僕は傷つかないから

ritkun

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うちの子が知らないこと

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 俺の恋人は10こ年下の17歳。両親から育児放棄されて三階建ての家に一人で暮らしていた。
 両親が正式に離婚することになって、家を処分するから母親の家に引っ越すようにと言われて嫌がる玄樹げんきを救ったのは、俺ではなく副社長だった。

 実際に動いたのは秘書の持田さん。自由に動いているように見える副社長の真意を汲み取り完璧にサポートする。
 フットワークの軽さだけじゃない。玄樹げんきと同じくらいの身長で玄樹げんきよりも一回りがっしりした体。

 俺は玄樹げんきよりも10センチ程低くて、体力はあるけど見た目は弱そう。
 持田さんみたいだったら、甘えん坊な玄樹げんきをもっと甘やかしてあげられたのに。

 それか広報にいる同級生の可児かにくらい頭が良かったら、頭の良い玄樹げんきに勉強を教えてあげられたのに。

 せめて可児かにが教育係をした田町のような見た目だったら、玄樹げんきの横に堂々と並べたのに。
 田町は玄樹げんきや持田さんよりも背が高いのに爽やかな顔。可児かにが世界の中心だと分かりやす過ぎる言動を除けばメチャクチャもてただろう。

 そんな田町から恐れていたことを教えられた。
 玄樹げんきが社宅で暮らすための手続きが落ち着いた翌週、電車通勤の田町が駐車場で俺を待っていた。
「バタバタしてたんで言うタイミングが無かったんですけど、持田さんに気を付けてあげて下さいね」
「どういう意味だよ?」

 急に副社長秘書の名前を出されて理解できないでいると、俺の耳にタマが口を近づけた。
「普段あの副社長の世話をしているからか、頭が良くて真面目で大人しくて、それでもやっぱりちょっと手の掛かる人が好きです。
 カニちゃんも狙われてました。奥手だからその隙に俺が行かせてもらいましたけど」

 言われてみれば可児かにが入ってきた時から持田さんは可児かにを気に掛けていた。
 院卒なせいで年下の先輩がいたりするのを心配しているのかとも思ったけど、田町と二人の世界になっている可児かにへの視線をしっかりと思い出してみる。

 玄樹げんきにも時々そんな視線を向けていた。
 どうしよう。もしも持田さんに想われていると知ったら玄樹げんきはどうするんだろう。

 可児かには受け身な性格だから内気な持田さんとは進展しない。あれでいて意外と田町をちゃんと好きだし。
 でも玄樹げんきは?
 甘えん坊な玄樹げんきがグイグイ行ったら持田さんはいくらでも受け止めるだろう。
 経済的にも精神的にも俺よりうまく支えられるだろう。

 育児放棄されていた時に気に掛けたから雛鳥のように俺に懐いてるだけで、本当は持田さんみたいな人の方がいいんじゃないか?

 知られたくない。
 持田さんの気持ちも、俺がこんな風に思ってることも。
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