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敬語を使わないというルールは、なんとなくぎこちなく思えた。
社会人になってから、敬語以外で話すことなんてどれくらいあっただろうか?
実際にやってみたらもどかしくて仕方がなかった。
何だって、いつかは慣れる――と思い込むことにして、屋敷の中では砕けた話し方をして、アキレウス様を「アーク」と呼ぶことにした。
彼は、私の愛称はまだ決めかねていると言った。それは、私も急がない。そもそも私もあだ名で呼ばれたことがないから。アドバイスすらできそうもない。
その日が来ることを、どこかそわそわした気持ちで待つことにした。
数日後に、ハナコさんから呼び出される。
今回は何か食べたいものがあるわけではないと、前もって告げられた。
いつものように、アキレウス様が私を光に包み、ハナコさんのいる屋敷へと移動する。
そう言えば、最初は部屋に直接入っていたのだが、ハナコさんが元気になってからは屋敷内の別の部屋へと移動していた。緊急ではないからかもしれない。
私をハナコさんの部屋の前まで送り届けて、アキレウス様は別室で待つと言った。
「用件が終わったら、また迎えに来よう」
「かしこまりました。では、行ってきます」
アキレウス様が背を向けてどこかへと歩いていく。
私はその背を見てから、ハナコさんの部屋の扉をノックした。
中からは、ハナコさんの明るい声で入室の許可が下りた。
「シズク、元気にしていたかしら?」
「はい、おかげ様で体調は良いです」
「そう、それは良かったわ。アキレウス様と何か進展はあったの?」
唐突にハナコさんに問われて、私は「あー……」と思い出しながら、つぶやいた。
「その声だと、特に何もないのかしら」
「何もというわけではないのですが。期待されているようなことでもないです」
と、敬語をやめてくだけた話し方をするようになったことと、愛称で呼ぶことを説明した。
ハナコさんがどんな期待をしていたのか、最初は興味ありげにしていた表情も、だんだんと頭の上に疑問符がみえるような顔をしていた。
「それって、小学生か中学生くらいの子の恋愛じゃないの?もっと進展するとかないの?一緒の屋敷にいるのよね」
確かに、そうかもしれない。
私だって、恋愛小説だったら出会った時に恋が始まって、一緒の家に住むのなら気持ちが落ち着かないって思っていた。どうやら私とアキレウス様は、その状況にまだ立っていないのだ。
「私もアキレウス様も、きっとこれから変化するのだと思います」
「そうね。私はそこに期待しているわ」
私たちはハナコさんの部屋のソファに腰かけて、お互い顔が見えるように向かい合って座った。座った後、お茶やお菓子がテーブルに並ぶ。
ハナコさんがお茶を一口飲み、私も続けて飲んだ。後味がすっきりしたお茶で、飲んだ後は鼻腔に爽やかな香りが通る。
「焼き菓子もあるの。こちらはココア。こちらは今飲んでいるお茶が使われているわ」
「ありがとうございます。いただきます」
ハナコさんに勧められていただく。どちらもサクッとした食感で美味しかった。
「今度は焼き菓子を持ってきますね。カップケーキとか、ドライフルーツのロールケーキがお勧めです」
「いいわね。……そうだ、良かったらだけど菓子作り用の器具を揃えてもいいかしら?私もお菓子を作ってみたいの」
「もちろん、構いません」
「では、王子に相談してみるわね」
と、ハナコさんが言い、その次に呼ばれた時には、隣の部屋に簡易的な調理器具が揃えられていた。
魔導具を使用したコンロのようなもので、フライパンや鍋を使用する料理も作れるようになった。
どれくらい費用がかかるんだろう?
私も部屋に欲しいかも。
ハナコさんと料理をしながら考えていた。私の給料で払えるだろうか。そもそも設置するとしたらアキレウスに相談が必要ね。
思い立ったら吉日とばかりに。ハナコさんの屋敷から帰った後で、アキレウス様に話をした。
「良いだろう。少し時間はかかるけど、隣の部屋で料理ができるようにしようか」
と言った。
少し前に、屋敷の料理人がいるから、勝手に料理はできないと話をしていたから、あっさりと決定して驚いた。
でも、これでいつでも料理ができるんだと思うと、うきうきした気分に変わっていた。
社会人になってから、敬語以外で話すことなんてどれくらいあっただろうか?
