Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.1 告白は突然に

Act.3-02

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「あ、ちゃんと素性を明かした方がいいね」
 私の視線に気付いたのか、男性は少し慌てた様子でジャケットの内ポケットを探る。そして、そこからパスケースを取り出し、私に名刺を一枚差し出してきた。
高遠征司たかとおせいじさん、ですか?」
 名刺にあった名前を読み上げると、男性――高遠さんは、「そう」とにこやかに頷く。
「名刺は本物だし、怪しいモンじゃないから、俺は。何ならそこに問い合わせてくれても構わないよ」
「いえ、そこまでするつもりはないですよ!」
「良かった。信じてくれるんだね?」
「はい」
 私も頷いてから、「あ、私の名前は」と言いかけた。
黒川絢くろかわあやさん、でしょう?」
 先手を打つように高遠さんが私の名前を言ってきた。
 何故、私を知っているんだろう、と怪訝に思いながら高遠さんを見つめていたら、「こういうこと」と、さらにパスケースから一枚の紙切れを取り出した。
 それはレシートだった。私のアルバイト先の書店名が一番頭に、一番下には私の名前がフルネームで印字されている。
「俺、一応ここの常連だから」
「えっ、そうだったんですかっ?」
 大学生という立場上、バイトもしょっちゅう出られるわけではないけれど、それにしても常連さんの顔を全く憶えていなかったというのは不覚だった。
「すみません……。常連さんとは知らずに……」
 恐縮せずにはいられない。
 でも、高遠さんは全く気にしている風ではなかった。
「仕方ないよ。君はたくさんの人を相手にしてるんだし、こういうただのオッサンのことをいちいち把握出来るわけないよ」
「え、オッサン……?」
「うん、オッサンだよ。今三十五だから」
「嘘っ?」
 声を上げたのとほぼ同時に、注文していたものが運ばれてきた。コーヒーはそれぞれの前に、ミックスサンドは真ん中に、フルーツパフェは私の前に置かれた。
「ごゆっくり」
 特に愛想を振り撒くこともなく、マスターはさっさとカウンターへと戻った。そして、そのタイミングを見計らったかのように、ドアのベルが鳴る。中年の男性客がひとり入って来て、迷わずカウンター席に落ち着いた。
「もしや、年相応には見えなかった?」
 高遠さんの声に、私はハッと我に返る。
「あ、はい。二十代後半か三十ぐらいかな、って」
「へえ。若く見られるのは悪い気がしないな」
 高遠さんは無邪気に喜び、コーヒーを啜った。
 私も高遠さんに倣って、コーヒーに口を付ける。期待を裏切らない、コーヒー豆のいい香りがする。コーヒーにそんなに詳しくない私でも、チェーン店のものより格段に美味しいと感じる。
 コーヒーを二口ぐらい飲んでから、私はパフェ用の長いスプーンに手をかける。チラリと高遠さんを覗ってみると、高遠さんは片肘を着いた姿勢で私をジッと見つめていた。
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