Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.2 もっと知りたい

Act.3-02

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『黒川さん?』
 また押し黙ってしまった私を気にしてか、高遠さんが電話の向こうから呼びかけてくる。
 無言でいるのは失礼だ。そう思い、私は、「はい」と短くだけれど応える。
『今度、予定が空いてる日とかある?』
「――はい?」
 突拍子もない問いに、今度は間の抜けた返答をしてしまった。
 照れ隠しのつもりなのか、高遠さんはわざとらしくコホンと咳払いをし、『だからね』と続けた。
『電話より、直接逢った方が黒川さんも話しやすいかな、って。本音言うと、俺もプライベートでの電話はちょっと苦手で……』
「えっ、そうだったんですかっ? す、すみません……」
 電話が苦手な人に電話をさせてしまうとは、かえって失礼なことをしてしまった。咄嗟に謝るも、高遠さんはやはり、『気にしないで』と優しく返してくれる。
『君から誘ってもらえたのはほんとに嬉しかったから。――ただ、会話がまるっきり続かなくて悪いことをしてしまったけど……』
「それは……、私の方が悪いと……」
『いや、俺だよ。君は俺に無理に付き合ってくれてるんだから』
 まだ、変な誤解をしているらしい。無理に付き合っているつもりは全くなかったのだけど。
『また、君とゆっくり逢いたいって思ったけど……、さすがに悪いか……』
「悪くないです!」
 私は高遠さんの言葉を強い口調で遮った。自分でも驚いた。でも、ここで黙っていたら高遠さんは身を引いてしまう。それぐらい、電話の向こうの高遠さんからは消極的な雰囲気が伝わってきた。
「私、高遠さんをもっと知りたいです」
『――それ、本気で言ってる……?』
 恐る恐るといった感じで訊ねてくる高遠さんに、私は、「本気です」と答えた。
「そうじゃなきゃ、高遠さんのことは最初から無視してます。私、これでも好き嫌いがはっきりしてますから……」
『――なら、少しは期待していい、ってこと?』
 また、探るように訊かれた。
 私は少しだけ間を置き、「はい」と頷いた。
「だから、高遠さんともっとお話しとかしてみたいです。――高遠さんなら、きっと大丈夫だって気がします」
 私の言葉に、高遠さんは、『うーん……』と小さく唸った。
『信用してくれるのはありがたいけど……、ほんとに大丈夫なの……?』
「大丈夫です、きっと……」
『きっと、ねえ……』
 電話の向こうの高遠さんがどんな表情をしているは想像するしかないけれど、多分、困惑しているから眉間に皺ぐらいは寄っている気がする。
『俺のこと、怖くない?』
「怖くないです」
『ほんとに?』
「ほんとです」
『ほんとのほんとに?』
「ほんとのほんとです」
 何度も念を押され、私もとうとう苦笑いが浮かんできた。逢っている時は堂々とした大人の男性だと思ったのに、電話で会話しているとどことなく幼さが垣間見える。プライベートの電話が苦手というのは、そういう面が出てしまうからというのも、もしかしたらあるのかもしれない。
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