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僕は傷つかないから
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コウちゃんは僕を送って会社に戻らなきゃいけない。
なんかイライラしてる。可児さんと別行動になるから?
「忙しいんでしょ?電車で帰るよ」
「いいから早く」
だから一人で帰れるってばって言えなくて、おとなしく助手席に座った。
僕がシートベルトを締めるとすぐに走り出した。コウちゃんは過去一イライラしてる。
「ヨコと何話してたの」
『話してたの?』って言い方じゃない。語尾が強い。
「ポーズの仕方とか」
「そんな空気じゃなかっただろ」
『ポーズの仕方とか色々』って言おうとしたのに遮られた。
なんだろうこの気持ち。ムカムカする。モヤモヤする。泣きそう。
「それならコウちゃんだってでしょ!
僕についててくれるって言ったのに!
ヨコさんは僕が放っておかれてるのを心配してくれてたの!」
コウちゃんからトゲトゲした空気が一瞬で消える。
「あ……ごめん」
「別に。僕は平気だけど」
「カニちゃん家庭教師のバイトしてたんだって。玄樹に教えてやれないか頼んでたんだよ」
俯いてた顔を我ながら驚く勢いでコウちゃんに向ける。コウちゃんは前を向いてても僕の顔が分かったみたい。
「あとで連絡先教えるな」
「ありがとう」
塾には行かせない、大学は国立じゃなきゃ行かせないと両親に言われている。お金が無いのじゃなく、僕が成人するか働くかしないと離婚しちゃダメって祖父さんに言われてるから。大学に行ったら成人しても学生だから離婚できないってだけの理由。
でもコウちゃんが協力してくれるとは思わなかった。
「コウちゃんは『大学なんて』って言ってたのにどうして?」
「俺の場合はやりたいことがあったのに『男は大卒』って親に決めつけられたからな。
玄樹は大学行けなかったら祖父さんのとこで働かなきゃだろ?」
そう。祖父さんは俺を思って離婚するなって言ってるんじゃない。父さんが祖父さんの決めた相手と結婚しなかったことへの仕返しだ。そこに就職したらどんな扱いを受けるか。
「大学に行けば就職の幅が広がるし成人してからの時間もあって色々準備もできる。やっと自由だな」
楽しみそうに言うコウちゃん。僕はその言葉にむしろ体温が下がった。
就職したら、成人したら、もうコウちゃんは僕を気に掛けてくれないのかな。
ううん。可児さんは院卒で同じ歳。それでもめっちゃイジられてた。その秘訣を見つければ、僕も大丈夫だよね?
分からない所を教えてもらったり、本を一緒に買いに行ったりして気付いた可児さんについて。
「カニちゃん」って呼ばれるのが好き。
うっかりが多い。
体幹がいい。
家や待ち合わせにどっちから来るかが、平日と休日で違う。
思考は健全なのに妙に色っぽい。
休日に会うのはだいたい午前中。お泊りしてるなら朝はイチャイチャしたいんじゃないのかな?
それを言ったらメチャメチャ動揺した。
「そんなんじゃ!…………いや、うん。
朝が苦手な人で、帰った頃に起きるから丁度いいんだ」
相手は女性?もしかして田町さん?
「コウちゃんもそうなので僕も助かります。今日もお昼食べる約束してるんですけど、絶対コウちゃんにとっては朝食です」
「そうなんだ、意外」
そんなに興味無さそう。
「中学まで一緒だったって」
「同じクラスになったことはないし、今も部署が違うから」
とりあえずコウちゃんは対象外みたい。
楽しい気分で勉強していたらカニちゃんのスマホが震えた。出ようとしない。
「どうぞ」
「授業中だから」
「メールじゃなくて電話でしょう?緊急かも。
それに生徒はダメだけど先生だし、厚意でみてもらってるんだし」
「じゃあ、ごめん」
廊下で話して戻って来たカニちゃんは浮かない顔だった。
「何かあったんですか?」
「晃輝だった。玄樹は出ないと思って俺に掛けたんだって。
会社に行くから今日のお昼はごめんって伝言」
「そうですか」
「いい案が浮かんだらしくて、すぐに試したいんだってさ」
心配そうな顔で普通の声を作ってくれてる。
カニちゃんは両親に会った時に、事情を説明する前にうちの違和感に気付いてたってコウちゃんが言ってた。
僕にとってコウちゃんがどれだけ大きい存在か、もしかしたら僕の気持ちにも気付いてるかもしれない。
「僕は平気です」
コウちゃん以外なら騙せてきた表情をカニちゃんがじっと見つめる。それからいつもの笑顔になった。
「今日ってタコ焼き器でスイーツの予定だったんでしょ?
俺とタマもやろうとしてたんだよ。生クリームの食べ比べをしたくて。ここでやってもいい?」
両手を合わせて首をほんの少し傾けるカニちゃん。
嬉しい、素敵な人だなって思う頭の隅で「コウちゃんはこういう所に惹かれたのかな」なんて分析してる自分が嫌いだ。
なんかイライラしてる。可児さんと別行動になるから?
