全体的に空気がアットホーム。撮影のセットが家の中風なのもあって緊張はしていない。
だから撮影も抵抗なく始められたんだけど、コウちゃんはいつ来るんだろうっていうのが気になる。
数枚撮ったところでドアが開いた。現れたのは。
「コウちゃん!」
パシャッ。
「いいね!今の顔すごくいい!」
横松さんがかわいいいと興奮気味に褒めてくれる。可児さんと田町さんも満足そう。
あ、作戦だったな。
それはいいよ。そこまではまあ、ありそうなこと。
でもこれも作戦なの?コウちゃんは可児さんと楽しそうに話してて僕のことなんて全然気にしてくれない。田町さんはコウちゃんから可児さんを取り戻そうと必死。
「玄樹くん、目線下さい」
カメラ目線で一枚撮ってから横松さんがちょっと考え込む。こっちへ来て小道具を微妙に動かしたりしながら小声で言う。
「向こう盛り上がってて、なんか寂しいですね」
本当は小道具の位置に問題は無いし、寂しくもないんだろうな。気を遣ってくれたんだ。僕がカメラを見ずに三人ばかり気にしていたから。
「大丈夫です。すみませんでした、集中します」
「僕が寂しいんです。かまって下さい」
「横松さんは」
「ヨコでいいですよ」
「え、でも」
「撮影中はレンズ挟まなきゃいけないでしょ?
だから普段は壁を作りたくないんですよ。僕は寂しがり屋なんで」
素直に言える横松さんが羨ましくて可愛いと思った。
「ヨコさんって何歳なんですか?」
「21。でも寂しいものは寂しいんだもん」
「あっ、そういう意味じゃないですよ」
ヨコさんは拗ねた顔をすぐに戻した。
「分かってる。最初に言おうとしてたことでしょ?」
なんか癒される。
「あ、その顔のまま隣に座ってる人を見る感じで」
今の会話は表情を作らせるためにしたんじゃない。急にカメラを構えられてもそう思えた。
左足だけ正面に向けたまま右側を向く。
「キスしようとする直前の感じで」
「え!?」
「普通にキスする感じでいいよ」
「え、普通って……?」
いつの間にかコウちゃんたちもこちらに視線を戻している。これは「え、したことないの?」っていう顔だ。
この顔がチャラく見えるのは分かってるけど、なんでコウちゃんまで驚くの。彼女なんて作る暇ないくらいコウちゃん中心で生きてきたのに。
可児さんがいつもの微笑みに戻る。
「じゃあさ、してもらう側になるのはどう?
こうやるだけ。『チューして』って感じで」
少しだけ尖らせた唇に人差し指を当てる可児さん。その姿に田町さんの目の色が変わる。
真似したらヨコさんもテンションが高くなった。
「いいね~!かわいいよ!」
正面に向き直ってコウちゃんの反応を見たら、可児さんに何か言いたそうな熱い視線を向けていた。
コウちゃん?可児さんとは中学までは一緒だったけどあんまり話さなかったって言ったよね?
院卒の可児さんが入社してくるまで会ってなかったって言ったよね?
でもまさか。とっかえひっかえの後は彼女作らなくなったのってまさか。
ううん、落ち着いて。逆に喜ぶべきじゃない?そっちの人なら僕にも望みはあるんだから。しかもやっとコウちゃんの好みが分かったんだ。
可児さんもそっちだったとしても多分田町さんを選ぶ。それならじっくり研究させてもらおう。
「後輩の田町です。これから僕たち二人が玄樹くんのサポートをします」
いや本当にモデルを外から呼ぶ必要ある?
