Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.2 もっと知りたい

Act.3-03

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 高遠さんから深い溜め息のようなものが聴こえてきた。そして、思いきったように、『じゃあ』と続けた。
『今度、メシに付き合ってくれる? 日にちはもちろん君に合わせるようにするよ』
「いいですけど……」
『――やっぱり、逢うのはダメ……?』
「いえ、そうじゃなくてですね……。私に全部合わせるというのは悪いな、って……」
『なんだ、そんなことか』
 今度は何かから解き放たれたように、高遠さんは声を上げて笑った。
『君の都合に合わせるのは当然のことだよ。君はバイトもしてる学生だ。俺よりも忙しい身だろ?』
「いや、忙しくないわけじゃないですけど……。高遠さんだって、お仕事大変でしょうから……」
『大丈夫、俺はどうにでも都合を合わせる。黒川さんのためならね』
「そう、ですか……」
 ここで遠慮したら、また高遠さんを落ち込ませてしまう。そう思い、私は高遠さんのご厚意に甘えて、自分の都合の良い日と時間を教えた。
 高遠さんは『分かった』と相槌を打つ。心なしか、嬉しそうな声だ。
『じゃあ、はっきり決めたら改めて連絡するよ。メールでもいいかな?』
「はい、メールでいいです」
『ありがとう』
「こちらこそ、ありがとうございます」
『いやいや、こちらこそ』
「いえいえ」
 こんなやり取りが続いたら、高遠さんが、プッと噴き出した。
『これじゃあキリがないな』
「ですね」
 私も釣られて笑ってしまった。しばらくふたりで電話を通して笑い合い、やがて、『さて』と高遠さんから切り出した。
『そろそろ寝ようか? 明日も早いだろ?』
「私はそうでもないです。高遠さんの方が早いんじゃないですか?」
『いつも通りだよ。九時出社』
「大変ですね……」
『大丈夫だよ。もっと早い日もあるから……。っと、また長引きそうだ』
「そうですね……」
 さっきまで電話が気まずかったのに、急に名残惜しくなる。高遠さんも同じ気持ちなのだろうか。
「今度、もっとゆっくりしましょう?」
 私が言うと、高遠さんは、『そうだね』と返してくれた。
『それじゃあ、今度こそ』
「おやすみなさい」
『おやすみ』
 私は携帯を耳から離し、通話を切った。
 とたんに、ドッと疲れが出た。緊張から解放されたからだろうか。でも、嫌な疲れではない。
 日にちは未定だけれど、逢う約束をした。仕事終わりの時なのか、それとも、休みの日なのか。
 高遠さんに逢えることが楽しみな自分がいる。まだ、緊張はするかもしれない。でも、今日よりは高遠さんとまともにお話し出来そうな気がする。
 私はベッドから降りた。とっくに日付が変わり、寝なくてはならないのに、変に目が冴えてしまった。
 クローゼットを開け、服を漁る。少しでも可愛く見せたい。そんなことを思いながら、自分のお気に入りを出しては合わせてみた。
 逢いたい、という感情が恋と言うなら、私は高遠さんに恋しているのかもしれない。ただ、簡単に言葉に出来るものでもない。
 とにかく、少しずつでも高遠さんのことを知ることから始める。確信はまだ持てない。それでも、高遠さんを知れば知るほど、もっと好きになれそうな気がしている。

【Chapter.2-End】
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