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Chapter.3 分かっているつもり
Act.1-01
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「絢、最近どうしたの?」
突然七緒に言われ、私は缶ビールに口を付けたまま止まってしまった。
七緒はニコニコしながら続ける。
「ここ数日だけで雰囲気変わったな、って。何かいいことでもあったのかと思ってね」
「まさか男かっ?」
すかさず割り込んできたのは佳奈子だった。
私は肯定も否定もせず、苦笑いしながらビールを喉に流し込む。
今、私達は七緒のアパートにいる。七緒は昨年の三月から一人暮らしを始め、それから月に最低一度はこうして彼女のアパートで三人で飲んだりしている。悪いな、と思うこともあるのだけど、七緒的には私と佳奈子が遊びに来ることは大歓迎だからと言ってくれる。
もちろん、手ぶらで来ることはない。佳奈子はアルコールを、私は余裕があれば簡単でも手料理を作って持ってくる。
今日も私は手料理を持参した。昨日の夜から仕込んでいた筑前煮で、我ながら非常に渋いものだけど、持ってくればふたりは必ず美味しいと食べてくれる。
「絢の料理は最高だわ」
そうやって褒めてくれる七緒こそ、料理は上手い方だと思う。どんなに切羽詰まっても必ず一品は手料理を用意してくれるし、実際にどれも美味しい。お菓子作りも上手だし、七緒の彼氏になる人は幸せだろう。今はフリーだけれど。
とにかく、女三人で過ごす時間はとても楽しい。彼氏が出来た佳奈子も、この恒例行事は大事だと思っているらしく、しっかり時間を作ってくれる。
「で、結局のトコどうなのよ?」
ビール缶を握り締めながら、佳奈子が私の顔を覗き込んでくる。
「男が出来たか? ん? 正直に言いな。ここで隠しごととかはなしだぞ?」
じわじわと迫って来る佳奈子が怖い。自分でも片頬が引きつっているのが分かる。
私は一瞬、七緒に救いを求めようとした。でも、そもそも話を切り出してきたのは七緒だ。
案の定、七緒に視線を送ると不気味なほどにニコニコしたままだ。観念しなさい、と言わんばかりに何度も頷いてくる。
私は大仰な溜め息を漏らし、おもむろに口を開いた。
「出来た、ってゆうのとはちょっと違う気がするけど……」
ふたりを覗ってみれば、見事なまでに目を爛々と輝かせている。待ってました、とばかりに。
「なんか……、告白的なのされた……」
「マジかっ?」
さらに身を乗り出してくる佳奈子。
「で、相手は誰よ? 私らが知ってる奴かっ?」
「いや」
「絢は相手を知ってたの?」
「ウチのバイト先の常連みたいだけど、私は特に気にしたことがなかったから……」
「へえーっ。客として来てて絢に一目惚れしちゃったってやつ?」
「まあ、そうなるの、かな……?」
「かあーっ! ニクい女だねえこのっ!」
佳奈子の手が容赦なく私の背中をバシバシ叩いてくる。まだ飲み始めてそんなに経っていないはずなのに、すでに酔っ払いと化している。
「確かに、絢ってそこにいるだけで男子の目を引いてしまうんだよね」
まだ冷静な七緒が淡々と続けた。
「本人は別にその気がないのに、相手が勝手に変な勘違いしちゃって。この間の合コンもいい例だったよね。あいつ、何故か妙な自信を持って絢を追っ駆けてったけど。ぶっちゃけ、あいつとどうこうならなくて良かったって私は思ってるよ。なーんか危険な臭いがプンプンしまくってたもん」
七緒の言葉に、佳奈子が「えっ」と反論した。
「あの子でしょ? 別にただ一途なだけじゃなかった?」
「一途も度が過ぎると怖いんだよ。一歩間違えればああゆうのはストーカーになるんだよ?」
「そうかなあ……?」
「あなたはもう少し見る目を養った方がいい」
「なによそれ? 今の彼氏まで否定されてる気がするんだけど?」
「そこまで言ってない」
