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Chapter.5 嫌いにならないで
Act.4-01
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言われた通り、私は駅で高遠さんが来るのを待っていた。外にいるよりは寒さを凌げるものの、それでも黙って立っていると冷えてくる。
初めて高遠さんと逢った頃のことを考えると信じられない気持ちだった。興味は抱いていても警戒心を解くことは出来なかったから、どれほど不安があってもこうして救いを求めることなんてなかったと思う。
でも、今はどうしようもなく高遠さんが恋しい。キスだけでは足りない。もっと私を抱き締めてほしいとさえ思ってしまう。
「絢!」
しばらく同じ場所で佇んでいると、私を呼ぶ声が聴こえてきた。
弾かれたようにそちらに視線を向けてみれば、高遠さんがなりふり構わず私の元へと駆け寄って来る。
私の足も自然と高遠さんへと向いていた。駅には人がいる。でも、そんなことも全く気にせず、私は高遠さんの身体に飛び込んだ。
「ごめん。待たせてしまったね?」
抱き着く私の頭をポンポンと叩きながら、高遠さんは優しく声をかけてくれる。
「何かあったの?」
高遠さんの問いに、私はただ首を振ることしか出来なかった。でも、私が急に電話をしてきたことで、ただごとではないと思ったに違いない。
「――俺のトコに来る?」
少し躊躇いながら高遠さんが訊ねてくる。
私は今度は首を縦に動かした。迷いは全くなかった。
高遠さんはそっと身体を離した。そして、代わりに私の手に高遠さんのそれを絡めてくる。
直に伝わってくる高遠さんの温もりに、私はこの上ない安堵感を覚えた。高遠さんへの愛おしさも込み上げ、もっと触れてほしいとさらに強く思った。
◆◇◆◇
なりゆきとはいえ、急に高遠さんのアパートへ来ることになるとは考えもしなかった。しかも夜だから、日中に来た時以上に緊張が増す。
「適当に座って」
高遠さんに言われ、私は少し遠慮したものの、先ほどのことで疲れも増していたので素直に座った。
高遠さんはその間、ファンヒーターとコタツに電源を入れる。そして、隣室でコートを脱ぎ、スーツ姿のままで戻って来た。
「コーヒーでも作るね」
そう言って、高遠さんは台所へ向かう。
高遠さんが台所で作業をしている間、私はコートを脱いで軽く畳んで隣に置いた。
改めて部屋の中を眺めてみると、ファンヒーターとコタツの他に、テレビとナチュラルカラーのカラーボックスがふたつ置いてある。カラーボックスの中には仕事関連と思われる書籍、一番上にはノートパソコンとプリンターが鎮座している。
これが大人の男性の部屋なんだな、と思う。弟の侑大も男だけど、高遠さんの部屋と違って無駄に物が多い。漫画も整理しきれずに山積みになっていて、よく母親に叱られている。
「何か珍しいものでもあった?」
高遠さんの声に、私はハッと我に返った。見上げてみれば、高遠さんは両手に不揃いのマグカップを持っている。
「砂糖とミルク使う?」
カップをコタツの上に置きながら訊ねてくる。
私は、「出来れば」と答えた。さすがにブラックは苦手だ。
「分かった。今持ってくる」
高遠さんは小さく笑みを浮かべ、再び台所へ戻った。そして、すぐにスティックタイプの砂糖とポーションのミルクを持ってきてくれた。
初めて高遠さんと逢った頃のことを考えると信じられない気持ちだった。興味は抱いていても警戒心を解くことは出来なかったから、どれほど不安があってもこうして救いを求めることなんてなかったと思う。
でも、今はどうしようもなく高遠さんが恋しい。キスだけでは足りない。もっと私を抱き締めてほしいとさえ思ってしまう。
「絢!」
しばらく同じ場所で佇んでいると、私を呼ぶ声が聴こえてきた。
弾かれたようにそちらに視線を向けてみれば、高遠さんがなりふり構わず私の元へと駆け寄って来る。
私の足も自然と高遠さんへと向いていた。駅には人がいる。でも、そんなことも全く気にせず、私は高遠さんの身体に飛び込んだ。
「ごめん。待たせてしまったね?」
抱き着く私の頭をポンポンと叩きながら、高遠さんは優しく声をかけてくれる。
「何かあったの?」
高遠さんの問いに、私はただ首を振ることしか出来なかった。でも、私が急に電話をしてきたことで、ただごとではないと思ったに違いない。
「――俺のトコに来る?」
少し躊躇いながら高遠さんが訊ねてくる。
私は今度は首を縦に動かした。迷いは全くなかった。
高遠さんはそっと身体を離した。そして、代わりに私の手に高遠さんのそれを絡めてくる。
直に伝わってくる高遠さんの温もりに、私はこの上ない安堵感を覚えた。高遠さんへの愛おしさも込み上げ、もっと触れてほしいとさらに強く思った。
◆◇◆◇
なりゆきとはいえ、急に高遠さんのアパートへ来ることになるとは考えもしなかった。しかも夜だから、日中に来た時以上に緊張が増す。
「適当に座って」
高遠さんに言われ、私は少し遠慮したものの、先ほどのことで疲れも増していたので素直に座った。
高遠さんはその間、ファンヒーターとコタツに電源を入れる。そして、隣室でコートを脱ぎ、スーツ姿のままで戻って来た。
「コーヒーでも作るね」
そう言って、高遠さんは台所へ向かう。
高遠さんが台所で作業をしている間、私はコートを脱いで軽く畳んで隣に置いた。
改めて部屋の中を眺めてみると、ファンヒーターとコタツの他に、テレビとナチュラルカラーのカラーボックスがふたつ置いてある。カラーボックスの中には仕事関連と思われる書籍、一番上にはノートパソコンとプリンターが鎮座している。
これが大人の男性の部屋なんだな、と思う。弟の侑大も男だけど、高遠さんの部屋と違って無駄に物が多い。漫画も整理しきれずに山積みになっていて、よく母親に叱られている。
「何か珍しいものでもあった?」
高遠さんの声に、私はハッと我に返った。見上げてみれば、高遠さんは両手に不揃いのマグカップを持っている。
「砂糖とミルク使う?」
カップをコタツの上に置きながら訊ねてくる。
私は、「出来れば」と答えた。さすがにブラックは苦手だ。
「分かった。今持ってくる」
高遠さんは小さく笑みを浮かべ、再び台所へ戻った。そして、すぐにスティックタイプの砂糖とポーションのミルクを持ってきてくれた。
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