Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.6 好きだから

Act.4-01

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 食事を終え、後片付けも済ませてから、私と高遠さんは食後のコーヒーを飲んで一息吐いていた。コーヒーは高遠さんが淹れてくれた。「インスタントで申しわけない」と言われたけれど、高遠さんが作ってくれたことが私は何より嬉しかったし、いつもより美味しく感じられた。
 そういえば、私がご飯を作っている間、高遠さんは会社から持ち込んだという仕事をしていた。こんなにまったりしていて大丈夫なのだろうか。
「あの、高遠さん……?」
 私はおずおずと訊ねた。
「お仕事、しないんですか……?」
 高遠さんはカップに口を付けたまま私を凝視し、それから、「ああ」と微苦笑を浮かべながらカップをコタツに戻した。
「心配してくれてるの? ありがたいけどいいんだよ」
「――いいんですか……?」
「いいよ。てか、今は絢と一緒にいる時間を大事にしたい」
 気を遣ってくれているのだろうか。だとしたら申しわけない。
「別に私に気を遣わなくてもいいんですよ?」
 私の言葉に、高遠さんは困ったように肩を竦めて見せた。
「気を遣うとかそういうのじゃないよ。仕事をしてたんじゃ、絢をじっくり見られないだろ?」
 そう言うと、私の身体は高遠さんへと引き寄せられた。
「こうして抱き締めることも出来ない。そんなのおかしいだろ?」
「――わ、分かりません……」
 高遠さんに抱き締められるのは初めてじゃないのに、まだ慣れない。動悸も激しくなる一方だから離れたいのだけど、高遠さんの腕力は強過ぎる。
「高遠さん、ちょっと苦しいかも……」
「でも、力を緩めたら逃げちゃうだろ?」
「逃げませんよ……」
「嘘だな。必死で身じろぎしてる。ダメだよ。しばらく絢は解放してあげない」
 高遠さんらしからぬ台詞だった。驚いた私は瞠目して高遠さんを軽く睨んでしまった。
 そんな私に、高遠さんは口の端を上げながら穴が空くほど視線を注いでくる。
「俺もね、決して聖人君子じゃない。所詮は普通の男だよ。好きな子の前では特にね」
 自嘲するように言い、高遠さんは私の唇を塞いだ。先ほどの優しい口付けとは違い、窒息してしまいそうなほどの激しいキスだった。
 初めてのキスのことが頭を過ぎる。あの時はキスより先に進むことはなかったけれど、今日はどうなるだろう。私が本気で拒否すれば、高遠さんはきっとキスだけで止めてくれる。でも、拒まなかったとしたら……?
 怖い。でも、もっと大人の世界を知りたい。どうしようもなく疼く私の身体を高遠さんに鎮めてほしい。
「絢」
 唇を離し、高遠さんが掠れ気味な声音で耳元に囁いてくる。
「絢の〈初めて〉を俺にくれる?」
 高遠さんは私を求めている。キスだけじゃない。私の〈全て〉を。
 私は少し間を置き、小さく頷いた。まだ恐怖心は残っているものの、身体は意思に反して素直だった。
「もう、後戻りはしないよ。いいね?」
 高遠さんが念を押してくる。
 私は覚悟を決めた。いずれこうなることは、私も薄々と分かっていた。
「私を、高遠さんで満たして下さい……」
 私が告げると、ふわりと身体が宙に浮いた。否、私は高遠さんに抱き上げられていた。
 私を横抱きしたまま、高遠さんは隣室へと入る。前に来た時にも目に入ったベッド。私はこれからそこで高遠さんに抱かれる。妄想ではなく現実として。
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