俺より背が高いしキリっとしてるのに甘い顔。
「田町です。よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します。
コウ……春野さんは?」
可児さんが両手を合わせながら浅く頭を下げる。
「ごめんなさい、約束だったのに。
仕事が立て込んでて、終わり次第合流します」
メイクが終わってもコウちゃんは来ない。ついに撮影が始まってしまった。
「初めまして。カメラマンの横松です」
20歳くらいに見える。この人も僕みたいにスカウトされた一般の人なのかな?って思ったのを可児さんが察した。
「横松君はね、ずっとうちの会社を担当してくれてるんですよ」
それから横松さんを見る。
「去年から独立してるんですよね?」
横松さんは慌てて手を振った。
「独立はしてません。こちらの責任者になれたんです。去年っていっても暮れからですし」
慌てた空気を落ち着けて僕を見る。
「だから僕たち同じ一年生です。一緒に頑張りましょう」
つまり何歳なんだろうと思ったけど、年齢にこだわる人たちじゃないみたいだから余計なことは言わないようにした。
可児さんは「カニちゃん」、田町さんは「タマ」って呼ばれてるし、可児さんも僕に紹介する時以外は横松さんを「ヨコ」って呼んでた。全体的に空気がアットホーム。撮影のセットが家の中風なのもあって緊張はしていない。
だから撮影も抵抗なく始められたんだけど、コウちゃんはいつ来るんだろうっていうのが気になる。
数枚撮ったところでドアが開いた。現れたのは。
「コウちゃん!」
パシャッ。
「いいね!今の顔すごくいい!」
横松さんがかわいいいと興奮気味に褒めてくれる。可児さんと田町さんも満足そう。
あ、作戦だったな。
それはいいよ。そこまではまあ、ありそうなこと。
でもこれも作戦なの?コウちゃんは可児さんと楽しそうに話してて僕のことなんて全然気にしてくれない。田町さんはコウちゃんから可児さんを取り戻そうと必死。
「玄樹くん、目線下さい」
カメラ目線で一枚撮ってから横松さんがちょっと考え込む。こっちへ来て小道具を微妙に動かしたりしながら小声で言う。
「向こう盛り上がってて、なんか寂しいですね」
本当は小道具の位置に問題は無いし、寂しくもないんだろうな。気を遣ってくれたんだ。僕がカメラを見ずに三人ばかり気にしていたから。
「大丈夫です。すみませんでした、集中します」
「僕が寂しいんです。かまって下さい」
「横松さんは」
「ヨコでいいですよ」
「え、でも」
「撮影中はレンズ挟まなきゃいけないでしょ?
だから普段は壁を作りたくないんですよ。僕は寂しがり屋なんで」
素直に言える横松さんが羨ましくて可愛いと思った。
「ヨコさんって何歳なんですか?」
「21。でも寂しいものは寂しいんだもん」
「あっ、そういう意味じゃないですよ」
ヨコさんは拗ねた顔をすぐに戻した。
「分かってる。最初に言おうとしてたことでしょ?」
なんか癒される。
「あ、その顔のまま隣に座ってる人を見る感じで」
今の会話は表情を作らせるためにしたんじゃない。急にカメラを構えられてもそう思えた。
左足だけ正面に向けたまま右側を向く。
「キスしようとする直前の感じで」
「え!?」
「普通にキスする感じでいいよ」
「え、普通って……?」
いつの間にかコウちゃんたちもこちらに視線を戻している。これは「え、したことないの?」っていう顔だ。
この顔がチャラく見えるのは分かってるけど、なんでコウちゃんまで驚くの。彼女なんて作る暇ないくらいコウちゃん中心で生きてきたのに。
可児さんがいつもの微笑みに戻る。
「じゃあさ、してもらう側になるのはどう?
こうやるだけ。『チューして』って感じで」
少しだけ尖らせた唇に人差し指を当てる可児さん。その姿に田町さんの目の色が変わる。
真似したらヨコさんもテンションが高くなった。
「いいね~!かわいいよ!」
正面に向き直ってコウちゃんの反応を見たら、可児さんに何か言いたそうな熱い視線を向けていた。
コウちゃん?可児さんとは中学までは一緒だったけどあんまり話さなかったって言ったよね?
院卒の可児さんが入社してくるまで会ってなかったって言ったよね?
でもまさか。とっかえひっかえの後は彼女作らなくなったのってまさか。
ううん、落ち着いて。逆に喜ぶべきじゃない?そっちの人なら僕にも望みはあるんだから。しかもやっとコウちゃんの好みが分かったんだ。
可児さんもそっちだったとしても多分田町さんを選ぶ。それならじっくり研究させてもらおう。
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