実際にやってみたらもどかしくて仕方がなかった。
何だって、いつかは慣れる――と思い込むことにして、屋敷の中では砕けた話し方をして、アキレウス様を「アーク」と呼ぶことにした。
彼は、私の愛称はまだ決めかねていると言った。それは、私も急がない。そもそも私もあだ名で呼ばれたことがないから。アドバイスすらできそうもない。
その日が来ることを、どこかそわそわした気持ちで待つことにした。
数日後に、ハナコさんから呼び出される。
今回は何か食べたいものがあるわけではないと、前もって告げられた。
いつものように、アキレウス様が私を光に包み、ハナコさんのいる屋敷へと移動する。
そう言えば、最初は部屋に直接入っていたのだが、ハナコさんが元気になってからは屋敷内の別の部屋へと移動していた。緊急ではないからかもしれない。
私をハナコさんの部屋の前まで送り届けて、アキレウス様は別室で待つと言った。
「用件が終わったら、また迎えに来よう」
「かしこまりました。では、行ってきます」
アキレウス様が背を向けてどこかへと歩いていく。
私はその背を見てから、ハナコさんの部屋の扉をノックした。
中からは、ハナコさんの明るい声で入室の許可が下りた。
「シズク、元気にしていたかしら?」
「はい、おかげ様で体調は良いです」
「そう、それは良かったわ。アキレウス様と何か進展はあったの?」
唐突にハナコさんに問われて、私は「あー……」と思い出しながら、つぶやいた。
「その声だと、特に何もないのかしら」
「何もというわけではないのですが。期待されているようなことでもないです」
と、敬語をやめてくだけた話し方をするようになったことと、愛称で呼ぶことを説明した。
ハナコさんがどんな期待をしていたのか、最初は興味ありげにしていた表情も、だんだんと頭の上に疑問符がみえるような顔をしていた。
「それって、小学生か中学生くらいの子の恋愛じゃないの?もっと進展するとかないの?一緒の屋敷にいるのよね」
確かに、そうかもしれない。
私だって、恋愛小説だったら出会った時に恋が始まって、一緒の家に住むのなら気持ちが落ち着かないって思っていた。どうやら私とアキレウス様は、その状況にまだ立っていないのだ。
「私もアキレウス様も、きっとこれから変化するのだと思います」
「そうね。私はそこに期待しているわ」
私たちはハナコさんの部屋のソファに腰かけて、お互い顔が見えるように向かい合って座った。座った後、お茶やお菓子がテーブルに並ぶ。
ハナコさんがお茶を一口飲み、私も続けて飲んだ。後味がすっきりしたお茶で、飲んだ後は鼻腔に爽やかな香りが通る。
「焼き菓子もあるの。こちらはココア。こちらは今飲んでいるお茶が使われているわ」
「ありがとうございます。いただきます」
ハナコさんに勧められていただく。どちらもサクッとした食感で美味しかった。
「今度は焼き菓子を持ってきますね。カップケーキとか、ドライフルーツのロールケーキがお勧めです」
「いいわね。……そうだ、良かったらだけど菓子作り用の器具を揃えてもいいかしら?私もお菓子を作ってみたいの」
「もちろん、構いません」
「では、王子に相談してみるわね」
と、ハナコさんが言い、その次に呼ばれた時には、隣の部屋に簡易的な調理器具が揃えられていた。
魔導具を使用したコンロのようなもので、フライパンや鍋を使用する料理も作れるようになった。
どれくらい費用がかかるんだろう?
私も部屋に欲しいかも。
ハナコさんと料理をしながら考えていた。私の給料で払えるだろうか。そもそも設置するとしたらアキレウスに相談が必要ね。
思い立ったら吉日とばかりに。ハナコさんの屋敷から帰った後で、アキレウス様に話をした。
「良いだろう。少し時間はかかるけど、隣の部屋で料理ができるようにしようか」
と言った。
少し前に、屋敷の料理人がいるから、勝手に料理はできないと話をしていたから、あっさりと決定して驚いた。
でも、これでいつでも料理ができるんだと思うと、うきうきした気分に変わっていた。
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