「忙しいんでしょ?電車で帰るよ」
「いいから早く」
だから一人で帰れるってばって言えなくて、おとなしく助手席に座った。
僕がシートベルトを締めるとすぐに走り出した。コウちゃんは過去一イライラしてる。
「ヨコと何話してたの」
『話してたの?』って言い方じゃない。語尾が強い。
「ポーズの仕方とか」
「そんな空気じゃなかっただろ」
『ポーズの仕方とか色々』って言おうとしたのに遮られた。
なんだろうこの気持ち。ムカムカする。モヤモヤする。泣きそう。
「それならコウちゃんだってでしょ!
僕についててくれるって言ったのに!
ヨコさんは僕が放っておかれてるのを心配してくれてたの!」
コウちゃんからトゲトゲした空気が一瞬で消える。
「あ……ごめん」
「別に。僕は平気だけど」
「カニちゃん家庭教師のバイトしてたんだって。玄樹に教えてやれないか頼んでたんだよ」
俯いてた顔を我ながら驚く勢いでコウちゃんに向ける。コウちゃんは前を向いてても僕の顔が分かったみたい。
「あとで連絡先教えるな」
「ありがとう」
塾には行かせない、大学は国立じゃなきゃ行かせないと両親に言われている。お金が無いのじゃなく、僕が成人するか働くかしないと離婚しちゃダメって祖父さんに言われてるから。大学に行ったら成人しても学生だから離婚できないってだけの理由。
でもコウちゃんが協力してくれるとは思わなかった。
「コウちゃんは『大学なんて』って言ってたのにどうして?」
「俺の場合はやりたいことがあったのに『男は大卒』って親に決めつけられたからな。
玄樹は大学行けなかったら祖父さんのとこで働かなきゃだろ?」
そう。祖父さんは俺を思って離婚するなって言ってるんじゃない。父さんが祖父さんの決めた相手と結婚しなかったことへの仕返しだ。そこに就職したらどんな扱いを受けるか。
「大学に行けば就職の幅が広がるし成人してからの時間もあって色々準備もできる。やっと自由だな」
楽しみそうに言うコウちゃん。僕はその言葉にむしろ体温が下がった。
就職したら、成人したら、もうコウちゃんは僕を気に掛けてくれないのかな。
ううん。可児さんは院卒で同じ歳。それでもめっちゃイジられてた。その秘訣を見つければ、僕も大丈夫だよね?
分からない所を教えてもらったり、本を一緒に買いに行ったりして気付いた可児さんについて。
「カニちゃん」って呼ばれるのが好き。
うっかりが多い。
体幹がいい。
家や待ち合わせにどっちから来るかが、平日と休日で違う。
思考は健全なのに妙に色っぽい。
休日に会うのはだいたい午前中。お泊りしてるなら朝はイチャイチャしたいんじゃないのかな?
それを言ったらメチャメチャ動揺した。
「そんなんじゃ!…………いや、うん。
朝が苦手な人で、帰った頃に起きるから丁度いいんだ」
相手は女性?もしかして田町さん?
「コウちゃんもそうなので僕も助かります。今日もお昼食べる約束してるんですけど、絶対コウちゃんにとっては朝食です」
「そうなんだ、意外」
そんなに興味無さそう。
「中学まで一緒だったって」
「同じクラスになったことはないし、今も部署が違うから」
とりあえずコウちゃんは対象外みたい。
楽しい気分で勉強していたらカニちゃんのスマホが震えた。出ようとしない。
「どうぞ」
「授業中だから」
「メールじゃなくて電話でしょう?緊急かも。
それに生徒はダメだけど先生だし、厚意でみてもらってるんだし」
「じゃあ、ごめん」
廊下で話して戻って来たカニちゃんは浮かない顔だった。
「何かあったんですか?」
「晃輝だった。玄樹は出ないと思って俺に掛けたんだって。
会社に行くから今日のお昼はごめんって伝言」
「そうですか」
「いい案が浮かんだらしくて、すぐに試したいんだってさ」
心配そうな顔で普通の声を作ってくれてる。
カニちゃんは両親に会った時に、事情を説明する前にうちの違和感に気付いてたってコウちゃんが言ってた。
僕にとってコウちゃんがどれだけ大きい存在か、もしかしたら僕の気持ちにも気付いてるかもしれない。
「僕は平気です」
コウちゃん以外なら騙せてきた表情をカニちゃんがじっと見つめる。それからいつもの笑顔になった。
「今日ってタコ焼き器でスイーツの予定だったんでしょ?
俺とタマもやろうとしてたんだよ。生クリームの食べ比べをしたくて。ここでやってもいい?」
両手を合わせて首をほんの少し傾けるカニちゃん。
嬉しい、素敵な人だなって思う頭の隅で「コウちゃんはこういう所に惹かれたのかな」なんて分析してる自分が嫌いだ。
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