ふたりがヒートアップしてきた。このまま放っておけば話題が逸れるから幸いと言えば幸いなのだけど、掴み合いの喧嘩になりそうな勢いだったら慌てて止めに入った。
突然七緒に言われ、私は缶ビールに口を付けたまま止まってしまった。
七緒はニコニコしながら続ける。
「ここ数日だけで雰囲気変わったな、って。何かいいことでもあったのかと思ってね」
「まさか男かっ?」
すかさず割り込んできたのは佳奈子だった。
私は肯定も否定もせず、苦笑いしながらビールを喉に流し込む。
今、私達は七緒のアパートにいる。七緒は昨年の三月から一人暮らしを始め、それから月に最低一度はこうして彼女のアパートで三人で飲んだりしている。悪いな、と思うこともあるのだけど、七緒的には私と佳奈子が遊びに来ることは大歓迎だからと言ってくれる。
もちろん、手ぶらで来ることはない。佳奈子はアルコールを、私は余裕があれば簡単でも手料理を作って持ってくる。
今日も私は手料理を持参した。昨日の夜から仕込んでいた筑前煮で、我ながら非常に渋いものだけど、持ってくればふたりは必ず美味しいと食べてくれる。
「絢の料理は最高だわ」
そうやって褒めてくれる七緒こそ、料理は上手い方だと思う。どんなに切羽詰まっても必ず一品は手料理を用意してくれるし、実際にどれも美味しい。お菓子作りも上手だし、七緒の彼氏になる人は幸せだろう。今はフリーだけれど。
とにかく、女三人で過ごす時間はとても楽しい。彼氏が出来た佳奈子も、この恒例行事は大事だと思っているらしく、しっかり時間を作ってくれる。
「で、結局のトコどうなのよ?」
ビール缶を握り締めながら、佳奈子が私の顔を覗き込んでくる。
「男が出来たか? ん? 正直に言いな。ここで隠しごととかはなしだぞ?」
じわじわと迫って来る佳奈子が怖い。自分でも片頬が引きつっているのが分かる。
私は一瞬、七緒に救いを求めようとした。でも、そもそも話を切り出してきたのは七緒だ。
案の定、七緒に視線を送ると不気味なほどにニコニコしたままだ。観念しなさい、と言わんばかりに何度も頷いてくる。
私は大仰な溜め息を漏らし、おもむろに口を開いた。
「出来た、ってゆうのとはちょっと違う気がするけど……」
ふたりを覗ってみれば、見事なまでに目を爛々と輝かせている。待ってました、とばかりに。
「なんか……、告白的なのされた……」
「マジかっ?」
さらに身を乗り出してくる佳奈子。
「で、相手は誰よ? 私らが知ってる奴かっ?」
「いや」
「絢は相手を知ってたの?」
「ウチのバイト先の常連みたいだけど、私は特に気にしたことがなかったから……」
「へえーっ。客として来てて絢に一目惚れしちゃったってやつ?」
「まあ、そうなるの、かな……?」
「かあーっ! ニクい女だねえこのっ!」
佳奈子の手が容赦なく私の背中をバシバシ叩いてくる。まだ飲み始めてそんなに経っていないはずなのに、すでに酔っ払いと化している。
「確かに、絢ってそこにいるだけで男子の目を引いてしまうんだよね」
まだ冷静な七緒が淡々と続けた。
「本人は別にその気がないのに、相手が勝手に変な勘違いしちゃって。この間の合コンもいい例だったよね。あいつ、何故か妙な自信を持って絢を追っ駆けてったけど。ぶっちゃけ、あいつとどうこうならなくて良かったって私は思ってるよ。なーんか危険な臭いがプンプンしまくってたもん」
七緒の言葉に、佳奈子が「えっ」と反論した。
「あの子でしょ? 別にただ一途なだけじゃなかった?」
「一途も度が過ぎると怖いんだよ。一歩間違えればああゆうのはストーカーになるんだよ?」
「そうかなあ……?」
「あなたはもう少し見る目を養った方がいい」
「なによそれ? 今の彼氏まで否定されてる気がするんだけど?」
「そこまで言ってない」
ふたりがヒートアップしてきた。このまま放っておけば話題が逸れるから幸いと言えば幸いなのだけど、掴み合いの喧嘩になりそうな勢いだったら慌てて止めに入った。
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