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Chapter.4 触れて、側にいて
Act.2-02
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「どこか寄りたいトコとかある?」
気を遣ってくれているのか、高遠さんが訊いてくる。
私は高遠さんのアパートに行くこと以外は全く考えていなかったから、「いいえ」と首を振った。
「特にはないです。高遠さんが寄りたいトコがあるならお付き合いしますけど?」
「いや、俺も特にないな。今日はとことん、君とふたりだけの時間を過ごすって決めてたからね」
高遠さんとしては特に深い意味を籠めて口にしたわけじゃないと思う。けれど、『とことん、ふたりだけの時間を過ごす』という台詞が私の心臓を跳ね上がらせた。
高遠さんは私の嫌がることは決してしないと言っていた。今までのことも考え、それは嘘じゃないと信じている。
私の気持ちを慮ってくれているのか、手を繋ぐこともしない。でも、それぐらいは拒否するつもりはなかった。むしろ、いつ触れてくれるのかと心のどこかでは思い続けていた。
私は運転する高遠さんに視線を注ぐ。ハンドルを握る男性はカッコ良く映る、と佳奈子が常々言っていたけれど、今、それを改めて実感していた。
ちょっとずつ、私の知らない高遠さんの素顔が見えてくる。今は高遠さんのプライベートを私が独占している。
ただ、高遠さんの全てを知っているわけじゃない。私と出逢う前、他の女性を隣に乗せていたのだろうか、とか不意に考え、心の中がモヤモヤしてくる。
「どうした?」
前を見たまま、高遠さんが訊ねてくる。
「ずーっと俺の顔を見てるみたいだけど?」
私は慌てて顔を逸らした。でも、もう遅い。
「何でもないです」
そう答えるのが精いっぱいだった。まさか、変な妄想をした揚げ句、ひとりで勝手にモヤモヤしてしまったなんて口が裂けても言えない。
「ほんとに何でもないの?」
無言を貫き通せば引き下がってくれると思っていたのに、なおも問い質してくる。
私はどう返そうか悩み、結局、「高遠さんに、見惚れてしまって……」と口にした。
「珍しいな。君がそんなことを言うなんて」
案の定と言うべきか、まるっきり信じてもらえていない。確かに、ある意味口から出任せではある。けれど、運転する高遠さんの横顔が凛々しく思えたのは決して嘘ではない。
「――ちょっと、カッコいいな、って思いました……」
言いながら、このまま恥ずかし過ぎて死んでしまうのではと思った。でも、知らない高遠さんの過去に嫉妬していたことを悟られてしまうよりは、まだ良かったかもしれない。そう自分に言い聞かせる。
「カッコいいなんて初めて言われたよ」
高遠さんは笑っている。いつもと変わらない笑顔だけど、何となく照れているように感じるのは気のせいだろうか。
「もしかして、照れてたりしますか?」
改めて高遠さんに向き直り、訊いてみた。
高遠さんは一呼吸置いてから、「そうだね」と頷く。
「君に言われると違うな。多分、これが他の奴だったら何とも思わなかっただろうね。むしろ、イラッとしそうだ」
「――私だと、イラッとしたりしないんですか……?」
「するわけないだろ? 君に褒められたりしたら嬉しくて堪らない。もっといいトコを見せてやりたいって思うよ」
「別にそのままでも充分だと思いますけど?」
「その台詞、そっくりそのまま君に返すよ」
予想外の返しに、私はポカンと口を開けたまま絶句してしまった。
高遠さんはそんな私を一瞥し、口の端を上げて前に視線を戻した。
「面白いな、君は」
そう言って、クツクツと小さく声を上げて笑った。
気を遣ってくれているのか、高遠さんが訊いてくる。
私は高遠さんのアパートに行くこと以外は全く考えていなかったから、「いいえ」と首を振った。
「特にはないです。高遠さんが寄りたいトコがあるならお付き合いしますけど?」
「いや、俺も特にないな。今日はとことん、君とふたりだけの時間を過ごすって決めてたからね」
高遠さんとしては特に深い意味を籠めて口にしたわけじゃないと思う。けれど、『とことん、ふたりだけの時間を過ごす』という台詞が私の心臓を跳ね上がらせた。
高遠さんは私の嫌がることは決してしないと言っていた。今までのことも考え、それは嘘じゃないと信じている。
私の気持ちを慮ってくれているのか、手を繋ぐこともしない。でも、それぐらいは拒否するつもりはなかった。むしろ、いつ触れてくれるのかと心のどこかでは思い続けていた。
私は運転する高遠さんに視線を注ぐ。ハンドルを握る男性はカッコ良く映る、と佳奈子が常々言っていたけれど、今、それを改めて実感していた。
ちょっとずつ、私の知らない高遠さんの素顔が見えてくる。今は高遠さんのプライベートを私が独占している。
ただ、高遠さんの全てを知っているわけじゃない。私と出逢う前、他の女性を隣に乗せていたのだろうか、とか不意に考え、心の中がモヤモヤしてくる。
「どうした?」
前を見たまま、高遠さんが訊ねてくる。
「ずーっと俺の顔を見てるみたいだけど?」
私は慌てて顔を逸らした。でも、もう遅い。
「何でもないです」
そう答えるのが精いっぱいだった。まさか、変な妄想をした揚げ句、ひとりで勝手にモヤモヤしてしまったなんて口が裂けても言えない。
「ほんとに何でもないの?」
無言を貫き通せば引き下がってくれると思っていたのに、なおも問い質してくる。
私はどう返そうか悩み、結局、「高遠さんに、見惚れてしまって……」と口にした。
「珍しいな。君がそんなことを言うなんて」
案の定と言うべきか、まるっきり信じてもらえていない。確かに、ある意味口から出任せではある。けれど、運転する高遠さんの横顔が凛々しく思えたのは決して嘘ではない。
「――ちょっと、カッコいいな、って思いました……」
言いながら、このまま恥ずかし過ぎて死んでしまうのではと思った。でも、知らない高遠さんの過去に嫉妬していたことを悟られてしまうよりは、まだ良かったかもしれない。そう自分に言い聞かせる。
「カッコいいなんて初めて言われたよ」
高遠さんは笑っている。いつもと変わらない笑顔だけど、何となく照れているように感じるのは気のせいだろうか。
「もしかして、照れてたりしますか?」
改めて高遠さんに向き直り、訊いてみた。
高遠さんは一呼吸置いてから、「そうだね」と頷く。
「君に言われると違うな。多分、これが他の奴だったら何とも思わなかっただろうね。むしろ、イラッとしそうだ」
「――私だと、イラッとしたりしないんですか……?」
「するわけないだろ? 君に褒められたりしたら嬉しくて堪らない。もっといいトコを見せてやりたいって思うよ」
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