料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ

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 ハナコさんに呼ばれて、簡易調理器でお菓子作りをすることになった。
 いつものように、アキレウスが同行してくれることになった。
 その支度の間、ふいにアキレウスが言った。

「シズクの通行証がそろそろ届くだろう」
「通行証ですか?」

 ハナコさんのところへ行くために、城内への立ち入り許可の申請などが必要だった。
 最初は緊急ということもあり、色々省いてアキレウス様が同行するという形だったのだけど……。

「婚約者となったのだ。君の立場は、ただの異世界から来た者ではない。それに、次期王妃となるハナコ様がシズクを手放さないのではないか?」

 婚約者という言葉は、未だに慣れない。
 特に大きな変化はない。でも、周りから見たら「アキレウス様の婚約者」ということになるのか。
 いつか、慣れる日が来るのだろうかと思いながら、答える。

「ハナコさんが、日々元気に過ごせるような手伝いはしたいです。私にできることは、料理か日本の話くらいですけど」
「ああ、きっとそれを望んでいる」

 アキレウス様はにかっと笑った。

「俺も望んでいるぞ。シズクが作った、焼きたてのクッキーが食べたい」
「もう……!それは、こちらの簡易調理場ができてから、いくらでも……あっ」
「いくらでも……?それは、楽しみだな」

 言質を取られてしまったが、アキレウスは美味しいと食べてくれるから……管理調理場が出来たら、最初にクッキーを作ろうと思った。
 普通のバタークッキーもいいし、紅茶葉を入れるのもいいかもしれない。

「楽しみにしてて!」
「ああ。こちらも早く完成させるように、指示してこよう」

 ◇

 ハナコさんの部屋の近くまで来て、誰かがいるのに気が付いた。

「リアトリウス様だ」

 小声でアキレウスが教えてくれる。
 リアトリウス様は、この国――アストラース――の第一王子で、ハナコさんと結婚をする。いつかお会いするとは思っていたけれど、まさかこのタイミングだなんて。
 心の準備をしていなかったが、落ち着いて頭を下げて挨拶をする。

「アキレウス、それとシズクだな。ハナコが世話になっている」
「リアトリウス様、初めてお目にかかります。シズクと申します」
「話はよく聞いている。今日は菓子を作る予定だと。出来を楽しみにしているぞ」
「かしこまりました」

 緊張しつつも、言葉を交わす。
 そして、リアトリウス様は近づいてきて、アキレウス様と向かい合った。

「そなたも身を固めると決めたのか。それとも、胃の腑を制圧されたのか?」
「殿下の申し上げた通りです」
「ははっ、私もだ」

 と言って、なぜだか二人で笑い合っていた。

 二人に促されて、ハナコさんの部屋に入る。
 いつもより装飾が少なめのワンピースを着ているハナコさんが、待っていた。

「リアトリウス様と何か話をしたの?」
「ご挨拶をさせていただきました」
「そう。クッキーの催促をされなかった?」
「ふふっ、ハナコさんが作ったものを、御所望かと思います」
「だったら上手に作らなきゃね……!」

 ハナコさんは、隣の部屋に出来た簡易調理器場について、教えてくれた。
 急に隣の部屋に作れるなんて、どういうことだろうかと思っていたけど、部屋を見てみたらすぐに理解した。
 一人暮らし用の部屋が、そのままそこにあった。
 コンロと、シンクと、それから備え付けの冷蔵庫。オーブンらしき箱は、火と風の魔導具を利用して熱を出し、加熱することができるそうだ。ハナコさんの案で、魔導具師に作らせたらしい。

「まだ一般的な価格ではなく、実用性も含めて、こちらでデータを取ることにしたの。それと、爆発したり火災にはならないから、安心して!」

 箱の後ろに、制御装置があるそうで。
 その説明も聞いたけれど、一回では覚えられそうもなかった。

「同じものを、シズクにプレゼントするわ。制作できたら、送るわ」
「ありがとうございます。楽しみです」

 アキレウスにも、報告しなくちゃ。一旦、頭のなかでメモをしておく。

 さて。
 クッキーを作り始める。
 初めて作るので、あまり難しいものではないものを思い出した。

「小麦粉が2、バターと砂糖がそれぞれ1ずつで計ります」
「それだけでいいの?」
「はい。バニラエッセンスを入れて香り付けしてもいいですし、ココアやチョコや紅茶で味をつけてもいいと思います。でも、ベースの生地は2対1対1の割合です」
「簡単ね!私にもできそう」

 数字で正確に測れたら良かったのだけど、デジタルのはかりはここにない。
 ばねの力で物の重さをはかるものがあり、そちらで計量をした。
 計った後、バターはサイコロ状にカットしておく。かたまりだと、混ぜにくいからね。
 あとは材料を順番に混ぜていくだけだ。

「私が混ぜるわ。シズクはボウルを押さえてくれる?」

 ハナコさんが木のへらを使って、バターと砂糖を混ぜていく。

「白っぽくなるまで、がんばってください」
「わかったわ、任せて!」

 ハナコさんの手つきは上手で、意外と早くバターと砂糖が混ざった。白くてやわらかいかたまりになったのを確認して、小麦粉を入れる。粉っぽさがなく、全体が混ざり合ったら、ひとつにまとめて、板の上に置く。

「生地をめん棒を使って、平らに伸ばしてください」
「これくらいかしら?」

 ハナコさんは、ぎゅーっと押しながら生地を伸ばしていく。
 所々厚みが違うけれど、それも味になりそう。うっかりちぎれてしまっても、生地をつなげたりできるし、大丈夫だ。
 クッキーの型は、調理場から借りてきた。普通の丸型と、星型があった。

「ハートとかあればいいのにね」
「確かに。えーっと、ナイフで切り抜くのもいいかもしれません」
「ナイフならあるわよ」

 ハナコさんが、引き出しからナイフを出してくれる。果物をカットするためのナイフだそうだ。

「じゃあ、私が切り抜きますね。最初はハートにしますね?」

 左右対称になるようにナイフを滑らせる。
 丸っぽいハートができて、横で見ていたハナコさんは嬉しそうにニコニコしていた。

「良かったら、他の模様もやってみましょうか?」
「いいの?猫とか、クマとかもできる?」
「あっ、だったら抱きしめるクッキーにしましょうか?」

 クマの形に切り抜いて、おなかの部分にドライフルーツを乗せる。それを、クマの両手で包み込んだ。

「いいわね、素敵!」

 ハナコさんが喜んでくれたので、私は調子に乗って、思いつくままにいろいろな形のクッキーを作った。普通の丸い形を天板の真ん中に置いて、いろいろな形のクッキーは周りに置いた。
 天板の上が、なんだか賑やかになっていた。

「それじゃあ、焼きますね?」

 オーブンの中に入れて、加熱時間のダイヤルを回す。
 時間は、予定よりもちょっと早めにしてみた。焦げるくらいなら、様子をみて、追加しようと思った。

 焼き上がりの様子を見つつ、焼き上がりまではハナコさんの部屋で過ごした。
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