Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.1 告白は突然に

Act.3-03

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「そんなに見ないで下さい……」
 スプーンを握ったまま、高遠さんに言う。
 高遠さんは不思議そうに首を傾げている。
「どうして?」
「――恥ずかしいですから……」
「恥ずかしいの?」
「初対面の人に食べてる姿を見られるのは、ちょっと……」
「そっか、残念」
 高遠さんは微苦笑を浮かべ、それでも私の要望に素直に応じてくれた。食べようとしている私から視線を逸らし、卵サンドに手を伸ばして口に頬張る。
 そこでようやく、私もパフェにありつくことが出来た。フルーツがふんだんに詰まったパフェはちょっと食べづらい。でも、果物の甘酸っぱさと生クリームの甘さがいい塩梅で口に広がり、いっぺんに幸せな気分を味わえた。
 居酒屋でお酒も結構飲んだし、食べ物もそれなりに食べたけれど、やっぱり甘いものは別腹だ。パフェの量に正直怖気付いたものの、食べ始めると自分でも驚くほどのハイスピードで減ってゆく。不意にカロリーのことが気になるけれど、それでも食べる手を休められない。スイーツは悪魔の食べ物だ。
 一方で、高遠さんはサンドイッチを食べ続ける。よほどお腹が空いていたのか、私がパフェを半分以上食べた頃にはすでにお皿は空になっていた。
「あ、ごめん」
 高遠さんが急に謝ってきた。
 私は不思議に思いながら、「何がですか?」と首を傾げる。
「いや、君もサンドイッチを食いたかったんじゃないかって思って」
「――私、そこまで大食いじゃないです……」
 初対面なのも忘れ、つい、つっけんどんな言い方になってしまった。
 でも、やっぱり高遠さんは全く気分を害した様子はない。むしろ、「そっか」と小さく笑う。
「まあ、無理に食い過ぎるのも良くないからね。俺も今日はさすがに控えてる」
「もしかして、これが夕ご飯ですか?」
「いや、さっきあの辺の居酒屋で軽く食ってはきたよ。でも、ここに入ったとたんに急にまた腹が減ってね。ついついこいつを頼んじゃったよ」
「そうですか」
 また、愛想のない言い回しをしてしまった。悪い人ではなさそうだし、さっきの男のような下心もなさそうではあるけれど、やはり心のどこかで警戒してしまう。
 ふと、高遠さんについてまた疑問が湧いた。私のことを知っていたのは置いておいて、こんな時間に女とふたりきりでいて問題がないのだろうか。
「あの」
 私は意を決して訊いてみた。
「あなたは……、ご家族は……?」
「ん?」
「えっと、つまりですね……。その……、奥さんとか、って……」
 これは非常に大事なことだ。お互いにその気はなくても、相手が結婚していたらある意味問題がある。人によっては、今の私達の状況を誤解するかもしれない。
「ああ、そんなことを気にしてたの」
 私の心配とは裏腹に、高遠さんは呑気に笑う。そして、「いないよ」とあっさり返してきた。
「残念ながらずっと独り身。見事に婚期を逃してしまった淋しいオッサンだよ」
「――ほんと、ですか……?」
 半信半疑で重ねて問う私に対し、高遠さんは、「ほんとほんと」と半ば呆れたように笑った。
「だからなんにも気にしなくていいよ。――あ、違う意味で気にするか。君にとっては俺は初対面なわけだしね。普通に考えたら怖いよな?」
 まさか、そうです、とは言えず、「いえ」と短く答えながら首を横に振るのが精いっぱいだった。
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