Blissful Kiss

雪原歌乃

文字の大きさ
36 / 74
Chapter.5 嫌いにならないで 

Act.2-01

しおりを挟む
 午後八時、休講だった私は午後二時からバイトに来ていた。その分、学校がある日よりも早く上がることが出来た。
「平日に黒川ちゃんと一緒に早く上がれるなんてねえ」
 隣でエプロンを外しながら、里衣さんが笑顔で言う。里衣さんもまた午後から休講だったとのことで、午後四時から出勤して同じ時間に上がった。
「ねえ黒川ちゃん」
 エプロンを畳み、バッグを肩にかけてから、里衣さんが、「これから時間ある?」と訊ねてきた。
「時間、ですか……?」
 当然、私は怪訝に思う。何だろうと首を傾げていると、里衣さんがおもむろに口を開いた。
「もし良かったら、これから一緒にご飯食べようよ。まだ時間も早いし。友達も一緒なんだけど、別に気兼ねするような相手じゃないから」
「はあ……」
 私は曖昧に返事することしか出来なかった。ご飯に誘ってくれたのは素直に嬉しい。でも、私の知らない友達も一緒というのがどうしても解せない。
「もしかして、先約があったりする?」
「いえ、ないですけど……」
「じゃあ決まり! 黒川ちゃんもまだ大丈夫でしょ? ほら、早速行こ!」
 断ろうとしていたのに押しきられてしまった。里衣さんは落ち着いているようでいて、時に急に強引さを見せるから、そういう点はちょっと苦手だった。
 ただ、はっきりしなかった私も悪い。そう思い直し、仕方なしに着いて行くことにした。

 ◆◇◆◇

 書店を出て、私と里衣さんは一緒に飲み屋街へと足を運んだ。ご飯となるとその辺だろうと予想はしていたからさほど驚きはしなかった。
「多分、友達も来てるはずだから」
 そう言いながら、チェーン店の飲み屋に入る。そこは以前、無理矢理合コンに連れて来られた揚げ句、嫌な思いをした店だった。でも、そんなのは過去の話だし、あの男と関わることはないと思っていた。
 とはいえ、心のどこかでは憂鬱さが増していた。あいつに鉢合わせしないようにと強く祈り、私は里衣さんのあとを着いて行く。
「いらっしゃいませ!」
 店に入るなり、私達の前に従業員が威勢良く駆け付けて来た。
「予約の野嶋のじまですけど」
「野嶋さまですねっ? あちらでお待ちでございます!」
 そう私達に告げてから、「ご予約のお客さま、二名様入りまーす!」と声を上げる。
 里衣さんは相変わらずスタスタと従業員に続く。
 私はまるっきり状況が掴めないでいるから、やはり黙って着いて行くしかなかった。
「こちらです!」
 案内されたのは、四人掛けの小さな個室だった。
「お待たせ」
 開けられた襖から里衣さんは先客に挨拶する。
 私は入るのを躊躇っていたのだけど、里衣さんに、「ほら入って!」と背中を押され、ゆっくりと足を踏み入れる。
 私が奥側に座ってから、里衣さんも並んで座る。きっちりと仕切られた空間だから、席を外す時は里衣さんに声をかけないと身動きが取れない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...